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◆◇◆くもりガラスの訳◆◇◆

 直ぐ後なのか大分時間が経ったのか分からないけれど、次に意識を戻したのは彼女がベッドに入って来たことに気が付いた時。


 異性の侵入に心臓がドキドキと脈を打つ。

 温かさが毛布の中に染みわたる。

 彼女は暖炉と反対側の、つまり僕の左側に横になった。

 顔が近いのか、微かに息を感じる。

 息の爽やかさと、左肩に触れる皮膚の柔らかさと艶が僕の瞼を押し上げようとする。

 おそらく彼女はさっき見たままの姿。

 

 いったい、なんのつもりなのだろう?

 ベッドに仰向けになったまま体を動かすことも出来ず、ただ悶々と想像を巡らせているうちに、彼女は僕の想像をはるかに超える行動に出た。

 なんと僕の手を自分の体に導いたのだ。

 彼女の直ぐ傍にある左手は太ももの付け根に近い辺りに挟まれ、遠い右手の指先は彼女の脇に挟まれた。感覚のある手のひらが窮屈に横向きになって押し上げられた柔らかい曲線と直に当たる。

 左腕がその曲線の頂に挟まれるように触れる。

 こんな状況に陥ったら、世の中の男子の考える事は同じ。

 それは“触りたい!”ということ。

 僕は、僕がいま持っている全てのエネルギーを左右二つの指先に集中させる。

 しかし、どんなに集中しようとしても気力が中々続かなくて、次第に息だけが荒くなってくる。

 だけど僕は諦めずに指先に神経を集中させ続けた。


 “動けぇぇぇ~~~!!!”


 何度も何度も、念じながら意識を指先に集中する。

 何度目かのチャレンジの時に、脇に挟まれている指がピクリと動くのが自分でもわかった。

 そしてその次には股に挟まれたほうも。


 “動く! 動くぞ!!”


 僕はただ指先を無心に動かした。

 最初はホンノ微かにしか動かなかったものが、やがて氷が解けていくようにゆっくりと少しずつ。

 僕が脇と股の間に挟まれた指を動かすのが、こそばゆいのか、彼女の息が次第に荒くなってきたのが分かる。

 そして彼女は両手で僕の顔を撫でながら、何度もキスをしながら言った。

「あぁ、カイ、その調子よ」と。


 “何故、僕の名前を知っている?”


 僕は頑張って指を動かせた。

 彼女も僕の手を取り、指を刺激してくれた。

 何度も、何度も。

 そのうちに彼女は僕の事を褒めるように髪を撫でてくれる。

 僕を見るその大きな濃いグレーの瞳は、涙であふれていた。


 “愛おしい”


 だけど、僕の気力はそう長く続かず、いつの間にか上瞼が目を塞ごうとしているとき、窓ガラスが湯気で曇っているのが見えた。

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