◆◇◆Mrホーク②◆◇◆
結局この日はルルルとライシャと会う事は勿論、手掛かりさえ見つけることは出来なかった。
道に迷わないように気を付けて、来た道と違う道を通り、食料を探しながら帰る。
帰り道では栗を沢山見つけた。
落ちているものは既に虫に喰われているものが多いはずなので、僕たちは木に付いている栗を落して拾った。
上ばかり見ていると、いつの間にか空の高いところをまたあの鳥が飛んでいて、なんだか空の上から僕たちのことを見ているような気がする。
「いたっ!」
アーリの足に栗のイガが当たったのだろう。
その足には僕のような靴など履いていなくて、木の板にツルを付けただけの、言ってみればスリッパと下駄を合わせたような粗末な物。
アーリは「上ばっかり見ていた」と自分の失敗を笑っていたけれど、これから冬になると言うのに服も靴も粗末な物。
ホンノもう少しだけでも、良い暮らしをさせてあげたいと自分の不甲斐無さを心の中で嘆いた。
日が暮れる前に家に着くことが出来、一応用心のために家の中を荒されていないか確認し、特に何も問題が無かったのでホッと肩を撫で下ろす。
さすがに一日中家を空けていたから暖炉の火は消えていたが、今日ホークさんに貰った火打石を使うとあっと言う間に火が付いたので二人で大喜びをした。
お風呂の火はアーリアに点けてもらった。
カチカチと石を鉄に当てて、火花を上手に燃えやすい枯草の束に飛ばせば出来上がり。
飛んだ火花のおかげで小さな火種から、直ぐにメラメラと大きな炎が立ち上がる。
「点いたぁー!」
火が点いた途端に僕を振り返ったその笑顔は、幼い子供みたいに活き活きとして明るくて、思わず抱きしめたくなるくらい可愛い。
一度でいいから、アーリアに綺麗な服を着させてみたいと言う欲望が沸々と湧いてくる。
夜は長い。
お風呂に入っている間に、取ってきた栗を暖炉の土鍋で煮て、それをざるにとって1/4は“おやつ”に残りは保存食にする。天日に干して中身を乾燥させる“カチグリ”という奴だ。
「なんだか、あのホークさんって言う人、どこかで見たような気がするわ」
食事を持ってきてくれたアーリアが呟く。
「なんか、変わった人だったね。心当たりはあるの?」
以前、変化したものは大凡元の姿が分かると言っていたのを思い出して聞いてみた。
「ううん、心当たりはないの。そして素性も分からないけれど、なんとなく」
「ひょっとしたら、彼がユーラシウス? ほら、磁石を持っていた」
「違うわ。ユーラシウスとは幼い時に分かれたから、顔は覚えていないけれど、雰囲気はチャンと覚えているもの」
そう言えば、犬は幼い時にたった数日遊んでくれた人のことも、一生忘れないと言う話しを聞いたことがある。
「でも、悪い人じゃあなさそうだね」
「そうかしら? 私なんだか、ここに来てずっと誰かに見張られているような気がするの」
「バッファたち?」
「いいえ、そんな生易しい感じじゃなくて……」
「今も?」
二人で窓の外を見た。
そこには暗い森が、闇の中に広がっているだけの静かな世界。
「怖い?」
「いいえ」
「強いなアーリアは」
「だって、カイが居るんだもの」
そう言ってアーリアは体を寄せて甘えて来て、キスをせがんだ。
「誰かに見張られているんじゃなかったの?」
「もう。それとこれとは話が別よ……」
僕の上に覆いかぶさって来るアーリアの体に腕を回し、反転させて体制を変え、意外に広い子供のようなおでこにツンと指を立てた。
見つめ合う瞳と瞳。
「君がそんなに甘えん坊だなんて思わなかったぞ」
「だって……」
「だって?」
「だって、私には犬の血が混ざっているのだもの、甘えるのは当然よ!」
「それだけ?」
「……カイの意地悪!」
アーリアは僕を攻撃するように再び体の向きを返して僕の上に乗ると、毛布の中に顔を沈めた。
くもり始めた窓の外、暗い森の木からフクロウか何かの猛禽類が羽ばたいて飛んでいく音が聞こえた。




