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結局世の中ガチャ当てたもん勝ちですよね?  作者: 安登みつき
はじまりの街“ドーター”編
22/45

第22話 再転生

 「擬」……。


 レン殿の姿をした何者かの肩から覗いていた(ルーン)は「無」ではなかった。


「やはり偽者でしたカ……! レア殿! モンスターが化けているようでス」


 しかし、私の声など耳にも入っていない様子でレア殿はモンスターを睨みつけていた。


「アンタ……! レンの姿を騙るどころか私の……を触るなんて……! 覚悟は出来てるんでしょうね……!」


 何という怒りの形相なのでしょう。


「しかもレンがいなくなった所につけこんでこんな事して……許さないんだから!」


 確かに……状況的にもタイミング的にも、このモンスターがレン殿の手がかりを持っているのは間違いなさそうです。


 すると、モンスターは不気味に笑いながら言葉を紡いだ。


「お前たちは『無』の男を探しているんだろう……? 居場所、教えてやろうか?」


「「!!」」


 その言葉だけで私の心に僅かな期待の光が差し込むのが自分でも分かった。しかしそれは直ぐに絶望へと叩き落されることとなる……。

 

「『無』の男はな……俺が()()()()()()


「っっっ!」


 モンスターの衝撃的な告白を聞いた私達はあまりの驚きに顔が強張る。


「嘘だっ!!」


 気が付くと、私は認めたくないようにそう叫んでいた。


「嘘なもんか。俺の能力を使って、仲間の姿で近づけば余裕だったぜ」


「嘘よ!! あんたなんかにレンが負けるはず無いわ!!」


 レア殿の悲痛な叫びが辺りに響く。


「そんな……レンさんがまさか……」


 クレア殿も動揺を隠せない。


 普段なら信じずに軽く流せたかもしれないが、レン殿が行方不明になってから一週間も時間が経っているせいか、頭で振り払おうとしても、その言葉は鋭く心に入り込んでしまった。


「信じられないなら同じ所にいって確かめてくればいいさ……! 『擬』!」


 文字(スペル)を唱えたモンスターは、今度はレア殿の姿になった。……とにかく今は、やるしかない!


「死ねぇ!『(フレイム)』!」


 繰り出される炎の渦がレア殿に迫る。


「『(ウォーター)』!」


 私は迎撃するように、水球で炎を相殺した。


「レア殿の炎はそんなに弱くありませんヨ?」


 精一杯の強がりを言いながら、私は頭で最悪の事態を考えないように体だけを動かす。そして隣で立ちすくむレア殿に向き直る。


「しっかりしてくださいレア殿! レン殿は生きていル! そう信じると言ったのはアナタでショウ! あの啖呵は嘘だったのですカ!?」


「……!」


 彼女の言葉に私は助けられた。その言葉を、今は自分に言い聞かせるかのように本人へ向ける。


 すると、その言葉にレア殿は目の光が戻ったようにハッとした。


「そうね…… 私ったらどうかしてたわ……! ……ありがとうフェリル」


「どういたしましテ」


 仲間ですからネ。


「余所見をするとはいい度胸だな! 『風の刃(ウインドカッター)』!」


 二人のいる場所にモンスターの文字(スペル)が飛ぶ。


「っ!」


 慌てて避ける私だったが、レア殿は少し掠ってしまう。


「大丈夫ですカ!?」


「ええ……なんとかね……」


 やはり、心の揺らぎは身のこなしに影響してしまいますネ……。私はレア殿をかばう様にモンスターに向き直りつつ、クレア殿に治療をお願いしようと……


――ボゴォォン!


 ……思っていた所に轟音が鳴り響き、モンスターは横っ面を殴られ思いっきり吹っ飛んでいった。


「……なんだよ、あんな弱ぇ奴がレンを殺せるわけねぇよな」


 拳を突き出したクラレ殿は、期待はずれかの様にボヤいてた。


「ク、クラレ……アンタよく私と同じ顔をあんなにフルスイングで殴り飛ばせるわね……」


 あまりの躊躇いの無さにレア殿は少し引いている。


「あぁ? だってあれモンスターだろ?」


「そうだけど……少しくらい遠慮とかないわけ?」


「無い」


「そ、そう……」


 きっぱりと答えるクラレ殿に力なく返すレア殿。と、


「なるほどキルケがやられたのはこの力か……」


「お、まだ生きてたか」


 モンスターの声に再び好戦的な目をするクラレ殿。


「確かに脅威かもな……だが、()()()()?」


 そう言うとさっきとは比べ物にならないスピードでモンスターがクラレ殿に飛び掛っていった。


――ガシィ!


