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結局世の中ガチャ当てたもん勝ちですよね?  作者: 安登みつき
はじまりの街“ドーター”編
17/45

第17話 憧れのマイホーム!

冒険者仲間の名前を変更しました。

「いやっふうううううう!」


「もっと酒だぁぁぁぁ!」


 ギルドの酒場は未だかつて無い盛り上がりに包まれていた。いや、酒場だけではない。ドーターの街全体が盛り上がっていると言ってもいいだろう。


 何せ駆け出し冒険者が多数を占めるこの街で魔王軍幹部が討伐されたのだ。


 キルケ討伐の知らせは、助け出された行商人達を通じてドーターのみならず周辺の街や王都にまで広く知れ渡った。参加した冒険者には討伐時のクリスタルに加え、王城からの指名手配報奨金や救出した商人からのお礼のお金が平等に分配され潤いに潤っていた。


 更には助けた商人からの口コミや、他の町からの行商人が商機とばかりに大勢ドーターになだれ込んでそこらじゅうで露店を始めており、街は軽くお祭り状態だった。


「よ~おレン! 飲んでるか~!」


「あぁ、トール。飲んでも全然酔わないけどな」


「かぁー! 羨ましいぜ」


 俺達も例に漏れず、酒場で祝賀会に参加していると冒険者仲間のトールが出来上がった様子で話しかけてきた。


「なんてったって今回はお前が討伐成功の立役者だもんなぁー!」


「皆のおかげだって言っただろ? お前の魔法も凄かったぜ」


「おーおー、英雄サマは調子がいいこった!」


「ホントだって。そうだ、その凄い魔法を俺にも教えてくれよ!」


「俺の『雷』をか~? しょうがねぇなー! いいぜ!」


 そういってトールは俺の肩に手を置いた。


 バチッ! ――キィィン 【スペル取得 「雷」】


「サンキュー! トール」


「いいってことよ! なんせ俺達は魔王軍幹部を討ち取った仲だからなー!」


 その後、フラフラになるまで武勇伝を語ったトールは自分のパーティーの仲間達に引きずられていった。


「……アンタ、特別報酬の受け取り拒否して全員に分けたと思ったらそんなことしてたのね」


 酔い潰れてしまわない様に、サークをちびちびと飲みながらレアがジト目で見つめてくる。


「皆のおかげってのは本当だからな。それにこの街の皆とは仲良くしておきたいんだ」


「ふーん……」


「キルケの野郎から『矢』も頂いたし結構手札がそろって来たぞ!」


「肝心のステータスはまだまだだけどね」


 うっ、それを言われるとツライ。痛い所を突かれた俺は話題を変える。


「まぁでも特別報酬を受け取るべきはトドメを刺したクラレだと思うけどな」


 そう言って俺は隣で飲んでいるクレアを見やった。


「そんな、私は今回何も……。クラレも『楽しかったから満足』と言っています」


 アイツは相変わらずムチャクチャだな……。


「素で幹部と殴り合えるなんてアイツのステータスはどうなってんだろうな……。こーんな細い腕なのに」


「レ、レンさん……!」


 手を取り腕をフニフニする俺に、顔を赤くするクレア。


「レン! 女性に失礼よ!」


「……! すまんクレアつい!」


「いえ……」


「無」で酔わないと思っていたが俺も幹部討伐で気分が高揚しているのかもしれない……。若干顔の赤くなったクレアを見ながら俺は少し反省した。


「アララ? お楽しみ中でしたカ?」


 そう言いながら唯一祝賀会に居なかったパーティーメンバー、フェリルが戻ってきた。


「おぉ、何処行ってたんだよフェリル!」


「姉の所でス。色々取りに行くものもありましテ」


「サイルさんの所? ……そういえば食糧危機だったけど大丈夫だったの?」


「エエ、少し前に()()()()食材を買い込んで置いていっていたので。……まぁアンデッド化してずっと研究やってたみたいなんで殆ど減ってませんでしたガ」


 あの人は相変わらずだな……。しかしあの墓場での一件からキルケ討伐のヒントを得られたのでサイルさんには感謝だな。


 ……ここで、なにやら薄い違和感が俺の頭の中をよぎったのだが、俺はその正体には気づけずにいた。


