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第33話 乙女の成長

「少し熱くなってきたな……」


 俺は額にじんわりとにじむ汗を拭いながら呟いた。


「火口はあんなに遠いのにね……」


 隣で歩いているレアも辟易しているようだ。


 俺達パーティーは、イグニスさんの依頼をギルドを通して受け、火山の調査に向かっていた。


「しかし火山の調査ったって、具体的に何処をどう探せばいいんだよ……?」


 この広い山の中を当てもなく探したってどうしようも……。


「そうですね……。なんだか依頼内容も漠然としている気がします」


 クレアもこのクエストに違和感を感じているようだ。


「……もしかすると町長さんは私達を町から遠ざけたかったのデハ?」


 フェリルが何かを考えているように顎に手を当て、長い耳を少し垂らしながら自分の考えを口にする。


「俺達を……? 何のために?」


「さァ……? もしかしたら帰ってくる頃には祭りの準備を済ませて驚かそうとしているのかもしれませんヨ?」


「そんなバカな……」


 と言いつつ、あの人なら無くはないと思ってしまうのが怖い所だ。


「そうだとしたら俺達は何のために……。敵がいないクエストほど寂しいものはないぞ」


 俺がこのクエストのモチベーションを失いかけていると、


「敵はいるわ。“奴”が」


 先程まで黙りこくっていたサラが急に口を開いた。……というかコイツ小さい体でよくここまで着いて来たな。汗一つかいてないし。


「鐘の『怒』の(ルーン)が剥がされたって事は、奴の所に怒りが集まっていってないはず。このタイミングで奴は必ず行動を起こす……!」


 真っ黒な髪を振りかざして、サラは真剣な眼差しでそう言い切った。


「……どうしたんだサラ? イグニスさんの所で話を聞いてから急に態度が変だけど……」


 不思議に思った俺の疑問に、サラは憂いを浮かべたような表情で俯いたまま語りだした。


「私、()()()の事誤解してた。()()になったら人って変わっちゃうんだとずっと思ってたの」


 ()()()? イグニスさんの事か?


「でも違ったの。感謝を忘れていたわけじゃなかった……。早く皆に伝えなきゃ!」


 逸る気持ちを隠そうともせずに、サラは感情を露にする。……皆? サラの言葉に俺は一族の話を思い出した。魔王軍幹部にやられたと言っていたが……。 


「なぁ、サラの一族の人って、その、大丈夫なのか?」


 俺は言いずらそうにそう聞いた。


「……殺されてはいないのは間違いないわ。そんなことしたら奪った“怒り”が消えちゃうから。だから何処かに隠れているんだと思う」


 そうなのか。だからこんな回りくどい事を……。


「奴が人を殺すとしたら……それは火山を大噴火させる時よ。だから奴を見つけて早く止めないと……!」


「確かにそうだが、この広さで見つけるのはよっぽど運がよくないと……」


 ……運? そういえばこの世界に再び来る時に、女神様が「運」を文字(スペル)にして渡したって言ってたな。……「運」ってどうやって発動するんだ? 常時発動型なのか?


