第11話 回復役をゲットせよ!
少し加筆修正を行いました。
――キィン! キィン!
俺は教わった剣でフェリルと剣戟を繰り広げていた。
「なかなか筋がいいですネ、レン殿」
こっちの剣を全てナイフでいなしといてよく言うぜ!
幾度か斬り合いを交わした後、俺が文字で作った剣は消え去った。
「今日の模擬戦はここまでですネ。……レン殿もやはり純正の武器を買った方がいいと思いますヨ」
「確かに……。いざという時魔力切れじゃヤバいもんな」
「よければ今度オススメの魔道具店を紹介しますヨ! コレも其処で買った物でス」
そう言ってフェリルは自分の銃を見せた。魔法銃といって、弾倉部分に吸魔石という魔法を貯め込んでおける石が仕込まれているらしい。普通に文字を使うより射程距離と貫通力が増すそうだ。
「その前にクエストで稼がないとな。お前が使っちゃった分」
「ウッ……それを言われると……ちゃんと返しますヨ!」
§
新しくパーティーを組んだ俺達はそこそこ、いや順調にクエストをこなしていた。逃がした魚は大きかったのか、レアがドンドンクエストを請けてくるのだが、それを何とか成功させていった。
経験値も貯めながら、新しい文字を覚えて戦力アップを……そう、実は俺の「無」の新たな能力が判明したのだ。
――「無」は万物へと続く道の根源なり 映しこめば何物にも成れるだろう
王城で見た石版の三番目の文。無は何にでもなれる。そう、三つ目の能力は、受けた文字を覚える事が出来るラーニング能力だったのだ。
これはメタルドロルの一件の時、フェリルから受けた「血」を使えるようになっていた事から判明した。
それから俺は自分の手札を増やすため、ギルドで知り合った冒険者仲間から文字を覚えさせてもらっている。いくつか使えるようになったので、それらを駆使してクエストを成功させていったのだが……俺達のパーティには決定的に足りない物があった。それは……
「回復役を入れましょウ!」
昼飯を食べ終わって次のクエストを何にするか選んでいた俺達に、フェリルはそう言ってきた。
「確かに回復役がいれば私達のパーティーの安定感はさらに増すけど……わかってるでしょう?」
そんなフェリルの提案にレアは待ったをかける。
「何がわかってるんだ?」
「回復系のスペルを使える人はかなり少ないの。公用語の中でも更に難易度の高い職業文字だから、教会で一定期間修行しなければ習得できないわ。それに……通常、職業文字はメインスペルによって就ける職業が決まった後、その職に就いている人だけが学べるものだけど……回復系の職業文字はその制限が無い代わりに、神聖な魔力が体に流れていないと発動できないの。だからある程度生まれつきの要素も必要になってくるわ」
一度習得しようとして調べた私が言うんだから間違いないわよ! と続けるレア。
「それにもし使える人が居るとしても、わざわざ冒険者になろうと思わないだろうし、居たとしても既に何処かのパーティーに所属しているわ」
「そうなのか?」
「まぁ普通はそうですネ。でも募集するだけすればいいと思いますヨ?」
……俺も居るに越したことはないとは思う。俺の言葉を聞くとレアは、「じゃあ……」とメンバー募集の張り紙をボードに張り出した。
「これでしばらく待ってみましょ。それで今日のクエストはね……!」
§
難航すると思われた新メンバー募集のお知らせは、翌日俺達が採取クエストから帰ってきたタイミングで急に終わりを告げた。
「あの~……回復スペルを使える人を募集しているパーティーというのはここで合っているでしょうか……?」
声のした方に目をやると、青っぽいシスター服を身に纏った柔らかい雰囲気を醸し出す女性が、碧色の瞳をこちらに向けていた。淡いブロンドの髪は、フードのように服と一体型になっているらしい頭巾に隠されており長さはわからない。背丈は俺より少し高く、何故か下半身には膝上近くまでスリットが入っていた。拡がらないように糸で留められてはいるが、隙間から白い足がチラチラ見え隠れしている。そして何より、シスター服からはち切れんばかりの胸部装甲。ものすごい美人がそこに居た。……なんてどこかで見たようなセリフが浮かんでしまう程に、彼女の容姿は衝撃的だった。
「そうだけど……アナタは……?」
昼食を摂る手を止めて、目を点にしたレアが尋ねる。
「あっ、申し遅れました。私クレアと申します。こちらでメンバーを募集していると聞いて……」
俺達は顔を見合わせた。まさかこんなに早く来るなんて……。フェリルを見るとニヤニヤしている。
「だから募集だけでもと言ったデショウ?」
と、とにかく話を聞こう。俺とレアは早速面談を開始した。
「えっと……あなたはどの回復スペルが使えるの?」
「『癒』です」
「『癒』!? 回復系の上級スペルじゃないの! なんでまたそんな人がこのパーティーに?」
不思議そうに尋ねるレア。
「私の家系は回復系の人間を多く輩出しており、私もその関係でスペルを修めているのですが……すこし家族と揉めて……家を飛び出してしまいまして……」
クレアの言葉に反応するレア。
「それで元々憧れていた冒険をしたいと思い、冒険者登録をしたのですが……私は攻撃力が無いものですからどこかのパーティーに入れてもらおうと思って転々としたのですが……何処も一度クエストに行くと、何故かもういいとお別れを告げられてしまうのです……」
