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◆◇◆ミカールの反逆◆◇◆

「嵐の高原を越えた後、ユーラシウスはミカールと合ったの?」

「うん。 でも、ユーラシウスの方が随分先に、この世界に来ていたから実際にはミカールの方がユーラシウスに会いに行ったわけなんだけど。ゴメンね、話と時代の順番が逆で」

「じゃあミカールはユーラシウス王と手を結んだの?」

「もともとユーラシウスは王になるなんて望んでなかったから誰とも手は結ばない。でもミカールはそうではなかったの」

 ミカールは自分を守らせて僅かに生き残った狼たちが、嵐を越えた後に人間の姿に変化していくのを見て、この世界に掛けられた呪いに気が付いた。

 そして弱り切った彼らを口留めのために一人ずつ殺したのは、前に言った通り。

「じゃあ、君のお母さんも?」

「いいえ私はまだ母のお腹の中に居たから、父が弱った体でミカールと闘い、直ぐ上の兄と母を逃がしたの……だけど父は逃げ切った後、ミカールと戦った傷がもとで、そして弱っていた母も私を生むと暫くして……」

「そうか……すまない」

「なにもカイが謝る事なんてないよ」

「でも、僕も人間だから」

「全ての人間がミカールと同じなんて思ってもいないわ。現に私たち兄弟を助けてくれたのは、その人間なんだもの」

「人間に?」

「そうユーラシウスに助けられたの。まあ兄は人間を恨んで直ぐに居なくなってしまったらしいけど。そしてそのミカールもここに来たばかりの時は、ユーラシウスの世話になっていたのよ」

 しかし直ぐに二人は仲違いしてしまう。

 もともと人間の居なかった世界を変えないで文化を育もうとするユーラシウスと、獣たちを卑しいものと考え、それらを手下にして自分を中心とした王国を造ろうと企んでいたミカールがこうなってしまうのは明らかだった。

 ある日ミカールは騙した製鉄技術者たちと、蓄えてあった食料などを盗みこの土地を去り南の国へ行った。

 その後彼は猿を大量に捕獲しては嵐の高原を往復させて技術者や兵士を囲うことになったが、猿たちは他の動物と比べて嵐の高原を越えるのにはあまり向かなくて、そのためにこの世界に沢山居た野生の猿たちの数は著しく減少した。

 元々の知能が高く手先が器用だった猿たちを人間に変えたことで、ミカールの文明はユーラシウスの時と比べ物にならないくらい格段に成長したが、最初に騙されて付いて行った技術者たちはその地位を猿たちに奪われて職を失うことになる。

 文明社会の中にあって、職を失うこと程惨めなことは無い。

 行き場を失った彼らが戻る先はユーラシウスのもとしかなく、ユーラシウスは同情して彼らを優しく迎え入れた。

 しかし、その優しさが後に仇となる。

 一度文明的な人間の暮らしぶりを覚えた彼らは、戻って来てからも他の物を支配して楽な暮らしをしようとして農作業には出ず、武器を使うようになる。

 武器を使って獲物を獲るうちはまだ良かったが、その武器はやがて仲間を従わせるために用いられ、それを強さと勘違いした若者たちはこぞって彼等の手下になっていった。

 巨大になったその組織は、ユーラシウスたちをも手下にしようと企んだが、既にその事に気が付いたユーラシウスを中心とするグループは密かにこの土地を離れていた。

 収穫物を貪り尽くした彼らは、やがてミカールの所有する国にも攻め込んで行き、そこで取れた収穫物を荒し、更にはミカールをも倒そうと企て戦争が起こった。

 しかし彼らは浅はかだった。

 ミカールは既に猿から変化した人間たちを訓練させて軍隊を組織していたのだ。

 ミカールが軍隊を持たなければいけなかったのは、ユーラシウスへの懐疑心から。

 いつの日か必ずユーラシウスが、ここを攻めて来ると彼は思った。

 その日のために大量の武器を造らせ、兵たちを訓練していた。

 ただのチンピラに過ぎなかった侵略者たちは、高度な訓練と強力な武器の前では無力に過ぎず直ぐに戦いは終わった。

 侵略した彼らの多くは戦いの中で死に、生き残って逃げた者たちも執拗に追われ捕らえられた。

 そして捕らえられた彼らに待っていたものは、戦いで死ぬよりも悲惨な末路。

 思いつくまでの様々な残忍な処刑方法が、全ての人民の前で試された。

 そして王となったミカールは声高らかに言った「王に歯向かうものの末路は全てこうなるのだ!」と。

 戦いは終わったが、ミカールは彼らを扇動したのはユーラシウスだと思うようになり、討伐隊が組織される。

 しかし既にユーラシウスとその仲間たちは、この地を去っていて誰もその行方を知るものはいなかった。

 今にして思えば、仲間の裏切りがあったときからユーラシウスは、こうなる日が近いのだと分かっていたのかも知れない。

「じゃあアーリアもユーラシウスと一緒に逃げたんだね」

「いいえ、私は森に返された」

「返された?」

「そう。ユーラシウスの最も信頼する者が、私を抱いて森に返した。あの野蛮なクローゼの居る群れにね。あの時はまだ幼かった私が足手まといになるから群れから離されたと怨んでいたわ。でもカイ、貴方と出会ってから、それは違うのではと思えるようになってきたの。ユーラシウスが私を逃がしたのはミカールの追撃から逃すためだと」

 今もミカールは、どこかに隠れているユーラシウスの命を狙っているらしい。

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