第18話 フェリルの秘密
「皆で露店を見て回りませんカ?」
リビングにて皆で朝食を食べている中、フェリルはそんな提案をしてきた。
「俺は別に構わないが……急にどうした?」
「こんなに街が賑わっているのは今だけかもしれませんヨ! お金も結局残ってますし何かイイモノが見つかるかもしれませン!」
「そうね! 折角パーティーを組んでるんだから皆で遊びに出ましょう!」
「オヤ? レア殿何やら機嫌がいいですネ? いい事でもあったのですカ?」
「な、何にもないわよ!!」
そんな調子で話は進んでいき、四人で街に出る事になった。
§
「わぁ……!」
そこかしこで広がる店の人だかりにクレアは目を輝かせていた。
「私、こんなに自由にお店を見て回るのは初めてなんです!」
「クレアは箱入り娘っぽいもんね」
「そう言いつつお前も楽しそうだぞ?」
俺は隣のレアにツッコミを入れる。まぁ確かにいつも歩いている通りとは思えないほど人が溢れ返っている。
「クレア殿も好奇心を抑えられないようですシ、行きましょウ!」
そういってフェリルはクレアの手を引いて露店の人だかりに突っ込んで行った。
「ちょっと待ちなさいよ! ほら、レン!」
はしゃぐ二人を追って、俺とレアも後に続いた。
――そこからはハイテンションな三人と露店巡りが始まり、流れるように時間が過ぎていった。
見た事もないフルーツが並んでる露店で、じゃんけんに負けた俺が謎の果実を食わされたり、筋肉ムキムキの店主が“俺に腕相撲で勝ったら賞金!”と銘打っている店にクラレが乗り込んでいこうとしたり……怪しげな古書店の前でレアが動かなくなったり……俺が持ち前の運の良さで福引の温泉地宿泊券を引き当てたり……とにかくもう色々あった。
……しかし福引き屋のおっちゃんにまで握手求められるなんて、魔王軍幹部を倒して少しは俺も顔が知られてきたかな?
……そんな慌ただしい中でも、皆めちゃくちゃ楽しそうにしていた。笑顔で楽しんでいる内に、普段は知らない仲間の一面を沢山知った気がする。屋台で買い食いしていると、フェリルは甘党なんだとか、クレアは意外と辛いのが好きだとか……。
中でもフェリルは普段の口調がだんだん砕けて、サイルさんと居る時の様な言葉遣いになってきたのは嬉しかった。……俺達を家族の様に思ってくれだしている気がして。俺が宿泊券を当てた時の笑顔が若干寂しそうに見えたのが少し気になるが……。
「レン、次はあの店よ!」
「お、おい、少し休まないか?」
「ダメです! お店は待ってはくれないんですよ?」
クレアまで……こういう時女子の方が強いのは何処の世界も一緒か。……いや元の世界でこういった経験は無いが。そう考えると幸せなのかもしれないな……。そんな事を考えながら、俺は三人に振り回され続けていった……。
§
「だからあれは絶対右でしたヨ~!」
「本当かー? お前『探』使ったんじゃないだろうな?」
「失敬ナ! あのぐらい文字を使わなくても長年鍛えたシーフの目でわかりますヨ!」
遊びまわった俺達は結局何時もの酒場で夕食を食べていた。どこか高い所行くか?、と提案したがフェリルが何時もの所がいい! と譲らなかった。そんなフェリルから俺は昼間の露店マジシャンの“タネを見破ったら賞金!”の事を言われているところだ。
「……でも本当に楽しかったです。教会で修行していた頃はこんな事想像もしていませんでした」
しみじみと呟くように言うクレア。
「そうね……。私もよ」
それに続くレア。
「そうだよな。なんてったってレアは昨日……」
「わぁーー!! ちょっとレン! アンタ何口走ろうとしてるのよ!!」
慌てて俺の口を塞ぐレア。
「オ? 何ですカ? いいじゃないですかレア殿、私達は仲間ですヨ!」
「それとこれとは別なの!」
断固拒否するレア。
「親しき仲にも礼儀ありよ! フェリルだって隠し事くらいあるでしょ!」
そう言われたフェリルは急に神妙な顔になった。
「……そうですネ。この際言っておきましょうカ……」
急に流れるシリアスな空気に俺達は静かになる。
「な、何よ……。言いたくない事なら無理に言わなくてもいいのよ?」
「いえ、仲間である皆さんには言っておかなけれバ……」
その尋常ならざる面持ちに息を呑む俺達。
「実ハ……」
「実は……?」
――ゴクリ。
「……家具屋さんにベッドを手配しに行った時、持っていったお金が少し足りなくて……レア殿のだけ中古でス」
「もったいぶって何よそれぇぇぇ!!」
