第13話 エンジニア・シスター
――拝啓、お久しぶりです。レンです。あの後無事(?)ドーターの街へ到着しました。持たせてもらったお金で冒険者登録をして、何とか冒険者やってます。
そうそう、俺の「無」の三つ目の能力が分かりました。受けたメインスペルを覚える事が出来るラーニング能力です。最近まで気づかなかったのですが、こっちに飛ばされたときに「移」も使えるようになってたみたいです。まだ熟練度が低くて、大した距離は移動出来ませんが……。
能力が分かったら手紙を書くと約束していたので筆を執りました。こっちで何とかやっていく間に仲間も出来たので、今度王都に行った時に顔でも見せられれば幸いです。また何かあればご連絡致します。敬具。
「ふぅ、こんなもんかな」
俺は宿屋の自室でシアルさんへの手紙を書いていた。暫く経つが、全く連絡していなかったのを思い出して急いで書いたのだがおかしくないだろうか……?
そんなことを考えていると、いきなり部屋のドアが開いた。
「レン殿! デートにいきましょウ!」
§
俺とフェリルは並んで街中を歩いていた。ヴァンパイアを倒したお金で暫く余裕が出来たので今日はクエストをやらずに休みになったのだが……、
「ほらほら! 折角のデートなんだから手でも繋ぎましょうヨ?」
「だからデートじゃなくてお前のおススメの魔道具店に武器を見に行くんだろ?」
「つれないですネ~レン殿は」
そう、資金に余裕の出来た俺は自分の武器を買おうとフェリルの紹介する店へと連れられている。
しっかし能天気だなコイツは。そう思いながら隣を歩くフェリルの顔を見ていると、
「どうしたんですカ? そんなに見つめて。惚れちゃいましたカ?」
「違うわ。それよりまだかおススメの店とやらは」
「もう~照れなくてもいいのニ。もう直ぐですヨ。……っとその前に」
フェリルは近くの食料店にふらっと入っていったかと思うと、これでもかとばかりに果物や保存食品を買い込んできた。
「はい! これ持ってくださイ!」
どさっと紙袋を俺に渡してきた。ってか重ッ!
「こんなに買い込んでどうするんだよ」
「持っていくんでス! 買える時に買っておかないと後悔しますヨ~? ……それに必要になるだろうシ……」
一瞬真剣な顔になったフェリルに、俺が疑問符を浮かべていると、
「女の子の荷物を持ってあげる男の子はカッコイイですヨ~! ほら行きましょウ!」
直ぐにいつもの様子に戻った。そんな調子で歩きながら裏路地を進んでいくと、フェリルはなにやらおどろおどろしい店の前で立ち止まった。……まさかここなのか?
「おい、大丈夫かここ……?」
「問題ないですヨ。見た目はちょっとアレですが腕は間違いないでス」
そんなことを言いながら入っていくフェリル。俺も後を続いていくと、
「あれー? いないって事はまた奥でやってるのかナ?」
……中には所狭しとモノが置かれてあった。何かの溶液に浸けられた物体や淡く光る鉱石、何に使うのか分からないいびつな形をした器具まで様々だ。というかココ本当に店か? 値札も何もあったもんじゃないぞ? 荷物を置いてしばらく見て回っていると奥から、
「もーまたこんなにして~。ちゃんと食べているのですか?」
何やら珍しい声色のフェリルの声が響いてきた。
不思議に思った俺は奥を覗くと……
「今いい所なのじゃ、ちょっと待たんか」
「そういって何時間も続けちゃうでしょ姉さんは!」
フェリルと同じ長い耳を持った小柄な女性が、うず高く積まれた紙の山のなかでペンを走らせていた。
§
「この人が私の姉さんで、この店の店主のサイル・ヴェスタゴールです」
フェリルに甲斐甲斐しく世話を焼かれている目の前の人物は、レアと同じくらいの小さな背丈に大き過ぎるくすんだ白衣を身にまとい、ボサボサの髪で気だるそうにしている。
「なんじゃフェリルよ、久々にきたと思えば男連れか?」
「ち、ちがうわよ! この人は今一緒にパーティーを組んでる人! 姉さんの店に武器を見に来たの!」
……なんかフェリルの様子がいつもと違うな。身内がいるから、とてもくだけて見える。いつもの調子は外行き用なのか……?
「ほっといたら姉さんはずっと研究ばっかしてるんだから……」
「それしかする事がないからのぉ。それに新たな物を開発するのがわしの生きがいなのじゃ。……それでレンとやら、何が欲しいんじゃ?」
「あー……やっぱり剣かな。スペルで作った剣じゃ燃費が悪いからな」
「刀剣類ならその辺に作ってみた物が転がっとるから適当に選べ」
見ると置いてある樽や棚に剣が無造作に置かれている。
「姉さんは作り終わった物にはあまり興味がないの……」
俺は置いてあった一本の剣を手に取る。長さも重さも悪くない。
「これはどういう剣なんだ?」
「それは『熱』の印が使われておってな、敵に接触すると高熱を発し相手を焼き切るものじゃ」
へぇ、悪くないな。
「柄も発熱するから持ってられんがな」
「ダメじゃねーか!」
何て代物だ。
「使えるか使えないかじゃない。印を武器に宿らせた時点で成功なのじゃ」
「……この店は研究の過程で出来た物を売ってるの。中にはいいものもあるんだけど……」
なるほどガラクタ、もとい副産物の宝庫なわけか。
「というか印って物にも刻む事ができるんだな」
「印そのものが刻まれているわけではない。文字によって生み出された能力を、わしの『改』によってモノに落とし込んでいるのじゃ。魔法構造や魔力の流れを完璧に把握しないと成功しないし、簡単なことではないのじゃぞ? ……まぁ普通の作り方ではないのじゃがな」
よく分からないが、こう見えてサイルさん優秀なんだな。それはともかくこの発熱剣はダメだ。俺は別の剣を手に取った。
「じゃあこれは?」
「おお、それはなかなかの自信作じゃぞ! 刀身に薄く吸魔石が混ぜ込んであって、文字の能力を刀身に宿らせる事ができる付加剣じゃ!」
ほう、それはなかなかいいんじゃないか。少し小振りだが小回りも利きそうで悪くない。
「なぁ、これって俺の『無』をエンチャントしようと思ったらどうなるんだ?」
「『無』? 何じゃ? お前の文字か?」
俺は「無」の能力を説明した。するとサイルさんの目が光りだした。
「ほう! モノを無にする力とな! 面白い! ……しかしエンチャントは無理じゃろうな。ただ剣が消えてしまうわい」
まぁそうか。しかしどんどん文字が増えてくれば使い勝手も良くなりそうだし、応用力のある武器だ。
「これいくらなんだ?」
そう聞いた俺にサイルさんが提示してきた金額は、先日のヴァンパイア報酬をつぎ込んでも足りない額だった。
「しかし、妹の知り合いじゃ。わしの頼みを聞いてくれるなら10分の1の値段でもよいぞ!」
何かを企むようなサイルさんの目が怪しく光っていた。