「まぁしばらく懐に余裕もあるし、このお祭り騒ぎが終わるまではのんびりしてていいんじゃないかしら? ここ最近色々立て込んでたし」


 と、のん気に言うレア。


「そうだな、報奨金を分けたといっても結構あるぞ。何か買いたい物でもあるか?」


「私は特には……」


 クレアはほっとくと教会に全部寄付しそうだな。


「ワタシはありますヨ!!」


 キラキラした目で手を上げるフェリル。


「何だ?」


「フフフフ……。そろそろ必要ではありませんカ……? 拠点とすべき私達の“家”でス!!」



          §



 俺達は賑わいを見せる街中を、フェリルに連れられて歩いていた。


「でも私達は収入が不安定な冒険者よ? 譲ってくれる家が見つかるかしら?」


 長らく倉庫暮らしだったせいかやたら心配するレア。


「だからこそ纏まったお金のある今なんじゃないですカ! ……正直キャッシュじゃないと厳しいと思いますシ」


 やっぱりそういうもんなのか。


「しかし家か……確かにずっと宿屋暮らしだったもんな」


「私はプリーストとしてお手伝いがてら教会にお世話になっていましたが……」


「でも自分の部屋があったらそれはそれでいいだろう?」


「それは……そうです」


 ……そういえばクレアのプライベートな事ってあんまり知らないな。


「クレアって料理とか出来るの?」


「え? あ、はい。一応一通りは幼い頃に学びました」


 なんと。金髪といい治癒文字(スペル)といいやっぱりいいとこの出なんだろうか。


「私だって出来るわよ!」


「お前の出来るは何となくサバイバル感がある」


「なんですってー!!」


 飛び掛ってくるレアをあしらいながら宥めていると、


「着きましタ。ここでス」


 そう言うフェリルの声で立ち止まると、俺達の目の前には厳かで立派な建物がそびえ立っていた。


「ここが不動産屋なのか?」


「イイエ、ここは銀行でス。不動産屋に行く前に寄りましタ」


「銀行? なんでまた?」


 そもそも俺は利用した事もない。レア達と顔を見合わせているとフェリルが説明を始めた。


「そもそも私達は冒険者なので、家を買うとなれば一括しかありませン」


「そうね、さっきも聞いたわ」


「しかし幾ら幹部の討伐金が出たといっても、家具やその他諸々を考えると四人で住む家を買う資金としては少し心もとないでス」


 うーん……。そうなのか? 隣のレアを見ると難しい顔をしている。


「……確かにそうだと思うわ。でも何でそれで銀行に? まさか借りるって言うんじゃないでしょうね」


「イエイエ、()()を換金するためでス!」


 そう言ってフェリルは懐からあるものを取り出した。


「……ああああーーーー!!」


 レアの大声が響く。フェリルが取り出したものはなんと、いつかのメタルドロルを倒した時のクリスタルだった。


「なななな、なんでアンタがそれを持ってるのよ! 使ったんじゃないの!?」


「あの時はレア殿が怖くて咄嗟にそう言ったのでス。本当は姉さんの店に保管してありましタ」


 悪びれもなくそう言うフェリル。クレアは何のことか分からずに首を傾げているが、レアはあまりの事態にフリーズしている。


「コレを換金して購入資金にしまショウ! では換金してきますネ」


 そう言って銀行の扉を開けて奥へと消えていくフェリルを、俺達は見送る事しかできなかった。


 が、フェリルが背中を見せる直前に、かすかに聞こえたような気がする言葉の意味を、俺はこの時まだ理解できずにいた。


「……()()揃ってから家を買いたいですかラ……ネ……」





          §



「おー……」


「わぁ……!」


「……」


「中々いいじゃないですカ!」


 俺達四人は新しい家の前で四者四様のリアクションをしていた。俺は驚き、クレアは感嘆、レアは茫然、フェリルはハイテンションだ。


 難航すると思われた俺達の物件探しは意外にもすんなりいった。


 というのも物件探しに訪れた不動産屋のオーナーが、幹部討伐の立役者の俺達パーティーを痛く気に入ってくれたからだ。何でも討伐記念バブルのおかげで色々とやっている事業が潤っているらしい。