レアはフェリルの首を掴みブンブン振り回す。
「ご、ごめんなさイ~……帰ったら私のと替えていいですかラ~……」
頭をシェイクされるフェリルはそう振り絞るのが精一杯のようだ。……そんな光景を見ながら俺は、自分の考えを最近の違和感と結び付けていた。
§
「もうっ! ホントにフェリルったら……」
屋敷に帰ってきた俺達はリビングでくつろいでいた。……レアのボヤきを聞きながら。……肝心のフェリルはサイルさんの所に寄ってから帰ると言い残してそそくさと消えてしまった。
「まぁまぁ、今日は沢山歩きましたしお風呂入りましょう! 私お湯沸かしてきますね!」
そう言いながら風呂場へと向かっていくクレア。
そんな中俺は、今までのフェリルの事を思い返していた。今日の、いや最近のフェリルは何処と無くおかしかった。
王城の乱入。出会いのセリフ。クリスタルの保管。食料の買い込み。姉の店での視線。そして今日の態度……。
「……」
「どうしたの? 難しい顔をして」
俺が言いようも無い胸騒ぎとともに頭の中の違和感を整理していると、怪訝に思ったレアが聞いてきた。
「いや……何でも……。なぁ、レアは今日のフェリルの事どう思った?」
「……とっても楽しそうだったわ。でも同時に少しだけ寂しそうでもあった気がする」
「……俺もそう感じた、何でだろうな?」
「さぁ……? あまりに楽しくて何時もの日常に戻りたくないんじゃないの?」
「そんなバカな……。 !!」
――バッ!
「キャッ! ……どうしたの?」
急に立ち上がった俺に驚くレア。しかし俺の頭は別の事でいっぱいだった。
戻りたくない。
頭の中の違和感が一つに繋がる感覚を覚えた俺は、急いで走り出した。
「ちょっと行ってくる! レア達は先に風呂に入っててくれ!」
「ちょっと! ……何なのよ一体?」
そんなレアの呟きに答える暇もなく、俺は自分の部屋に付加剣を取りに行ってから、サイルさんの店へと走っていった。
§
――はぁ、はぁ、
俺は一心不乱に店への道のりを急いでいた。今までのフェリルの行動を思い返しながら。
間に合えっ……!
――バタン!
「……どうしたのですカ? そんなに急いデ」
俺が店の扉を開けると、そこには一切表情を変えずにこちらに振り向くフェリルがいた。
「……フェリル、その手に持っている物は何だ?」
「この店の商品ですヨ。ちょっと気になったのデ……」
「……最初に来たときからそれが置いてある方向をちらちら見てたもんな」
俺はレブナント退治を依頼された日の事を思い出す。
「……時計を見るなんて不思議な事じゃないでショウ?」
そう。フェリルの手には小さな置時計があった。
「それがただの置時計ならな……」
俺の予想が正しければ……、
「……その顔はもう気づいているようですネ」
その言葉に俺は自分の鼓動が早くなるのを感じた。
「……お前との事を思い出していたんだ」
「……聞きまショウ」
「まず最初にフェリルと出会った時、俺が名乗る前にお前は俺達の名前を知っていたよな?」
「……冒険者同士ですからネ。ギルド内で名前を聞くこともあるでショウ」
「あの時俺は冒険者を始めて二日目だぞ? それにメタルドロルの耐性が『無』で消せる事を知っているような口ぶりだった」
「王城に入った時『無』を見たのかもしれませン」
悟ったような顔で返答を続けるフェリル。
「お前が城に侵入してきた時、俺はまだ『無』を手に入れてなかった。そもそも何故お前はわざわざ俺を助けに王城へ侵入した?」
「……」
フェリルは答えない。
「まだある。お前はキルケによる食糧危機が起きる前に食料を買い込んでこの店へ置いていた」
「研究ばかりしている姉を心配するのは家族として当然のことデス」
「……その後俺は墓地へ行き、そこに転移陣登録をした。そして直後にアンデッドを喰わせる事が攻略法の敵が現れた。俺は何かに導かれるかの様に対抗策を揃えていたわけだ」
俺の言葉をフェリルは黙って聞いていた。が……。
「……またこのタイミングで気づくのですネ」
「フェリル……お前……」
その言葉に俺の予想は確信へと変わった。
「いいですヨ、最後に何でも答えてあげまス。何が聞きたいですカ?」
喉が焼け付くように熱い。俺はやっとの事で声を絞り出した。
「……フェリル、お前何回目だ?」
――フェリルが持っている時計の裏部分には「遡」の印が刻まれていた。
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