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人間の居ない星~山猫、狼犬、馬、鷲と旅をする異世界転生。えっ、それじゃあブレーメンの音楽隊?~  作者: 湖灯
1stステージ

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20/62

◆◇◆空からの刺客◆◇◆

 次の日、僕たちは河原を離れた。

 森を抜け、高原を歩き、また森に入る。

「まだ歩くのぉ~、もうそろそろ休もうよ、お腹空いたよぉ~」

「お前、朝から全然歩いてないくせに文句を言うな!」

 ライシャの背中に乗って文句を言っているルルルを、アーリアが窘める。

 ルルルは朝の出発以来、殆どの時間をライシャの背中で過ごしている。

「ルルル、もう少し我慢してくれ。とりあえずこの森を抜けたら、休憩を取ろう」

「はぁ~い。カイもライシャの背中に乗らないの? 結構楽ちんだよ」

「ああ、僕はいいよ。ルルルみたいに運動神経が良くないから直ぐに落っこちちゃいそうだから」

「まあ、そうだろうね。カイは走ったり、木に登れたり、川で泳げたりと何でも器用にこなすけれど、そのどれもが私たちから見て驚くほど凄いって事じゃないもの。ただし頭だけは凄い。弓なんて私たちには作れないもの」

「こら、ルルル!」

「いいよ、アーリア。本当にルルルの言う通りなんだから。走るのはみんなに比べてズバ抜けて遅いし、木登りだって猫や猿のようにはいかないし熊にも負ける。泳ぐのだって魚には到底敵わない。人間なんて、ツマラナイものだよ」

 たしかに、こうして動物たちと一緒に居ると、そう痛感させられる。

 唯一褒められた頭の良さに関しても、僕の中では落第だ。

 さっきルルルが褒めてくれたように、僕は弓を作った。

 弓から放たれた矢は、相手に突き刺さる。

 腰に挿しているナイフだって、肉を切り裂いてしまうから、よっぽど慣れていないと手加減できるような道具じゃない。

 一旦使ってしまうと、相手の命に係るような怪我をさせてしまうのが人間の考え出す武器なのだ。

 僕は自分が何者だったのか覚えてはいないけれど、人間の作った武器の怖さだけは知っている。

 それは、村や町はおろか都市ごとそこに住む全ての生き物を焼き尽くしてしまう力を持っていた。

 人間同士の戦いに、その地域に住む全ての動植物を巻き込んでしまう。

 この、どこが賢いのだろう。

 弱肉強食の世界で、どんなに強くても、決して肥満体になるほどは食べない。

 どちらかと言うと、草食動物に比べると肉食動物はいつも腹ペコで飢えている。

 仲間同士で喧嘩はあっても、相手を殺すことはない。

 人間だけが食べられないほど獲物を採り、仲間を殺す。

「どうした……?」

 ボーッと考えていた僕を心配するように、アーリアが見ていた。

「あっ、なんでもない。少し考え事をしていただけ」

「悪い事か?」

「んー、良い事じゃないね」

「そうか……。なにか手伝えることは?」

「じゃあ休憩の時に、いつものように寄り添っていてくれるか?」

 アーリアの気持ちが有難くて、他愛も無いことを言ったつもりだった。

 だけどアーリアは、なんとなく余所余所しく「そんなこと……」と言っただけで、そっぽを向いてしまった。


 “なにか悪い事でも行ってしまったのか???”


 ようやく二つ目の森を抜け、高原に出た。

 開かれた空が抜けるように青い。

 木立の中から小鳥の声がする。

「さあ、休憩にしようか」

「おー!」

 待ちに待ったとばかりに、ルルルが大きな声で答えた。

 なんとなく旅をしていると言うよりも、ピクニックを楽しんでいると言った方がいい感覚。

 ライシャの背中から荷物を降ろして、火を起こす。

 火を起こすのはいつも大変なのだが、僕は休憩の度にこうして火を起こす。

 前の世界に居たときは、こんなことをしなくても火が使えた。

 でも、この世界は違う。

 とにかく慣れないといけないと思って、この地味な作業を続けている。

 木を擦りながら、みんなを見る。

 荷物が降ろされて楽になったライシャは、高原の草をいつものようにのんびりと食べている。

 ルルルは、ひらひらと飛ぶ蝶々を追いかけて遊んでいる。

 そしてアーリアは、僕に背を向けたまま、遠くの景色を見ている。


 “なにかマズイことでも言ったのだろうか?”