 そんなこんなで俺達にかなり好条件の物件を紹介してくれた。こじんまりとしたお屋敷と言うことだったが、四人で住むには充分な大きさで小さいながら庭もあり、ギルドからも程よい距離で立地も良い。何処からどう見ても立派な洋館といった感じだ。


 冒険者向けの物件の候補もあまり無かったし、予算の七割程度にしてくれるというので俺達は即決して現物を見にきたのだ。


「私、冒険者になってパーティーで一つのお家に住むのが夢だったのです!」


 目を輝かせて喜ぶクレア。


「……でもいいのでしょうか? 私はそのメタルドロルを倒した時にはまだパーティーに入ってなかったのですが……」


「いいに決まってるだろ。キルケの報奨金も使ってるんだし、それにクレアはもう俺達のパーティーに欠かせない存在なんだから」


 正直キルケはクラレが居なければ倒せなかっただろう。俺が素直な気持ちを伝えると、


「レンさん……」


 クレアが少し潤んだ瞳でこちらを見ていた。何だか気恥ずかしくなっていると……、


「さぁさぁお二人さン! こんなところで突っ立ってないで中を見て部屋割りを決めましょウ!」


 グイグイくるフェリルに押され、俺達は中へ進んでいった。……と、後ろを見るとレアが屋敷を見つめたまま突っ立っている。


「おーい? レア? 何やってんだ、早く中を見に行こうぜ」


「え……? え、えぇ、行きましょ……」


 ……どうしたんだコイツは? ぎこちない足取りでお屋敷に向かってゆくレアを俺は不思議そうに見つめていた。



 屋敷の中はそこそこに手入れが行き届いており、少し掃除してベッドを運び込めば直ぐにでも生活できるレベルだった。風呂も広々としており、一体この屋敷は何用に作られたのかと頭を捻ってしまうレベルだ。


「よし! 皆文句無いな! ここに決めて契約してくるぞ」


 異存なく決まったので、俺は不動産屋と契約、フェリルはベッドの手配、レアとクレアは屋敷の掃除という役割分担になった。ベッドは皆で見に行かなくてもいいのかと聞いたが、市販されているベッドは全部ほぼ同じらしく人数分を届けてもらうだけと言われた。


