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◆◇◆お風呂の支度◆◇◆

 二人分の背負い籠に大量の野菜や果物を詰めて、少しおぼつかない足取りをお互いに補うように手を繋ぎ、肩を寄せ合って家へと歩く。

 重い物を背負っている感覚はなく、カイと私はともにまるで宙に浮いたようにフラフラしながら、途中の木立で立ち止まっては見つめ合いキスを交わしまた歩いた。

 家からそう遠くない森の道を恨めしく思う反面、早く家に着いてベッドに入りたいと歩きながら何度も思う。

 家に着くと、直ぐに背負っていた籠を入り口に置き、靴を脱ぎ汚れた服を脱いでベッドに飛び込んだ。

 まるでキス合戦のように、カイと私はお互いの唇を求め、それだけでは飽き足らず体のあちこちにキスをし合った。

 カイは私の扱いが上手い。

 だからしばらくすると私は押し寄せる幸せの渦にのみ込まれるように気が遠くなったり、逆に体の中からマグマが頭に昇って来そうになったりしてしまい、キス合戦は私の負け。

 一方的に体のあちこちをキスされるまま、ベッドの中をまるで魚のように泳がされていた。


 気が遠くなるほどの幸せに身を任しているうちに、いつの間にか眠っていた。

 目が覚めたとき、カイが居なくなったのではと不安になった。

 しかし、その優しい顔は直ぐ私の目の前で、黒い瞳を輝かせながら見つめてくれていた。

 少しだけススくさい匂い。

「アーリア、お風呂が沸いたよ」

「ありがとう」

 そう言ってキスをした。

 いっぱい愛してくれたカイのために、本当は私がしてあげないといけないのに……だけど、いっぱい恥ずかしくて、いっぱい嬉しい。

 カイは私にお風呂へ入るように促す。

 私が沸かしたわけでもないのに恥ずかしかったけれど「一緒に入りましょ」と私はカイを誘った。

「いや、僕は後にするよ」

「どうして?」

 嫌われたとは思わなかったけれど、どうして一緒に入ってくれないのだろうと素直に思って聞いた。 

 だって私はもういつでもカイと一緒に居たいのだもの。

「まだ、どんな危険があるのか分からない。だから二人揃ってお風呂に入る事は出来ない。僕の不確かな記憶の中で、風呂とトイレは一番危険な場所だと言っている。だからいくら僕がアーリアの事を愛していても、安心できる保証のない場所には一緒に入れない」

「安心できる保証があってもトイレには一緒に入らないわ」

「じゃあ、お風呂に入りな。僕は外で薪をくべているからお湯が冷めたら直ぐ声を掛けてね」

「ありがとう。では遠慮なく」

 私たちは軽くキスをして、家の中と外に分かれた。

 着替えを持ってお風呂に行くと、湯気の香りが心地いい。

 熱いお風呂は苦手なのでゆっくりと手を突っ込むと、左程お湯は熱くはなくて、もうカイがお湯をかき混ぜてくれていていた。

「湯加減は、どう?」

 私が湯船に浸かったのが分かったのか、カイがお湯の温度を聞いてくれた。

「ありがとう。ちょうどいいよ。でもカイにはチョットぬるいかも」

「じゃあ、僕の時は頼んだよ」

「OK!」

 体を洗い終わりサッパリしたところで、新しい服に着替えてカイと交代した。

「僕もそんなに熱いのは好きじゃないから、火のことより周りに気を付けてね」と、ポーンと肩を叩かれキスをしてもらった。

 もう辺りは薄暗いけれど、俄然張り切る私。

 カイが湯船に浸かる音がした。

「お湯加減は、どう?」

「サンキュー!ちょうどいいよ」

 カイの真似をしてみせると、お風呂場から明るい声が返って来た。

 これなら呼ばれるまでは特に火の世話をする事も無いだろうと思い、とりあえず満遍なく燃えるように火を平らにして、そこへ新しい薪を二三本くべておいた。

 “カランッ”

 薪が転がる乾いた音。

 でも、それは私の持っていた薪ではない。

 何か……いや、誰か居る。

「カイ」

「僕も聞こえた。部屋に入れ」

「待って、様子を見て来る」

「やめろ!」

 ここは私の家。

 もしも用があるのであれば、その目的は私のはず。

 カイには迷惑を掛けたくなかった。

 音のした方を振り返ったが、何も見えない。

 足音を立てないように用心しながら、周囲を探る。

 微かに小枝を踏む音が聞こえた他は、何も聞こえない。

 相手は一人のようだ。

 ルルルかライシャ、それとも違う何者か……。

 音の聞こえた方向に直線的に向かうと、鉢合わせしてしまう。

 こうなると単純に先に気が付いたほう、武器を持っているほう、強いほうが有利。

 人間の姿になったとはいえ、腕には自信がある。

 だけど決して油断はしない。

 私は、音の聞こえたほうに回り込むように遠回りして向かった。

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