◆◇◆猫と犬と人◆◇◆
アーリアの背中に籠を乗せ片方には芋、もう片方には果物を入れて、それに竹で作った水筒も二つ持ってもらった。
僕の背中の籠にも芋を積めて、肩には矢筒と干物にした魚とウサギの肉をツルに通したものを巻き付け、腰には水筒二つと矢筒を二つベルトに吊るしポケットにはナイフ。
そして、手には出来立ての和弓を持っているという重装備。
「二人とも早く、早く!」
先頭で僕たちを急がせているのはルルル。
「おまえなぁ、人を急がせるのなら、自分も何か持ったらどうだ? せめて水筒とか」
「だって水筒なんか持って歩いたら、いつか栓が抜けて水に濡れるかも知れないだろ。そうなったら元気も何も出やしないし」
「なら、芋を担げ」
「駄目、芋なんて興味ないもの。それに果物だって同じよ。干物なら持ってもいいよ」
「干物は駄目だ」
「何でよっ!?」
「お前は勝手に食ってしまう」
アーリアとルルルの会話を笑いながら聞いていると、アーリアから睨まれた。
「カイはルルルに甘すぎるぞ!」
アーリアが怒るのも無理はない。
ルルルだけ、何も持っていないのだから。
もっともクローゼたちのような狼の群れや、他の危険ともいつ遭遇してしまうか分からないのだから、必ず一人は身軽にして即応体制を取れるようにしておかなければならない。
そういう意味では、身の軽いルルルにはうってつけの任務であることは確かだ。
ただ困る事は……。
「あー、足がつかれた」
そう。
そんな風に言って、何度も僕やアーリアの上に乗り休憩してしまうこと。
猫はそんなに持久力はないから仕方がないけれど、休憩ではなくて籠の中に入って眠ってしまうのは勘弁してもらいたい。
もしもこの異世界でも進化の過程が僕の居た世界と同じなら、アーリアたちイヌ科の動物とルルルたちネコ科の動物の祖先は同じミアキスと言う哺乳類と言う事になる。
もっと大昔迄辿れば、みんなの祖先は同じ微生物に辿り着くけれど、僕たち人間よりも二人の祖先は近い。
それなのにどうしてこれほどまでに性格や性質、運動能力が違うのかと言うと、それは分かれた起源にさかのぼる。
ミキアスと言うのはイタチに似た小動物で、主に木の上で暮らしていた。
ミキアスから猫へと進化していった者たちは、木の上で自由気ままに暮らし、犬に進化して行った者は木から降りて積極的に餌を探す旅に出た。
犬たちは外敵から身を守るために、強靭な体力を身に付けた。
それは馬やシカ類を追いかけるに好都合な、何日も休まずに歩き続けることのできる能力や、空腹に耐える能力。
一方、木の上に残った者たちの中には大型化したサーベルタイガーも居たが、小動物の多い森の中では大型化してしまったことにより餌に困ることになり絶滅するか、より大型の草食動物を求めたライオンのように森を離れることになってしまった。
だからルルルのような小型の山猫たちは、結構気ままな生活なのだろう。
起伏のある森を幾つか抜け、一日歩いたら麓に着くかと思ったが、そんなに自然は生温くはない。
整備された道もなければ、上り下りに便利な階段も無くて、結局僕が一番の足手まといになっていた。
「今日は、この辺りで野宿するか」
僕が言うとルルルに「マダマダ夜にならないよ」と言われたが、人間の僕の眼は夜の闇の中では何も見えない。
それに焚火に使う木々も拾わなくてはならないし、できれば食料だって調達したい。
丁度小川を見つけたので今日はここで野営することにして、焚火に使う木々を拾い集め火を起こす。
これが結構な重労働。
根気よく木を擦り、やっと火がついた頃には、もう影が長くなっていた。