そこまで説明された所でレアが身を乗り出すようにクレアの手を握った。
「わかる……! わかるわその気持ち! 私もずっと一回だけのお試しをたらい回しさせられてたの! 辛いよね……! OKわかったわこのパーティーで一緒に頑張りましょう!!」
即効で合格を決めてしまったレア。俺が声をかけると……
「何よ。異論あるの? せっかく『癒』が使える人が来てくれたのよ! 願っても無い事じゃない!」
まぁ確かにそうなんだが……もう少し話を聞いてみてもいいんじゃないか? と思いつつフェリルを見ると、
「また新しい仲間が出来ましたネ!」
とニコニコ顔なので、俺はまぁいいかと素直に承諾した。 ……この時もっと話を聞いておけば良かったと直ぐに思わされる事になるとも知らずに……。
――残り4回
§
「今日のクエストはダンジョン探索よ! 最近このダンジョンで異常な数のアンデッドが確認されているらしいの」
俺達は街から少し離れた岩山の中腹にある、初心者用のダンジョンの入り口に来ていた。
「最近のこのダンジョンの異常を調べて欲しいというギルドからの依頼が出ていたわ! ギルドから直のクエストだから少し報酬もいいの! 皆、頑張りましょ!」
なんとも現金なヤツだ。
「なんてったって今回はプリーストのクレアがいるのよ! アンデッドなんて目じゃないわ!」
自信満々に無い胸を張るレア。なぜお前が得意げなんだ……。
「それじゃ張り切っていきましょー! 光!」
俺達はダンジョンへと潜っていった。
――俺達パーティーの初めてのダンジョン探索は思いのほか順調だった。
フェリルがシーフの職業文字である「探」や「解」で索敵とトラップ解除を担当し、俺は最前列で「盾」と「無」で遭遇したアンデッドの攻撃からパーティーを守り、後衛からレアとクレアが魔法で撃墜するといったフォーメーションだ。
特にクレアの「浄」はアンデッドに効果抜群だった。俺がボーンナイトやマジカルゴーストを抑えている内に直ぐに浄化してしまうので、俺は最前線ながら未だ無傷であった。しかし確かに数は多い気がする。一体何処から……。
そうこうしている内に少し開けた祭壇のような場所へ出た。
「広い場所に出ましたネ~。 しかしこの辺りにトラップは無いようデス」
「急にピタッとモンスターの沸きも減ったわね。どうしたのかしら……クレア、疲れてない?」
「皆さんが守ってくれていたので大丈夫です!」
優しい笑顔で返すクレア。人柄もよく優しく、能力も高い……何故他のパーティーはこの人を手放すのだろうか? そんな事を考えていると何処からともなく声が聞こえた。
「また人間が邪魔しにきおったか……?」
――バッ!
一斉に辺りを警戒する俺達。しかし人影らしきものは何処にも見当たらない。レアが周りを照らすがモンスターはおらず、小さな虫や、コウモリが天井にいるくらいで敵など何処にも……!?
一瞬背筋に寒気を感じた俺はとっさに「盾」を上に展開した。
――ガキィン!
……見るとコウモリの牙が盾に食い込んでいた。
「ほう……存外勘は悪くないらしい……」
そんな声と共に、天井にいたコウモリが一点に集まり人型を取った。
「四人か……。舐められたものだな」
「ヴァンパイア……!」
レアが忌々しく呟いた。
「長い時を生きる魔族の一種でス……。高い魔力を持ち、身体能力も高いのですが一番厄介なのは……“吸血”。その牙で直接血を吸われてしまうと、自我を失いヴァンパイアに成ってしまうのでス……。つまり、一撃も喰らう事は出来ませン……!」
フェリルの説明に俺は恐怖を感じた。
「何……そんな無粋な事はしないさ……ちょうど目的の陣を敷いた所だったのだ。お前たちには実験台になってもらおう」
そう言うと、ヴァンパイアの傍にあった魔方陣が光りだした。
「あれは……! 『移』の……!?」
「グギャァァァァァア!!」
次の瞬間、俺達の目の前に筋骨隆々のデカいモンスターが現れた。
「オークゾンビ……!?」
「ふむ、問題ないようだな……やれ」
そう命令されたオークゾンビは手にしていた大斧を振りかぶった。
「ガァァァァァ!」
「くっ……『盾』!」
一旦防いで「無」で武器を消すしかない! 俺は盾を張って反撃に備え……
――ザシュッ!
振り下ろされたオークゾンビの必殺の一撃は、俺の盾を易々と砕き割った。
しかし俺はギリギリで体を捻って回避した。伊達に毎朝フェリルと模擬戦をやっているわけではない。腕に掠って血が出たが、こんなものはかすり傷だ。
「『火』!」
レアの文字がヒットした。よし、今のうちに体制を立て直そう……。俺はクレアに腕の治療を頼もうとしたその時。
――ヒュッ ボゴォォン!!
轟音の前に何かが通り過ぎる音が聞こえた。
音のした方を見ると、驚く事にオークゾンビの腹にこぶし大の風穴が開いていた。
それより驚いたのは、その場に居る返り血を浴びたクレアの、いやクレアの見た目をした誰かの残忍かつ不敵な笑みだった。
「久々に出てこられたと思ったら楽しそうな相手がいるじゃねぇか!」
――風圧で脱げた頭巾からはロングストレートの金髪が風に靡いている。そして、拳速で破けたシスター服の袖から覗く「双」の印が光り輝いていた。
基本、ルビが振ってあるのがコモンスペルです。