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◆◇◆宮殿の王ミカール◆◇◆

   ***町の中心部、ミカール王の城***

 

深い堀に掛けられた石造りの橋を渡ると、そこには同じように石を積み上げて作られた高い塀に堅牢な扉があり、甲冑を身に着けた兵士が数人見張っていた。

 そこを潜り抜けると中庭には広い庭園に咲き誇る色とりどりの花々があり、大理石の玄関を中に進むと、赤い絨毯が敷かれている廊下があった。

 長い廊下を進むと、衛兵が二人長い剣を縦に構えて立っている部屋がある。

 部屋に一歩踏み込むと、贅沢なばかりに壁や天井には数々の装飾品が飾られている部屋があった。

 部屋の奥の数段高い場所には豪華なソファーに座る一人の男。

 眩しいほどの金色の髪を襟迄垂らし、目は宝石のようなブルー。

 白い肌に端正な顔立ちは、一件女性と見間違うような美しさを持つ。

 彼こそが、この国の王ミカール。この世界にたった三人しか居ない純粋な人間の一人。

「報告しろ?」

「はい。カイと言う男は仲間の狼に助けられ、嵐の高原を越えました」

 女の声が答えた。

「仲間の狼……クローゼの一味か?」

「いえ、アーリアと言う女の狼です」

「女? 他には?」

「他には馬が一頭」

「馬……何者だ」

「ただの雑魚です。彼は大きな図体にもかかわらず真っ先に嵐に吹き飛ばされました」

「なら問題なさそうだな。だが油断はするな」

「はい」

「その男は何か特殊な能力を持っているのか?」

「ないです。知恵はあるようですが、どちらかと言えば華奢な一般的な人間です」

 ミカール王はしばらく口に指を当てて考えていた。

「ご苦労。引き続き奴らを見張れ。次はそのアーリアと言う女の情報も欲しい」

「承知いたしました」

 女は深く頭を下げ、王宮を後にした。


   ***アーリアの小屋***


「私の母は嵐の高原を越える時、すでに私を身ごもっていたの」

 アーリアが自分の過去を話してくれた。

「じゃあ、お母さんもこの辺りに?」

「いいえ、母は私を生んで直ぐにこの世を去ったそうです」

「お父さんは?」

「父は、私が生まれる前に……」

 狼の群れは必ず家族で構成される。

 ひとつの家族の場合も有るが、叔父さん伯母さんたちを含めた大きな家族で群れを作る場合も有る。

 そして殆どの場合、夫婦は離れない。

 だから父親を知らないと言う事は、あの嵐の高原で亡くなった可能性があると思った。

 しかし何故身重の夫人を連れてまで、群れは嵐の高原を越えなければならなかったのだろう?

 もう、永遠に知ることのできない謎の旅。

 そう思っていた僕に、意外にもアーリア自身から答えが返ってきた。

「私たちの群れは、父を中心に20頭もの大所帯だったの。そして父は、いえ私の両親が居た群れは転生して来た人間に騙されて、嵐の高原を渡ることになったの」

「そう私たちの群れは嵐の高原の向こう側に何があるか、誰も知らなかったし、嵐の高原がどんなに怖い物なのかも知らなかった。だけどその人間は何故か私たちの知らない事を全て知っていて、そして私たちを騙し、利用した」

「騙して、利用した?」

「そう。言葉巧みに嵐の高原の向こう側にはもっと大きな群れが幸せに暮らせる豊かな世界があると父を騙したの。狼の群れのほとんどは家族だから、群れが大きくなると言う事は家族が増えるということ。家族が増えれば、それだけ狩りも大変になる。そしてその人間は嵐の高原の怖さを知っていて、私たちにソリを引いかせたの。吹雪で進めなくなった後は人間を守るように囲みながら前進を続けたの」

「どうして、そこまでして、その人間を守ったの?」

 僕が聞いた途端、アーリアが唇を強く噛んで言った。

 守ったのではない、守らされたのだと。

 人間は最初、身重のアーリアのお母さんを抱いていた。

 もちろんそれはソリを引く時から。

 身重の体は大切にしないといけないと言って、母にはソリを引かせなかった。

 だから父たちは、その人間を信頼した。

 嵐が来てソリが引けなくなった時も、人間は母を抱いて、みんなに母を囲むように言った。

 でもそれは、母を守るためじゃなくて、母を抱いた自分を守らせるため。

 化けの皮が剥がれるのは意外に早かった。

 群れの何頭かが動けなくなると、父は引き返すことを決断した。

 しかし人間は母にナイフを突きつけて、それを許さない。

 そればかりか弱って死んでしまいそうになっていた叔母さんを、敗北主義者だと言って殺し、その場で皮をはいで自分の防寒用に羽織った。

 その恐怖で何頭かは群れを離れようとして、嵐の呑まれてしまい、父と兄たち数頭だけは母とそのお腹に居る私を助けるために人間を守り、ここまで辿り着いた。

 そして疲れ切って動けなくなった私たちを、人間は口封じのために殺して行った。

「どうして口を封じる必要が?」

「あの嵐の高原を、たった一人で越えて来たことにすれば英雄になれるとでも思ったんじゃないの?なんたって王を名乗るつもりだったのだから」

「王?!」

「そうよ、その卑劣な人間こそが、この世界の王ミカールよ」

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