◆◇◆ルルルは膝の上で眠る◆◇◆
アーリアと水遊びをしている間に、すっかり時間が経ってしまい、空を赤く夕焼けが燃やしていた。
「体を冷やしてはいけないから、そろそろ上がろう」
そう言って寒い振りをしてみせて、おどけて笑う。
でも僕は寒いわけではなかった。
それよりも、ついつい楽しくて気が付くのが遅れてしまったことを後悔していた。
僕の体には体毛が殆ど無いから、体は直ぐに乾いてしまう。
しかし毛で覆われているアーリアの体はナカナカ乾かない。
夜の寒気に晒されれば、体温は直ぐに奪われてしまうだろう。
水から上がったアーリアの体を、僕のシャツで拭く。
僕が体重50キロくらいだと思っていたアーリアの体は、水に濡れると驚くほどスリムで華奢だった。
つまり思った以上に毛がモフモフだったという事。
「シャツが汚れてしまうぞ」
アーリアが遠慮してそう言ったけれど、僕は何度も絞っては彼女の体に着いた水を丁寧に拭き取ってあげた。
「別にシャツが破れて使えなくなるわけじゃない。ほら水を拭きとって、こうやって絞れば何度でも使えるし、泥なんかで汚れたら洗って乾かしてしまえば元に戻るのだから、気にしない気にしない」
アーリアも僕の言葉を聞いてからおとなしく拭かれていて、おおかた拭き終わり最後に「ハイこれで終了、あとは焚火の傍で暖まっておいで」とポンと肩を叩くと、ペロリと顔を舐められた。
「まあまあ、仲がいいこと。まるで新婚さんみたいね」と、見ていたルルルが嫌味を言う。
「やくなヨ。もしもルルルが誤って水に落ちてずぶ濡れになっても、同じようにして乾かしてあげるのだから」
「本当?!」
俯き加減だったルルルの顔が急に上がる。
「本当だとも」
ルルルの目がキラキラ輝く。
「でも、同じじゃ嫌!」
「嫌って?」
顔を覗き込むようにして聞くと「拭いたあとはズット抱っこして乾かしてくれる?」と聞かれたので「もちろん!」と答えた。
明らかに顔がパァ~っと明るくなると「じゃあ、カイたちにも晩御飯あげるね」と言って河原に掘った穴を見せてもらった。
そこに有ったのは、沢山の小魚。
「ルルルこれはいったい??」
「カイとアーリアが川の真ん中で暴れるものだから、小魚たちがみんな端の方に逃げて来たのさ。それを私が爪で引搔けて岸にあげたの。
……ああ、そう言えば指が水に濡れて凍り付くほど冷たいわ」
言われてプニプニの肉球を触ると、ホンノ少しだけ濡れてはいるが、凍えそうと言うには無理があるほど暖かい。
だけど僕たちが遊んでいる間に食料を確保してくれたのだからその労をねぎらうために、あぐらをかいて座った膝の上にルルルを乗せて焚火に当たった。
旅の疲れもあるのだろうか、直ぐにゴロゴロと甘えた声を出してフミフミして遊んでいたかと思うと、いつの間にか膝に乗ったまま寝てしまった。
「大丈夫か?」
「んっ、なにが?」
「膝、重くない?」
確かにアーリアが言う通り、少し重い。
でも、まあ、このスヤスヤと幸せそうに眠っている顔を見ると、起こすのが可哀そうだから「大丈夫」と笑って応えた。
すっかり暗くなった夜の闇に、狼たちの遠吠えが聞こえる。
クローゼたちが付けているのかもと思ったが、その声は近くはないので気にしないで、いつの間にか僕も寝てしまっていた。