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◆◇◆新しい仲間、ライシャ◆◇◆

「はぁ~飲んだ、飲んだ。ゆっくり水が飲めるのも良い物ですなぁ~。ところで皆さん何していらっしゃるのですか? 猫は遊んでいるみたいだし、そこの狼はなんだか人間とイチャイチャしているように見えるけど」

「猫が遊んでいるだとぉ~!」

 いつの間にか、さっき助けた馬が傍に来ていた。

 遊んでいると言われたルルルは、のん気な口調の馬の言葉に、イラっと来たみたい。

「助けてもらったのに礼も言わずに水を飲み始めたと思っていたら、第一声がそれかよ! 普通は“助けて貰って有難うございました”だろうが!」

 息まいて詰め寄るルルルには気も止めないで、馬は空を見上げて「今日も好い天気ですなぁ」と、またのん気な事を言っている。


 “馬耳東風”


 ルルルの怒りは、馬の耳には届かない。

 そして彼女の怒りの矛先は、僕たちに向く。

「イチャイチャって、カイ! あんたアーリアと何してんのさ!」

 丁度具合の悪い事にアーリアは僕の手を舐めるのに夢中になっていて僕はその手を、あぐらをかいて座っていた股の間に降ろしていた。

 ルルルは、その僕を横から見ている。……と言う事は、降ろした僕の手は彼女からは見えない。

 ルルルから見た僕たちの様子を想像してみて、僕は自分の顔が急に赤くなる。

「違うぞ、ルルル。僕たちはそんなこと!!」

「犬っころに、手を舐めさせていたんだろ? それ以外に何かあるのか??」

 意外にもルルルは、健全に事実を把握していたが、馬の方は違ったみたい。

 魔のように長く黒いモノが、馬の股の間に居たルルルの頭を突く。

「なんだ、これ?」

 気が付いたルルルが顔を上げて、ビックリして飛びのいた。

 さすがに猫だけあって、飛びのく際に、猫パンチを繰り出すことは忘れなかったことが馬には災いした。

 一物を鋭い爪で叩かれた馬は「ヒィーーッ!」と断末魔の雄叫びを上げ、前足を高く持ち上げたものだから、その下半身をなおさら露出することになった。

「でかい……」


 その頃、クローゼたちは、カイと言う人間からせしめた“干物”という乾燥した魚や肉を食べていた。

 仲間たちからナカナカ旨いと、たちまち評判になり、今度獲物を持って行って“干物”に加工してもらおうかと言う奴もいた。

 確かに生肉や生魚にはない歯ごたえと、キューっと凝縮された濃厚な味、それに食欲をそそる香りは堪らない。

 クローゼ自身もまた、俺たち狼の群れの前で堂々と芝居を演じてみせたカイを憎く思う反面、手強い相手だと思った。

 しかし、腑に落ちない事がひとつある。

 なぜ奴は木の上で戦わなかったのだろう?

 あの強力な弓という武器を未だ知りもしない俺が相手なら、上手いこと接近させれば、一発で仕留められたかも知れないのに、奴はその千載一遇のチャンスを棒に振った。

 馬鹿なのか?

 いや馬鹿なら、仲間を惑わすために、山猫の群れが居るように見せかける仕掛けなど作りはしない。

 行ってみれば、あのカイと言う男は、みすみす自分たちが蓄えた食料を俺たちに与えただけに過ぎない。

 毒を混入したのなら、話も分かるが、この食料は上手いだけで毒の味も臭いもしない。

 おまけに、搬送に便利な竹の籠迄よこしやがって……。

 俺が妻にしようとして狙っていた、あの気の強いアーリアをあっと言う間に手懐けた憎い男。

 一度ならず二度までも、俺と仲間を退けた知恵。

 そして、俺の正面に立っても、少しも怯まないあの度胸。

 クローゼは干物を噛みながら憎々しく思い、考えていた。



「このドスケベ馬!」

「イテテテテ、もっと優しく」

「ああゴメン、ちょっとおとなしくしていてね」

 丁度近くにオトギリソウを見つけたので、葉っぱを揉んで汁を出して、それを幹部に貼り付けてシャツを裂いて作った応急用の包帯で巻く。

 ルルルとアーリアは、僕の治療が気になるみたいだけど、その先にあるものを凝視できずに少し目を伏せていた。

 まあ、あんなデカイもので頭を叩かれたら、誰だってビックリする。

 だって馬並みだから……あっ、そうか。こいつは馬だ。

「もう、大きくするなよ。今度は縛られている分、余計痛むぞ」

 包帯を結び終わって馬の尻を叩いた。

「ありがとう。命を助けてもらった上に傷の手当までしてもらって」

「いや、なんてことはないさ」

「……」

 馬は、訝し気にアーリアを見ていた。

「ああ、彼女はアーリアと言ってハイパーウルフ。つまり狼犬であって狼じゃないから心配しなくていいよ」

「狼犬?」

「そう。狼よりもズット賢くて、優しくて、人懐こい。おまけに美人。そして、こっちは山猫のルルル。その気になればヤギだって襲う小さいけれど素晴らしい運動神経の持ち主だけど、彼女もとても優しいから君のことは襲わないよ」

「ちょっとカイ、一言足りなくない??」

 ルルルが僕を睨んで言った。

「そうそう、こっちも飛び切りの美人だ」

「それでよし」

「ところで君は?」

「ああ、俺の名はライシャ。見ての通り平凡な馬さ」

「僕はカイ。四日も狼たちに終われていたと言っていたが、群れから外れたのか?」

「もともと群れにはいなかった」

「行き場所は?」

「ない。いままでは気ままな一人旅さ」

「そうか、じゃあ気を付けてな」

 彼の肩をポンポンと叩いて背中を向けると、その僕の前にライシャが回り込んできた。

「どうした?」

「カイ、君って今の俺の話聞いていたかい?」

「聞いていたけれど、なにか?」

「じゃあ、最後に俺の言った言葉を言ってみてくれないか?」

「カイ、君って今の俺の話聞いていたかい……あっ、ひょっとして僕の名前を使った駄洒落??」

「ちがう! その前」

「その前だと……“気ままな一人旅”?」

「その前!」

「もともと群れにはいなかった?」

 ライシャと僕のやり取りの、一言ごとにアーリアとルルルが身を乗り出しては崩れていた。

 いったいライシャが何を言いたいのか、僕にはよく分からないし、アーリアたちの苦笑も意味不明。

 突然ルルルが、戸惑っている僕の前に躍り出て来て「ライシャはねえ“いままでは気ままな一人旅さ”って言ったの! わかる?」

「わかるけど……??」

「あー、もう、じれったい。だからぁ――」

 ルルルの言葉を制するように、ライシャが首を伸ばして僕に言った。

「ゴメン。ハッキリ言うよ」

「うん……」

「助けてくれて有難う。俺を、君たちの仲間に入れて貰えないだろうか」


 こうして僕たちの旅に、馬のライシャが加わった。

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