「物は試しだ……。とりあえずやってみよう。『運』!」


 俺は手を前に掲げ、いつも他の文字(スペル)を使っている時のイメージで叫んだ。すると自分の中で何かが光り輝いた! ……様な気がしたのだが何も起こらなかった。


「……まぁそう上手くいくわけないか」


「どうしたのですか?」


 クレアが振り返りながら、不思議そうにこちらを見つめてくる。


「いや、何でもないんだ。ちょっと試したい事があってな」


「??」


 クレアは首を傾げながら、また前を向いて歩き出した。


 うーん……。自分で発動させるものじゃないのか……? 俺がぶつくさと考えながら歩いていると、


――ビュオォォン


 急に吹き上げるような風が俺達のパーティーを襲った。そして、


「きゃあぁぁぁ!?」


 その吹き上げる風は、俺の目の前で勾配のある山道を歩いていたクレアのシスター服を腰までめくりあげたのだった。


 ……一瞬の静寂の内に風は止んだ。が、この後巻き起こるであろう嵐の予感は止む気配を見せない。


「……レンさんっ!」


 クレアが服を抑えながら顔を真っ赤にして、怒ったような目でこちらを睨んでくる。


「ち、違う! 俺は何も……!」


「じゃあさっきのは何だったんですか!?」


 !! ……まさか「運」が!? いや確かにラッキースケベなんて言葉もあるがまさかそんなアホな文字(スペル)があるわけが……。


「わ、わざとじゃないんだ! 勝手に……!」


「やっぱりレンさんが何かしたんじゃないですか!」


 くっ、誘導尋問とは卑怯なり! 俺が何とかクレアをなだめようと画策していると、


――ビュゴォォ!


 今度は吹き降ろすような風が頭上から吹いてきた。


「うわっ……」


 急な突風に俺は片腕で目を覆った。しかし目を開けるとクレアはまた俺を睨んでいる。


「ち、違う! 今度は俺じゃない!」


「今度はと言いましたね!?」


 俺とクレアが似たようなやり取りを繰り返していると、頭上から冷淡な声が響いた。


「急激な“怒り”を感知してきてみれば……まさか『無』がいるとはな……!」


 その言葉にバッと上へ顔を向けると、そこにはおどろおどろしい気配を漂わせる異形の獣人が宙に佇んでこちらを見下ろしていた。


 筋骨隆々の肉体に青白い肌。背中から生えている大きな翼。そして……馬のような顔の額から生える一本の鋭い角。


「サラ、こいつが……!?」


「ええ、私達の里を襲った奴よ……!」


 苦々しい顔で奴を睨みながら、サラは感情を抑えて肯定した。俺達はその言葉に一気に戦闘態勢に入る。しかし奴はそんな俺達の態度に意も介せず、


「ごきげんよう『無』のパーティー。一応自己紹介しておこうか。魔王軍幹部、“怒”のケロスだ」


 悪辣な笑みを浮かべながらケロスは、上げた片腕を降ろしながらわざとらしくこちらにお辞儀をした。そして視線をサラへと移すと、


「あぁ、誰かと思えばその娘は里にいたやつか……。不完全な幼体ゆえ、街へ行っても言葉も伝わらんだろうと見逃してやったが……まだこんな所にいたのか?」


 その言葉にサラは、怒りを抑えるようにケロスを睨みつける。


「……怒っちゃダメ……! 怒りを盗られてしまう……!」


 そうか、奴はわざと挑発して……! クレアにも怒らないように言わないと……! まぁこちらは既に二人取られているのだが。


「おい皆! 奴の挑発に乗るなよ!?」


「何だか知らないけど、私はもう盗られてるんだから遠慮する事ないじゃない! ここでやっつけちゃいましょう! 『(フレイム)』!」


 そう言ってレアは文字(スペル)を放つ。……しかし、


「ダメッ!!」


 サラの叫びも空しく炎は上空のケロスへと向かっていく。その先に佇むケロスはニヤリと口角を上げた。


「愚かな……! “精神感応”!!」


 ケロスの呪詛と共に、奴の角が淡く光った。……何だ?


――ボウゥン!


 炎に包まれるケロス。しかし俺の耳に飛び込んできたのは、ケロスの断末魔ではなく()()の叫び声だった。


「キャアアアアア!」


 急に倒れこむレア。


「!? どうした?」


 レアの元に駆け寄ると、肌が()()()()()。これは一体……!? とにかく俺はクレアに治療を頼んだ。


「“精神感応”……。奴は“怒り”を奪った相手に、自分が受けた傷と同じダメージを与える事ができるの」


 サラが忌々しく呟いた。同じ傷だって……!?