 あれ以来、一言も会話をしていないばかりか、眼も合わせてくれない。

 “いったい、どうしたんだろう……”


「おい、カイ。カイってば」

「んっ、なっ、なに??」

 いつの間にか蝶々と遊んでいたはずのルルルが来ていた。

「もう。早く枯草被せて、ふうふうしないと!」

 言われて見てみると、もう既に煙が結構出ていたので、あわてて息を吹きかけて火を付けた。

「アーリアも、鼻が利くんだからチャンと教えてあげないと、焦げ臭くって堪らないわ!」

「ああ、すまない。少しボーっとしていた」

「どうしたんだ? いつものアーリアらしくないし、いつものカイらしくもない」

 確かに、いつもの僕らしくない。

 ただアーリアが、いつものアーリアらしくないと言うだけで、いったいどうしてしまったのだろう。

「おい、アーリア。どこへ行く」

 僕の傍から離れるように遠ざかって行くアーリアをルルルが追いかける。

「散歩だ」

 ルルルが引き返して来て「火なんか、どうでもいいから、一緒に行ってやれ!」と急き立てるけど、まだ炎が安定するまでに少し時間が掛かるので困った顔だけ見せた。

 ルルルは僕の顔を見て、プーっと膨れ面を見せると、アーリアを追いかけだした。

 暫らくアーリアを追って行くルルル……いや、ルルルが追って行くアーリアを見ていたが、炎にくべた木の枝がパチンと鳴ったのを合図に、その目を戻した。

 その一瞬あと、草を食べていたライシャの嘶きが聞こえ、驚いて顔を上げる。

 ライシャは二本足で立ち上がるように身を起こして、上げた前足で空を威嚇するように空気を蹴っていた。


 “何事だ?!”


 同じように後ろを振り返ったアーリアと目が合った。


 “ルルルかっ!?”


 ルルルに目を向けると、傍で空を蹴っているライシャを不思議そうにポカンと見上げていた。

 急に上から殺気を感じた。


「「上だ!!」」


 アーリアと僕が同時に叫ぶ。

 僕たちの声を聞いたルルルがゆっくりと、まるで遥かな空を懐かしむように空を見上げ、その背後から大きな鳥が舞い降りて来て、体に不釣り合いなほどの大きな足でルルルの華奢な体を掴んで再び空へ戻るために折りたたんでいた翼が広げられた。

 その暗い焦げ茶色の翼は、軽く3メートルを超える。

 肩と足、そして尻尾は真っ白。

 獲物を掴む大きな足先と、それを啄む鍵型のくちばしは綺麗な黄色。

 自分に何が起こったのか、確かめるような顔でルルルが僕を見る。

 ゆっくりと羽ばたき始めた翼が、太陽の光を反射して黒く光る。

 あの運動神経の良いルルルが何も抵抗できないばかりか、まったく事態を把握していないように……そう、まるで生まれて初めて空を飛ぶ子供のように、ただ驚いている。

「ルルル! もがけ!!」

 弓を取ろうと後ろを向いた時、全力で走って来たアーリアの叫び声が聞こえた。

 しかし弓を取って振り向いた先にはアーリアがどんなにジャンプしても、もう届きそうにないくらい舞い上がっている鷲の姿があった。

 アーリアがライシャの背中に飛び乗り、そこからジャンプした。

 矢を弓に掛けツルを思いっきり引いた僕は、アーリアのこの素晴らしいジャンプを見守るように、矢を放たずに見守っていた。

 一瞬、届くと思ったところで、鷲がもうひとつ羽ばたいてアーリアのジャンプは空振りに終わった。

 このアーリアの攻撃を避けようとしたことで、一瞬だけ鷲の動きが止まり、すかさず僕は矢を放った。

 ルルルを抱えた鷲は機敏には動けない。

 矢に射貫かれて昼食のオカズになるか、ルルルを離して逃げ帰るか、奴の選択肢は二つ。

 誰もがそうするように、奴も後者を選択してルルルを離した。

 空に逃げて行く鷲と、地上に戻されるルルルの間を、一本の矢が空に抜けて行く。

 そして落ちて来るルルルをライシャが背中で受け止めた。

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