◆◇◆旅立ち②◆◇◆
それから数日が立つと雪が降り始め、本格的な冬がやって来た。
猫の記憶がそうさせるのかルルルは一日中暖炉の前から離れられない。
ライシャは呑気そうに毎日お腹いっぱい食べては寝ていて、アーリアから“牛になるぞ”と言われている。
秋に採った食料や薪は十分あるし、この雪だと麓に続く道も塞がっているだろうからミカールの手下たちが来る事も無いだろう。
僕は毎日糸を紡ぎライシャはそれを染め、アーリアははたを織りルルルは出来上がった反物に針を通して服や靴、リュックを作ってのんびりと春が来て旅に出る準備をして暮らした。
長い冬が終わり、春が来た。
溜めていた食料の残りを、冬の間に作ったリュックに詰め、新しい服と靴を身に付けて家を出た。
またここに戻って来るのか、それとも違う土地で暮らすことになるのかは分からない。
「もう少し暖かくなってからでも良かったんじゃないか?」
ルルルが名残惜しそうに家を振り返って言った。
「ああ、本当なら、もう十日ほど後の方が良いんだが……」
「じゃあ、そうしましょうよ」
「駄目だ!」
出発を後らせたいと言うルルルの言葉を、アーリアが否定する。
「あと十日もすれば、道に積もった雪は完全になくなる。そうすれば中断していたミカールの追手も、ここにたどり着くだろう」
「来てから逃げればいいじゃん」
「敵との距離が近いのはマズイ。そうだろカイ」
「ああ」
さすがに狼の血が入っているだけの事はある。
狼が狙うのは鹿の群れが多い。
大型の草食動物は、それ1匹で群れのお腹を潤す。
しかし狼たちは、反撃を避けるため、獲物を直ぐには襲わない。
獲物に対して、常に自分たちの気配を感じさせながら何日も追跡する。
常に狙われている恐怖心で、鹿たちは落ち着いてエサを食べたり水を飲むことも、ゆっくりと眠る事も出来ない。
そうして追われているうちに、一番体力の弱いものが群れから離れだし、そのタイミングで狼たちは獲物を襲う。
つまり俺たちも、追手との距離が近ければ、常に追われているというストレスを受けることになる。
ストレスは色々な判断を鈍らせるばかりでなく、仲間に対しての不信感も生まれる。
だから出来るだけ追手との距離は開けておきたいのだ。