「あの能力のおかげで“怒り”を盗られた一族の大人達は反撃もできずに一方的に……!」


 その時の光景を思い出したのか、サラは感情を露にする。


「しかし、同じ傷だというのならあいつにだってダメージは通ってるんじゃ……!」


 俺のその言葉に反応したのはケロス自身だった。


「確かにダメージは通ってはいるぞ? まぁ種としての肉体強度が高い私にとっては微々たるものだがな。……心中覚悟でくる勇気があるのならくればいい。ハッハッハッ……!」


 人の心を弄ぶかのように高笑いするケロス。そんなケロスに、俺は元より考えていた計画を実行する。


「いいぜ……! 心中覚悟でやってやろうじゃねか! 降りてこいよ!」


 ……「無」で奴の文字(スペル)を消せば、全て何とかなるはず……! 俺は最初からそう考えていた。それには奴と接近戦に持ち込まないと……。こっちで“怒り”を盗られていないのは俺とクレアだけなんだし……。


 しかし、俺の考えは見透かされていた。


「分かる、分かるぞ『無』の小僧。お前の考えは手にとるように分かる。お前に『怒』は消させない……!」


 ちっ……。バレている……。奴が飛行能力を持っているのは計算外だった。さてどうするか……。


「なぜ私が飛んでいると思っているのか? 見え透いた罠よ……。ちなみにそこのプリーストの“怒り”も先程いただいたぞ?」


 !? クレアの“怒り”もだと……! さっきのか、チクショウ全然「運」が良くねぇじゃねぇか。


「さて、ここでお前達の相手をしている暇はない。街へ行って噴火のための最期の仕上げをしなければな」


 ケロスはわざとらしく翼をはためかせながらそう言う。


「!? ダメッ!」


 サラは思わず黒髪を揺らして叫んだ。そんなサラを見据えてケロスは仰々しく言い放った。


「これから街へ行き、親の目の前で一人ひとり子供を殺していくか……。そうすれば濃厚な“怒り”が集まるだろう……。わかるか娘よ……。街も、一族も。()()()()()()()()()()()()


「っ!!」


――グワッ!


 瞬間、サラのオーラが弾け飛ぶように強まった気がした。


「壊させない……!! この街も、皆も……! 壊させない!! 人間の感情は……そう簡単なものじゃないのよ! 変わってしまう事もあるけど、変わらないものもある! 嬉しさ 哀しさ、楽しさ……そうやって何百年と続いてきたんだから! 移ろいながら全力で生きるからこそ人間なのよ……人間の感情は……あんたが、あんたなんかが奪っていいものじゃないのよ!!」


 サラの慟哭は燦然と辺りに響いた。その叫びは俺ばかりか伝わらないはずのレア、フェリル、クレアにも届いているようだ。みんな驚いた顔をしている。しかしケロスは、己の肩の(ルーン)を光らせながら高笑いした。


「ハハハハ!! ついに、頂いたぞお前の“怒り”! これで噴火に必要な量が溜まった!! やはり()寿()の生物の感情は純度が高いな……!」


「長寿……?」


 俺は幼い少女の出で立ちをしたサラを見る。しかしそんな視線を無視して、サラはケロスを睨み続けている。


「今から人間共は神の怒りを知るだろう!! 未曾有の大災害に期待するがいい!!」


 一方のケロスはそう言い捨てて、火口へと飛んでいった。


「お、おいサラ……」


 俺のその言葉にサラは、真っ直ぐにこちらを見つめた。


「……私も覚悟を決めたわ。……お願い皆、力を貸して! 貴方達の力が必要なの!」


「あ、あぁ。元よりそのつもりだが……」


「あいつにはお返ししてやらないと気がすまないわ」


「……このまま“怒り”を盗られたままという訳にはいきませんしネ?」


「この街を救う道があるならば喜んで協力いたします」


 俺達パーティーは真っ直ぐなサラの頼みに真っ直ぐに返した。


「……ありがとう、一族を代表して……ううん、この地に生きる者として感謝します。……じゃあいくよっ!」


 そう言うとサラは両手を胸の前で組み、瞳を閉じた。するとサラの体が光り輝いて……


――カッ!


「グオォォォォォ!」


 一瞬の光が止んだかと思うと、目の前には咆哮を上げる()()が佇んでいた。


「早く! 乗って!」


 ……サラの声をした黒竜の騎乗案内に、俺達は頭がついていかなかったのであった。

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