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◆◇◆こんな時なのに、のん気に魚釣り!?◆◇◆

 道具を持ったまま僕は泉の中に足を踏み入れた。

 肩の上に乗ったルルルが、狼が動こうとするたびにシャーっと唸って威嚇する。

 水が澄んで美しい泉には、思った通り魚が居た。

 僕は魚に向けて、先の尖った木の棒を撃ち込む。

「一匹ゲット!」

 ツルを巻きよせて、棒の先に付いた魚を見せびらかしてから、棒から抜いてカーゴパンツのポケットに入れた。

「獲物にされそうなのに、獲物を取るなんてカイ、お前は変わった奴だな」

 不満そうにルルルが言う。

「でも、お腹は減っただろ」

「まあね」

 ポケットがいっぱいになった所で魚を取るのをやめた。

 狼が恨めしそうに僕たちを見ている。

 もう一度森に入り、今度は適当な枯れ木と枯草、そして棒を見つけて座り込んだ。

「何をするつもりだ?」

「魔法を使う」

「魔法? カイ、君は魔法が使えるのか!?」

「まあ、見ていて」

 平たい木の上で、木の棒を何度も擦りつけて行くうちに、煙が立ち出してやがて小さな火が付いた。

 その上に枯葉を乗せて口で吹きながら何度も擦り続けて、ようやく枯葉に火が移る。

 今度は、その火が消えないように、小さな小枝を盛り、火が大きくなれば更に一回り大きな木の棒を乗せて大きな火にした。

「さあ出来上がり!」

 僕は取ってきた魚を木の枝に挿し、火の傍の地面に挿して炙った。

 ルルルには、わざと狼から見えるように1匹やった。

「美味しいね。昨日カイと会ってから何も食べていなかったから腹ペコだったんだよ。それにしてもカイ、魔法が使えるって本当だったんだね」

 ルルルは機嫌よく、美味しそうに食べていた。

 次は僕の番。

 焼き魚のいい香りを楽しみながら、魚にかぶりつく。

 頭の良い狼にとって、風上のポジションを取ったことは後悔に値するだろう。

 ナカナカ隙を見せない獲物が、獲物を取り、それを美味しそうに食べている光景と匂いを見せつけられているのだから。

 可哀そうだから、ポケットに入っている魚を狼に投げてやった。

「おいカイ、勿体ないじゃないか!」

 不満気にルルルが言う。

 投げた魚は、狼までは届かないで、丁度俺たちと狼との中間点辺りに落ちた。

 暫らく狼は動かなかったが、そのうち用心しながらゆっくりと近づいて来た。

「おいおい、カイ。狼が近づいて来るぞ!!」

「ルルル、大丈夫だよ。狼の狙いはあの魚だし、あの狼は俺の持っているこの木の棒が、体を突き刺す能力がある棒だってことも知っている。だから襲ってはこないはず」

「はず??」

 僕の予想通り狼は襲ってはこなかったが、予想に反して魚を持って逃げもせず、拾ったその位置で食べ出した。

「ひょっとしてコイツは……」

「カイ、どうした?」

 僕は焼いた魚を手に取ると、その狼の方へ歩き出していた。

「カイ! 駄目、何をするつもり!!」

 ルルルが僕を止めようと大声を上げ、飛び出そうとしてくるのを手で制した。

 一匹食べ終わった狼は、唸り声も上げず、近付いて来る僕をジッと見ていた。

 大きいのは分かっていたが、こうして近づくと、その大きさがよく分かる。体重はおおよそ50キロくらい、立てば俺の肩の高さほどもあるだろう。

 こんな立派な奴に狙われたら、いくら2対1だと言っても、簡単に殺されてしまう。

 それは僕だけじゃなく、こいつも分かっているはず。

 1メートルをきる所まで近づき、ゆっくりと腰を降ろす。

 狼の灰色の瞳が僕を捕らえた。

「その体で一匹の魚では、腹の足しにならないだろ。それに焼いた魚の方が君には食べ慣れているんじゃないか?」

 そう言って狼の前に魚を差し出す。

 狼の大きな口が少し開くと、そこには大きな口に似合った立派な牙が光る。


 “こんな奴に噛みつかれたら、僕なんてあっと言う間に殺されてしまう”


 立膝の姿勢から足を崩し、腰をどっかりと地面に着け、狼の目の前であぐらをかいた。

 完全に無防備な姿勢。

 まだ警戒している狼に勧めるように、もう少しだけ焼き魚を近づけると、その太い首が折れ魚を食べ始める。余程腹が減っていたのだろう、二匹目の魚もあっと言う間に平らげた。

 食べ終わった狼の肩に手を伸ばす。

「カイ!やめろ!!」

 いつの間にか、僕の後ろまで来ていたルルルが止めようと叫ぶ。

 僕の手が狼の肩に触れた。

 狼は僕を見ないで、どこか他所を見ている。

 しかし警戒を解いたわけではない。

 むしろその逆。

「触らせてくれて、ありがとう。ついでに撫でてもいいかい?」

 返事はない。

 構わずに肩に触った手を腰に向けて摩ると、急に狼の口が襲ってきた。

「カイ、逃げろ!」

 ルルルが大声で叫ぶ。

 しかし僕は逃げずに、摩っていた手を止める。

 狼の口が、僕の手に鋭利な牙を当てるが、噛み砕こうとはしない。

 いわゆる“甘噛み”と言う行為。

 そのまま手を離さずに待っていると、狼の口が僕の手から離れた。

「よしよし、いい子だ」

 そう言いながら背中を摩りだすと、今度は攻撃する素振りを見せなかった。

 手を上の方に移動させる。

 首から上を触ろうとすると、高い唸り声をあげて、また噛みに来た。

 この時も俺は手を止めるだけで離さなかったから、また甘噛みをされる。

 手を移動させるたびに、何度も警告の甘噛みをされ、毎回もそれを受けていたから僕の皮膚は凸凹の歯形が幾つも付いていた。

 時間をかけて、何度も繰り返し、とうとう最後には、狼の太い首に抱きつくことに成功した。

 抱きついた僕の耳を狼が舐める。

「よし、いい子だ。暖かい火の傍においで」

 そう言って僕が立ち上がって歩くと、狼も付いて来て、僕が座ると狼も傍に寄り添うように伏せた。

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