◆◇◆再会◆◇◆
敵が去った後、ばら撒かれた剣と防具を確認した。
捨てられたものは武具だけではなくて地図もあった。
おそらくこれが今日最大の収穫物。
武具も調べてみたけれど、剣は加工のしやすい銅の剣と、大型の動物の骨を削って作った剣もどき。
防具の方も彼らが言っていた通り、木の皮を漆で固めてそれらしいようには見せているが、石つぶてなどに耐える程度の物だった。
貧弱な装備は仕方ないとしても、問題はその士気の低さ。
僕たちにとって、この事は好都合なのだけど、おそらくミカールが自分以外の人間を恐れる理由もそこにあると思った。
僕たちの装備なら、この程度の小部隊相手には勝つことは難しくないだろう。
でも戦うことに何の意味もない。
「どうする?」
僕はアーリアに聞いた。
このまま先に行って、もっと情報を集めるか、それとも引き返すか。
アーリアも拍子抜けしたのか「この程度の敵なら、家までの道を少しだけ困難なものにしておけば来そうにないね。帰りましょう」
僕たちの意見は同じだった。
地図に載っている町に行けば沢山の情報が手に入るし、ひょっとしたらアーリアに新しい服を買ってあげられるかも知れない。
けれどもその代り、僕たちの事もミカールに知れる事にもなりかねない。
得るものに比べてリスクが大きすぎる。
僕たちは来た道を戻りながら、木を切り倒したり、崖を崩したりして道を潰していった。
僕たちがこの道を通る事は、もうないだろう。
だから容赦なく、この道から僕たちのところにも誰も来られないようにした。
一週間ぶりに家の近くまで来ると、何だか様子がおかしい。
ほのかに煙の臭いがする。
“山火事?それとも……”
僕たちは走った。
ひょっとしたら僕たちは罠にかかったのかも知れない。
あの偵察隊は、ただの時間稼ぎで、その間に本隊が僕たちの家を発見した。
家の見える所まで着くと、木の陰から用心深く家の周囲を探る。
風呂場の煙突から煙が出ている。
家に火がつけられたのではなくて、少し安心した。
でも、一体誰だろう?
バッファたちかホークさんか……いや二人とも俺たちの家を勝手に使うほど図々しくはないし、もしもバッファなら手下を見張りに立てているはずだ。
相手の手掛かりも人数も分からないので、しばらく見ていた。
するとボロボロの服を着た、やけに背の高い男が何だか文句を言いながら外に出てきて、風呂のかまどに新しい薪を入れて、中の奴に話しかけていた。
“二人組か?”
腰を曲げてドアから出てきたくらいだから、そうとうな背の高さだけど、ブツブツ文句を言っているということは中に居る奴はそれ以上にデカいのか?
「どうする?」
アーリアを見ると、彼女はもうどうするのかとっくに決めているようだった。
「行きましょう。いつまで待っていてもきりがないわ。それにあの家は私たちの家よ!」
そう言うとスタスタと家に向かって歩き出した。
やはり、いざとなると女は強い。
そう思って、僕も後からついて行く。
「ちょっとアンタどう言うことかしら?人の家を勝手に使って!」
いきなりアーリアは喧嘩腰で、背の高い男に突っかかる。
言われた背の高い男は、間の抜けた顔で暫くアーリアを見つめていたかと思うと、その名前を呼び懐かしそうに抱き上げた。
その抱き上げ方は恋人同士の様ではなく、まるで子供を抱き上げるように軽々と高く持ち上げた。
持ち上げられたアーリアが手足をバタバタさせて抵抗する。
何発か蹴りがその男の長い顔にヒットしたが、動じるそぶりも無く、ただ笑いながら痛い痛いと言うだけ。
長い顔に少し離れた目、デカい鼻にのんびりしたその性格……何だか見覚えがある。
「お前、ひょっとしてライシャなのか?」
僕がそう言うと、その背の高い男はアーリアを降ろして「カイ!」と僕の名前を呼んだ。
「ライシャ!」
間違いなくライシャだった。
僕たちはお互いの再開を喜び合い、共に抱き合った。
「まあ、ここは煙たいから、散らかっていて済まないが中に入ってくれ」
「馬鹿、ここは私の家だ!」
そう言ってアーリアはライシャの尻を蹴った。
「ごめんごめん、そう怒るなよ」
ドアを開けて中に入ろうとしたライシャだったが、背の高さを間違えて入る時に思いっきり屋根に頭をぶつけた。
そして、その向こう。
部屋の中から飛び出してきたのは、裸の金髪娘。
この子には見覚えがある。
それは、この異世界に来た時の最初に見た夢。
その夢の中で、僕はこの金髪の美少女の胸を揉んでいる夢を見た。
まだルルルの事を、金色の猫と呼んでいた時の事。
俺の胸の中に、無防備な姿のまま飛び込んできた胸の感覚で分かった「ルルル!」
「カイ!久しぶり。探したんだよぉ~」
「とりあえず、服を着れば」
アーリアがルルルに冷たく声を掛ける。
「アーリア!久しぶり、どうしたの、その恰好。まるで戦に行くみたい」
「コスプレよ! さあさあ、中に入って着替える!カイは、もう見ちゃダメ!」
ドアをバタンと絞められて、僕たちは締め出されてしまった。
「懐かしいなぁ、ずっと探していたんだぞ。無事でなによりだ」
額を打って座っていたライシャの隣に腰掛けて、二人でまた再開を笑い合った。




