◆◇◆ユーラシウスの鎧◆◇◆
ホークさんが敵か味方かということよりも、ミカールが僕を探し出そうとしている事は厄介だと思う。
僕という人間に会い、久し振りに本当の人間同士、何のわだかまりも無い会話を楽しみたい。と言うのなら大歓迎だけど、アーリアの話によるとミカールはユーラシウスの命を狙っているし、自分と同じ人間を恐れている。
それが本当だとしたら、僕と会って楽しい会話をするだけで済むはずがない。
ホークさんの言うように捜索隊が出されているとすれば、その任務は捕縛すること。
僕が生きていようが、死んでいようが、左程関係は無さそうだ。
しかしホークさんの話を、そのまま信用してしまうのも考え物だと思う。
何か他に考えがあって、僕に嘘を言っている事も留めておく必要はある。
ミカールの放った捜索隊を恐れて、ここを逃げ出す前に僕は、彼の言ったことが本当か嘘なのかを確かめる必要がある。
もし本当であれば、いつか見つかる事を考えて、ここから逃げ出す計画を立てなければならないだろう。
もし嘘だとしたら、早くのろしや焚火を焚いて仲間を見つけ出さなくてはならない。
次の日、僕はアーリアと一緒に麓を目指して進んだ。
ミカールの捜索隊が本当に来ているのか確認するため。
アーリアを家に置いて来ることは考えなかった。
もしもホークさんが敵だったとして、僕とアーリアを分断しようとしているのであれば思う壺な訳だし、何よりも僕たちは一緒に居たほうがお互いに心強い。
家を空けることにより折角蓄えた食料を盗まれる恐れはあるけれど、アーリアと離れ離れになる事を思えばそんなもの安いものだ。
「アーリア準備は出来た?」
「もうちょっと待っててぇ」
さっきから僕は外で待たされている。
いつになく支度の遅いアーリアだけど、いったい何をしているのだろう?
暇なので弓の練習をしていた。
うん。今日は特別に調子が良い。
なんだか良い事がありそうな気がする。
「お待たせぇ~!」
背中越しにアーリアの声がして振り向くと、そこには列記とした女戦士が居た。
頭に乗せた兜は、リクガメの甲羅。
肩当てや肘当ては、大きさの異なるアルマジロの甲羅。
背中はウミガメの平たい甲羅で、胸当ては少しだけ今のアーリアにはきつそうだけどリクガメで作られた胸当てが付けられて、腰蓑はセンザンコウ。
そして左腕にはウミガメの青い盾、右手にはナント鉄製の剣!
「いったい、どうしたんだ、その装備! それにとても綺麗だ」
「もしも、いざという時にってユーラシウスが私に与えてくれた箱を今日初めて開けたら、これが入っていたの」
あまり僕が驚いて近くで見るものだから、彼女は頬を少し赤く染めていた。
剣は日本刀のように軽くて使い勝手が良い物ではなくて、力で叩き切る中国や西洋で使われていたものに似ている。
しかし鉄の精錬には凄い技術を要するというのに、ユーラシウスはこれを成し遂げた。
たしかにミカールから恐れられるのも無理はない。
だけど装備を見ていて気が付いたことがある。
それはユーラシウスは屹度好戦的な人間じゃないって事。
アーリアが着ている甲羅の鎧の内側には、どこにも傷が無い。
と言う事は、生きている動物からナイフで剥ぎ取ったわけではなくて、おそらく死んだ動物の物を使ったのだろう。
「この装備は随分昔に作られた物なの?」
「そう。私が森に返される前に……」
なるほど、それで胸のカップがあっていないのか。
ユーラシウスは幼かったアーリアが、まさかここまで素晴らしく逞しい女性に成長するなんて思わなかったのかも知れない。
よし、胸のカップは僕がなんとかしよう。
そしてアーリアをユーラシウスに合わせてやろう。
僕は、その時のユーラシウスの驚く顔を想像して、少しニヤケてしまった。




