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◆◇◆三つの呪い◆◇◆

 アーリアの献身的な介護のおかげで、数日が経った頃には僕の体はすっかり良くなっていた。

 療養の間に少しずつ教えてもらったことは、この世界のこと。

 進化の過程で人類が現れなかったこの世界は、自然に富み平和で静かだった。

 その世界を変えてしまったのが転生して来た多くの人間たち。

 彼らは様々な特殊能力を持ち、そして直ぐに幾つかのグループに分かれて覇権争いを始めだした。

 魔法と言う信じられない力によって森が一瞬で焼け野原になり、その争いに巻き込まれた動物たちも数多く死に、絶滅してしまった種族さえいた。

 やがて戦争は終わり世界がひとつになる。

 しかしそれは束の間。

 平和になったと思う度に、仲間割れが起きて動物たちはまた戦争に巻き込まれた。

 人間たちの強力な武器や、恐ろしい魔法によってあらゆるものが破壊され、巻き添えを食った動物たちの死傷者数は人間のそれを遥かに超えていた。

 医療の知識を持っている人間たちと違い、動物たちにとって怪我をすること自体が死と直結してしまう。

 最後にこの世界を統一した最強の王も安泰の時期は短く、直ぐに不正や裏切りが横行し、人間という存在に深く失望した王は自らを含めた全ての人間をこの世から消し去った。

 そして二度とこのような事が起きないように三つの呪いをかけた。


 ひとつ目の呪いは、結界の森。

 結界の森というのは、異世界転生によってこの世界に辿り着いた全ての人間が僕が来たあの森に導かれ記憶を消され、本来授かるはずの特殊能力を封印されるというもの。

 僕もそうだったけれど、この世界に来た人間は、例外なく先ずここに到着する。

 結界の森は広大で、面積は大凡750万㎢で、オーストラリア大陸に近い広さがある。これは、まったく物好きな人間が森を測量して歩いた結果分かったものらしい。

 その広大な森のどこかに、人間は転生して来る。

 転生して来るのは1年に大体10人程度で、実はこれも最後の王が仕掛けた呪いだと言われている。

 それがこの広大な土地のどこかに来るのだから、先ず人間同士が森で出会う様な事はない。

 そして、その殆どは狼や熊などの肉食動物に襲われて命を絶つはめになる。


 ふたつ目の呪いは、嵐の高原。

 僕がそうしたように、僅かに生き延びた人間たちもまた僕と同様に他の人間を求めて旅をする。そして嵐の高原に辿り着き、そこを越えられずに命を落とす。

 今迄に嵐の高原を越えた人間は二人しかいなくて、僕が三人目だと言う事だった。


 最後の三つ目の呪いは、変化の呪い。

 動物たちは人間に比べると種族によっては嵐の高原は越えやすい、しかし嵐の高原を越えてしまった者は人間の姿に変化してしまう。


「しかし、人間に変わるのがなぜ呪いなんだ? 僕はアーリアが人間の姿になってくれてとても嬉しいんだけど」


 僕が気持ちを素直に口にするとアーリアの頬がパッと赤くなり、それを隠すために彼女は少し俯いて教えてくれた。

「嵐の高原のこちら側の動物たちは、なにも変わらないままの普通の動物たちなのよ。勿論私たちのように人間の言葉は話せないし、こっち側から逆に森に向かっても嵐には会うけれど何も変わらないの。変わるのは結解の森から嵐の高原を越えた者達だけ」

「それが、どうして呪いなの?」


「だって、そうでしょっ! 人間の体で居ると言う事は、山猫や狼にも敵わないし熊から逃げる事も出来ないのよ」

 アーリアは僕の前に回り込んできて僕に訴えるように言う。

 こうして一緒に立つと、彼女は僕より少しだけ背が低い程度で、女性としてはかなり長身だ。

 それに、やはり元々狼だからか、強そう。


「そういえばアーリアたちは、向こうの森でも人間の言葉を話していたよね。でも獲物として取っていたウサギや鳥たち、それにクローゼの群れでも彼以外の狼たちは話せなかった。と言う事は、ひょっとして君たちは何度か嵐の高原を越えたことがあるんじゃないのか?」

 倒れた木の幹に座って聞くと、アーリアも隣に座り「そうだ」と答えた。

「何度も行ったり来たりしているのか?」

「いいえ。私が嵐の高原を越えたのは一度だけ。今回が二度目よ」

「2度目って、往復1回半と言う事だね?」

「いいえ、往復1回よ」

「1回? じゃあ君は、この森で?」

「そう。この森で生まれたの」

 なにか腑に落ちない。

 さっき教えてもらった説明では、こっちの森の動物たちも話すことが出来ないはず。

 話すことが出来るのは、結界の森から嵐の光源を越えてきた者だけ。

 それなのにアーリアは森で会った時から話すことが出来た。

 森で生まれたのなら、あの嵐の高原を越えても元の狼のまま話せないのではなかったのか?

「さっきの説明では逆は何も変わらないはずだったよね。なのに、この森で生まれたはずの君が何故話すことが出来るの?」

 偶然じゃない。

 これには屹度、深いわけがありそうだと思って聞いた。

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