 目が追いついた頃には、クラレ殿が繰り出された相手の拳を受け止めていた。


「ほぅ……?」


「これハ……」


 そうか、奴の能力は……! 立ち並ぶ異質な光景を目の前に、私は奴の文字(スペル)の条件に気づいた。そう、()()()殿()()()()殿()の拳を受け止めていた。


「自分の力を前に潰れてしまうがいい……」


「おもしれぇ……やってみろ!」


 こうして二人のクラレ殿による乱打戦が始まった。



          §



「……」


 俺は転生の間で自分が経験した事を思い返していた。それを黙って待つ女神二人。


「確かにあの世界は大変だった……殺されそうになった事もあった。……元の世界に帰れば何不自由ない平穏が戻ってくるだろう。でも俺は……!」


「……いいのですか? 死んでしまうかもしれませんよ?」


「確かに、危険で不自由な生活が待っているかもしれない。でもあの世界には平凡に学校に通っていたら味わえなかった日々があるんだ! 何より……俺はもう一度あいつらに会いたい!!」


 俺の告白とも言える叫びに、女神様はにっこりと笑った。


「貴方はそう言うと思っていました。では調整はこちらでやっておきますので、フォルトゥーナ」


「分かったわよ。……後悔しないわね?」


「あぁ」


 俺の言葉に満足がいったのか、フォルトゥーナは俺を異世界に送る準備を始める。


「運命の女神フォルトゥーナの名において命じる……この者を再び彼の望む場所へ送りたまえ!」


――ギギギギ……


 転生の門が再びゆっくりと開きだした。


「……ありがとうなフォルトゥーナ、お前の神器のおかげで最高の仲間達と出会えたよ」


「呼び捨てにするんじゃないわよ!……こんだけやったんだから魔王倒さないと許さないからね!」


「あぁ、そんときゃまたよろしくな」


「フン……」


 そっぽを向くフォルトゥーナ。そんな彼女の仕草に、人間も神様も案外変わらないものなのかな、と不敬な事を考えながらふと、気になった事を聞いてみた。


「そういえば、今度はあの世界のどこに出るんだ?」


「さぁ?」


「……へ?」


 フォルトゥーナの余りにもさらりとした返答に思わずマヌケな声が出てしまった俺。


「……こっちから出来る事は、あんたをあっちの世界に送る事だけだわ。何処に出るかはあんたの運次第ね」


「そんな無責任な! せめてドーターの街に出る様にするとか出来ないのか!?」


「しょうがないでしょ! 何故か知らないけどあっちの神様と連絡つかないんだから! だからあんたをここに呼ぶのに、あっちの世界であんたが消えるまで待つ羽目になったんじゃない! ……そもそもあんたなんで救援要請も来ていない世界に行っちゃってるのよ!! おかげで探すのにめちゃくちゃ苦労したのよ!?」


「俺が知るかよ! ……というか話を聞くに、それはお前の作ったガチャチケットのせいじゃねぇのか!?」


「うっ……。そ、そうだわ! 私のチケットのおかげで魔王が存在するあの世界に行けたのよ! そこで幹部を倒せて消されるのを免れたんだから、私に感謝しなさい!」


 こいつ……! よく分からない開き直り方をしてくるフォルトゥーナ。……しかしあっちにも神様がいるのか。だが連絡がつかないとは……あっちの神様もお前みたいにサボってるんじゃないだろうな?


「私がいつサボったって言うのよ!!」


 心の声にツッコミを入れてくるなめんどくさい。というかお前はゲームやってただろ。


「と、とにかく、転移先の指定はできないわ! 前みたいにあんたを呼んでくれる人の所に出るんじゃないの?」


 そんな俺からの逆ツッコミをスルーするフォルトゥーナを尻目に、俺は顎に手を当てて思考を元に戻す。……しかしそうなるとまたイリアの所か……? だとしたらまた面倒な事になりそうな予感が……。


 そこまで考えた所で、俺は体に感じる浮遊感に思考を遮られた。……ってまたこんなせわしないのかよっ!!


「それでは……高橋蓮さんに幸あらん事を!」


 女神様の声に俺の体はまた、門に吸い込まれていったのであった。



          §



「オラオラオラァ!」


 クレア殿はモンスターを少しずつ、だが確実に押していた。やはり筋力が同じでも格闘センスや技術の差が出てくるようですネ。


「クッ……」


――ドッ!


 モンスターの腹に一発の拳が突き刺さる。


「へっ、どうしたよ。口ほどにもねぇぜ?」


 クラレ殿は息も乱さず言う。


「……確かにこの姿でお前に勝つのは難しいかもしれんな……だがあっちの奴らはどうかなっ……!」


 ニヤリと笑ったモンスターは突如レア殿の方へ接近する。


「仲間の力で死ねぇ!」


 急な接近とあまりのスピードに、私は対応できなかった。振り上げられる拳。近づいてゆく死の匂いに、その動きがスローモーションに見えた。


 体が動かない。……何が耳長族でショウ。いくら魔力が高かろうと、いくら身体能力が高かろうと……今。今この時動かなければ何の意味も無いのに。いつから私はこんなに弱くなってしまったのか。……それとも、彼がいないとこんなにも無力なのだろうか。


「……レンッ!!」


 やっとの思いで腰のナイフを引き抜こうとしたその時。私と同じ人物の事を考えていたのだろうか、レア殿の、彼を呼ぶ声と共に彼女の太もも辺りがぼんやり輝いたかと思うと、レア殿の目の前に眩い光が発生し魔法陣が浮かび上がった。


――ブワッ


「な、何だ……!?」


 私達も、モンスターも何が起こったか分からないようだ。やがて光が収まって……


――ドスン!


「いつつつ……何処かに送られる時はこればっかりだな」


 聞こえてきた声は、私が……私達が一番聞きたかった声そのものだった。



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