◆◇◆金髪の美少女の胸を揉む!?◆◇◆
いつの間に眠ってしまったんだろう……それにしても温かい。
この暖かさは、幼い頃お母さんと同じ布団で寝ていた時に似ている。
それにこの突きたてのお餅の様な柔らかさは何だ?
揉めば揉むほど味が出て来るようで手を止められない。
こんな森の中に出来立てのお餅が転がっているわけもなく、よしんば転がっていたとしても、そう都合よく俺の二つの手の中に「どうぞ」と言わんばかりに預けられる訳もない。
“だったら、これは何だ?”
僕の顔に、柔らかくて長い髪が撫でるように肌を滑って行く。
「あんっ、もう」
若い女性らしい甘い声が、艶めかしく耳元で囁いている。
「ふぅ~」
と言うため息も時折混じり、その声が何となく僕が餅を揉んで遊んでいるリズムと呼応している気がしていた。
「あれっ! なっなに?!」
急に女の声が、驚いたように高く響いた。
夢の中を彷徨っていた僕の意識レベルの針が、急激に現実側に傾き、ようやく目を開けることが出来た。
「えっ……だれ???」
目を開けた顔の真ん前に居たのは、碧い真ん丸の瞳をした金髪の少女。
少し表情がきつくて、まるで喧嘩を仕掛けて来た猫のようだ。
次の瞬間“パァ~ン”と大きな音が森に響いた。
鉄砲?
でも、その音が猟師の鉄砲の音ではない事は、自分自身の頬の焼けるような熱さと痛さで直ぐに分かった。
僕は今、目の前に居る金髪の少女に打たれたのだ。
今まで経験したことのない、強烈な一撃に、のた打ち回る。
油断した。
最初に遭遇するのは、一番下のノーマルなスライムだとばかり思っていた。
まさか、敵側の女戦士が現れるとは。
折角異世界転生を果たしたと言うのに、始まって一夜過ごしただけでゲームオーバーになるなんて。
まともに戦っても勝ち目はないだろう。
では、どうする?
話し合いに持ち込んで懐柔するか?
って、俺って人を説き伏せるほど、話術やコミュ力があったっけ?
自分自身に関する記憶は殆どないが、自分の事ならよく分かるつもり。
”僕に、そんな話術もコミュ力などは、ない”
ここは、逃げるしかない。
横になった状態から、四つん這いになって脇目もふらずにダッシュした。
正直言うと、あのお餅の感覚が彼女の胸だとしたら僕はその豊満な胸の膨らみを直に揉んでいたことになるから、女戦士のプロポーションが気になって仕方がなかった。
しかし、僕は強い意志で、それを封印した。
四つん這いダッシュも速度が付き、やがて手を地面から離し、陸上選手のように腕を振る。
後ろから追いかけてくる気配がしない。
“僕って結構足早いかも”
追いかけて来ていない安心感から、心に余裕が出来た。
余裕ができると芽生えるのは、悲いかな男の下心。
おそらく裸であろう女戦士のプロポーションが気になって後ろを振り向こうとした瞬間、俺の頭は何かでブン殴られたような衝撃が走り、記憶が途絶えた。
次に目が覚めたとき、額には水で冷やしたハンカチが乗せられていた。
このしわだらけのハンカチには見覚えがある。
それは僕のハンカチだ。
“ところで、あの女戦士は!?”
「確りしろ、この馬鹿!」
突然掛けられた声を女戦士の声だと思い、期待半分に振り返るとそこに居たのは、女戦士ではなく、あの金色の猫だった。
「なんだ、お前か……」
「失礼な奴だな。誰だと思った?」
「いや、誰とも思っていない」
「……ふん。変なヤツ」
俺は金色の猫の首をひょいと掴むと、そのまま胸の上に抱いた。
「っちょっと、何するんだよ!?」
「しっ、静かにして」
胸に抱いた金色の猫を撫でた。
そう。
この感じに似ている。
疲れた体と心を温かく癒してくれる、この感覚。
それは、動物がもたらす癒し。
金色の猫は撫でられるのが気持ちいいのだろう、喉をゴロゴロ言わせて静かになった。
「そう言えば、君の眼も碧いんだね……いや、それはないか……」
金色の猫の暖かさに包まれ、もう一眠りしてしまう。