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◆◇◆旅立ち①◆◇◆

 アーリアを先に風呂に入れて、僕は外で薪をくべていた。

「湯加減は、どう?」

「ありがとう。丁度いいわ。先に入れてもらって御免なさい」

「いいよ、気にしないでゆっくり旅の疲れを落として。僕はいつも烏の行水みたいなものだから」

「あら、カイだって旅で疲れたでしょう。ゆっくり温まったら良いじゃない」

「僕の疲れは大したことはないし、それにお風呂のお湯よりも、アーリアに温めてもらう方が疲れが取れる」

「もう……駄目よ。ルルルとライシャが来ているんだから」

「じゃあ、二人っきりになるまで、しばらくオアズケにしておくしか仕方ないな」

「そうね」

 湯船のお湯が揺れる音が聞こえる。

 その優しく暖かな音を聞いて、あらためて僕はアーリアを好きになっている事への幸せを感じていた。

 ルルルとライシャが無事に居てくれて、こうして再び出会えたのは嬉しい。

 でもそれは従兄妹や友達が泊まりに来た感覚。

「これから、どうするの?」

「冬の間はここに居て、春になったら旅に出ようと思う」

「どこかに行っちゃうの?」

「いや、みんなで旅に出る。今はミカールの捜索の手から逃れられているけれど、春になればもっと本格的に捜索隊を繰り出してくると思うんだ。今回捜索を逃れたこの場所は特にね」

「そうね、でもどこに行く?」

「できれば、もう一人のユーラシウスの情報も集めたい」

 人間に変化したサルたちを武装させてまで俺たちを探している事をハッキリと見てしまった以上、アーリアから聞いた彼の悪い噂は疑う余地がないと言ってもいいだろう。

 ミカールと会って話をしない以上、彼の真意は分からないが、ワザワザ出向いて自ら捕まえられるのは避けたい。

 それよりも先に、ユーラシウスが信用に値する人間なのかが知りたい。

 彼もまた、風の噂で僕の事は知っている可能性はある。

 彼が人間として今も生きているとしたら、人間がこの世界に来た情報には神経をとがらせているはずで、僕以上に僕の存在は気になっているはず。

 もしかしたら、彼は既に僕の居場所を見つけて、誰かに見張らせているのかも知れない。

 僕たちは彼の作ったこの家に住んで居るのだし、ここには彼が助けて育てたアーリアも居る。

 ユーラシウスと言う人間を考えるうえで、そのアーリアは見本になる。

 彼女は本当の両親は知らない。

 彼女が旅に出られるようになるまで育てたのはユーラシウス自身。

 彼女の心は、その影響を受けているはず。

 アーリアにとって、ユーラシウスは父親に等しいから、決して彼の事は悪く言わないだろう。

 疑うわけではないけれど会う前に色々と自分の目と耳で確かめておかなければ、いざ会ってしまったときに、どうにもならない事も起こり得るはずだ。

「どうしたの?急に黙ってしまって」

 僕が考え事をしていると、アーリアがお風呂の窓から顔を出して聞いた。

 すっかりお風呂で綺麗になり、温まって血行の良くなった頬がピンク色に染まり、体から湯気が立ち上っていた。

 綺麗で可愛らしくて、ツヤツヤで艶めかしい。

 僕は立ち上がると、返事の代わりにキスをした。

 長い、長い、キス。

 ミカールやユーラシウスの事はもう頭の隅にも無い。

 今は、アーリアの事が全て。

 それが一番、大切な事。

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