 そんなこんなで俺達の新生活への準備が始まった。


   ーー残り3回


          §



――夜


「ほぅ、それであそこに越してきたというわけか」


 荷解きも終わり、各自の部屋にベッドを運び入れた俺達はギルドで夕食をとり、帰りにサイルさんの店に寄っていた。


「しかしお前達が魔王軍幹部を倒していたとはのぉ……。道理で外が騒がしいと思ったわい」


 これだけ街がお祭り騒ぎになっているのにずっと家に居たのかこの人は……。


「この人がフェリルさんのお姉さん? はじめましてクレアと申します」


 そういえばクレアは初めてだったな。……するとサイルさんはクレアの事をじっと見つめている。


「金髪碧眼にクレア……? お主、コンフォート家の者か?」


「!! は、はい……」


「そうか……。フェリルよ、いい仲間を持ったのぉ。コンフォート家の癒しの技は国でも随一じゃ。大事にするんじゃぞ?」


「言われなくてもクレアは大事な仲間よ」


 なんと。そんなに有名な家柄なのかクレアは。しかし何やら揉めたとか言ってたし……触れないでおこう。


「よし! 引越し祝いじゃ! そこらへんに転がっておる物なら一つぐらい持っていってもよいぞ!」


「……っつってもなぁ。この前付加剣(エンチャント・ソード)もらったばっかだし……。どちらかと言うと今は武器より家具が欲しいぞ」


「わがままじゃのぉ。お主らはどうじゃ?」


 そう言ってクレアとレアに振るサイルさん。


「私も特には……というか使い方も良く分からないものばかり……」


 確かに武器かどうかも分からない物のほうが多い……。


「これは何?」


 そう言うレアの手には何やら桶の様な入れ物があった。


「おお、それは『振』の魔道具じゃ。中に水を入れて話しかけると、その振動を水面が記憶するのじゃ。次に衝撃を加えたときに記憶した言葉を再生するという代物じゃぞ!」


「何に使うんだそれ……」


「失敬な! ドアの近くに置いておいて、誰か来たと同時に『今日は休みじゃ』と言わせる役目で活躍しておるのじゃぞ!」


 ……この店は商売する気ないなホントに。


「……じゃあこれ貰って良い?」


「あぁよいぞ」


「おいレア、そんなのでいいのか?」


「うん。皆が使える日用品の方がいいでしょ?」


 まぁレアが良いならいいんだが……俺は妙におとなしい今日のレアの様子に何も言えなくなった。



          §



「ふー……今日からここが俺達の家か」


 俺は自分の部屋のベッドに転がりながら感慨に耽っていた。思えば王城に召喚されてから今まで色々な事があった。全く体験した事のないことばかりだったが、生きるのに必死でこうやって居を構えて落ち着くまで振り返る暇も無かったな……。


――コンコン。


 俺が物思いに耽っていると、ドアをノックする音がした。


 ドアを開けると、黒髪がしっとり濡れたレアが立っていた。上気した頬がほんのり色っぽい。


「お風呂空いたわよ」


「あ、あぁ」


「どうしたの? へんなの」


 俺の生返事にレアは首を傾げる。


「な、何でもないよ。それよりお前こそ今日は何か変だったぞ。どうしたんだ?」


「……」


 俺の言葉にレアは黙ってしまった。何か変なこと言ってしまったか……?


「……実感が沸かなかったの」


 しばらくしてレアはポツポツと語り始めた。


「今まで私、ずっと一人だったの。『孤』のせいもあるけど、この街に来てからも周りに迷惑かけないように毎日一人で行動してた。それが当たり前になってたの。でもアンタと出会って変わったわ……。仲間が出来て、一緒に冒険して……あんな大勢でお酒を飲むなんて考えもしなかった」


 そっか……コイツは……。


「それで今日、こんなお屋敷に皆で住めるなんて……って思ったら何か実感沸かなくて……だから何と言うか……アンタには感謝してるって言うか……」


 後半しどろもどろになるレア。


「あーっもう、とにかくそんな感じなの! 私もう寝るから! アンタもさっさとお風呂入って寝なさいよね!」


 そう言うとレアは自分の部屋に走っていった。


「……一人で完結しやがって。……風呂入るか」


 残された俺は、若干の気恥ずかしさを拭いつつ風呂場に向かった。


――


「おぉ、やっぱ広いお風呂は気持ちが良いな!」


 改めてみる風呂場の広さに俺は満足していた。


「さて、先ずは体洗うか」


 俺は洗い場の前に移動し、置いてあった風呂桶に手をかけると……


――レン、パーティー組んでくれてありがとう――


「レア?」


 響いたレアの声に俺は思わず振り向く。誰も居ない。脱衣所にも人影は無い。


「……?」


 不思議がる俺は桶に入っていたお湯を流す。……ん? これは……見覚えのある桶が気になった俺は、空になった桶をひっくり返してみる。すると裏底には「振」の(ルーン)が刻まれていた。


「……なるほど」


 あいつめ。



          §



――翌朝。


 俺が起きてリビングに行くと、眠れなかったのかもうレアが先に起きていた。


「おはよー」


「おはよう、レン」


 ! はたと思いつき俺は企みを行動に移した。


「なぁレア」


「何?」


 こちらに振り返るレア。


「……これからもよろしくな」


 俺の言葉にレアは一瞬目を見開いたが直ぐにいつもの調子に戻った。


「……当ったり前じゃない!!」


 ……少し照れたようにそう言い放つレアの口元がニヤついていたのを俺は見逃さなかった。

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