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◆◇◆クローゼとの取引き◆◇◆

 明け方、狼たちの遠吠えが随分近くで聞こえたので目を覚ます。

 もう既にアーリアは起きて、臨戦態勢で声のする方を睨んでいた。

「クローゼたちか」

「そうだ」

「僕たちを追いかけて来たのか?」

「いや、違う」

「だったら、なんで?」

「馬の足音が聞こえる」

「馬!?」

「群れから外れた馬を追いかけ回しているようだ」

「近いか?!」

「ああ、こっちに向かっている」

 馬の命も大切だけど、狼たちにとって獲物も大切だ。

 だから近づいてこない限り、自然界の掟に口を出すつもりはなかった。

 けれども、ここで暴れられるのは困るし、馬から助けを求められれば無下にも出来ない。

「まさか、馬を助けるつもりじゃ無いだろうな」

「どうして?」

「助けると、厄介なことになるぞ」

「そうだろうな……」

 アーリアが心配する通り、馬を助けるとクローゼたちと遺恨を残すことになるだろう。

「助けを求められなければ助けることはしない。だけど」

「だけど?」

「助けを求められれば、助ける」

「厄介な奴だな、君は」

「それが人間さ」

「そうか、それが人間か……」

 とりあえずルルルを起こした。

「なあに? こんなに早くから」

「狼たちが来る」

 ルルルは驚いて、木の上に飛び上がった。

「カイも早く! 奴らは木には登れないから、その弓を持って木に登れば勝てるよ」

「ありがとう。でも、まだ戦うかどうか決めていないんだ」

「どうしてさ。折角強い武器も作ったのに」

「あっ、そうだ。良い事を思いついた! ねえルルル、長いツルを周りの木の枝に、この辺りを遠巻きに囲むように張ってくれないか?」

「いいけど、どうするの?」

「まあ、あとのお楽しみ♡」

 直ぐに一頭の馬が逃げて来た。

「ああ、助けて下さい。もう四日も追い回されて、休むことも寝ることも出来なくて体力の限界です」

 馬は、僕たちを見つけると真っ先に助けを求めて来た。

 四日も執拗に追われていたのでは堪るまい。

 そしてこれが狼のやり方。

 追いかけ回して、相手の体力の尽きた所を襲う。

 相手からの反撃を、最小限に抑えることで群れ全体を怪我のリスクから守るのだ。

 狼たちはこの戦法で、時には自分たちの10倍ほどの体重のある熊をも餌にしてしまう事もある。

 馬のあとから直ぐにクローゼたちがやって来た。

「アーリア、やはり裏切ったな……」

「ワレは元々、貴様などとは関係ないから裏切り者呼ばわれされる筋合いではない」

「まあいい。そこを退け! 馬を渡して貰おう」

「嫌だね」

 アーリアとクローゼは直ぐに一触即発の雰囲気に陥った。

 僕とアーリアは馬を背中に回してクローゼたちと対峙している。

「ちょっといいかいクローゼ」

 話に割って入る僕。

「なんだ、人間……」

「実は、僕とこの馬は昔からの友達で、君たちに渡すわけにはいかないんだよ」

 クローゼの目がギラリと光り“知るか!”と言っているのが分かる。

「でも、君たちだって聞けば、僕の友達を四日も追い続けていると言うじゃないか。だから、ただで引き取ってもらうのは気の毒だろ。そこでどうだろう取引をしないか?」

「取引?」

「そう。ここにある大きい籠ひとつと、小さい籠ふたつ分の芋と果物。それにこのツルに刺してある、干物にしたウサギと魚の肉でどう? 400キロの馬に比べれば10分の1くらいだけれど、僕らと闘って怪我をすることを思えば、安いと思うよ」

「フッ、笑わせるな。俺たちがお前と闘って怪我をするだと、たかがムチくらいで偉そうにするな!」

「実は、そう言われると思って、新兵器も用意しているんだ」

 そう言って弓を取り、矢を放つ。

 放たれた矢は、目にも止まらぬ速さで狼の群れのド真ん中にある木に突き立った。

 騒めく狼たち。

「あっ、それから僕の頭の上にある木を見てもらいたいんだけど、その木に山猫が居るだろ。 実はこの山猫たちと僕は仲間なんだ」

「山猫たち?」

 クローゼが周囲を警戒するように見渡す。

「そう。その山猫たちは、もう君たちをグルリと囲んでいる。わかるかい?」

 ルルルが「シャーッ!」と威嚇しながら、張り巡らせたツルを引く。

 すると、狼たちの背後の木々がザワザワと騒めき立った。

「どう? 僕の友人の馬に比べれば、たった10分の1の食料だけど、仲間が死んだり怪我を負うことを考えれば高い買い物じゃない。そうだろ」


 “確かにこの人間の言う通りかも知れない。もともと人間は木に登れるのだから、こんな飛び道具があれば木の上から俺たちを襲えば良い話。まあ木の上からでは、移動する俺たち全員を撃つことは出来ないだろうが、身の安全は保障される”


 クローゼは、そう考えながらアーリアを睨む。


 “確かにアーリアと言う最強の護衛が付いているとはいえ、反射神経の鈍い人間が地上に立って俺たちとやり合うなんてぇのは常識ではありえない。それに人間は賢い。ひょっとしたら山猫の他にも罠が仕掛けてあるかもしれない”


 群れがざわついている中、クローゼだけが静かにしていた。そして少しの沈黙のあとクローゼが条件をのんだ。

「見ず知らずの馬ならと思っていたが、お前たちの友達と知ったうえで餌にしちまうのは情け容赦もない奴と思われるのも嫌だな……」

「クローゼさすがに頭が良いな。森の王だけのことはある」

「おだてるな! 今日の所は取引してやるが、今度狩りの邪魔しようものなら、命がないと思え」

 クローゼは仲間たちに合図して、僕の差し出した品物を持って、森の奥へ消えて行った。

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