事態は好転、しかしアパートの前に受付嬢が・・・
超一流企業の専務理事と受付嬢にそこまで頭を下げられては、「二度と付き合わない」と決めたけれど、外に出ることは、一旦は保留した。
受付嬢の名簿確認ミスについては、彼女が謝っていることもある。
そのミスの部分については、事務的なミスであり、彼女の主観が入ったミスではないとして、我慢をすることにした。
しかし、どうにも納得できないのは、専務理事との話を持ち出す前から、一般サラリーマン風のスーツを着ていないことで、「不審者扱い」とされたこと。
専務理事に尋ねてみた。
「仮に私の今日の服装が問題があるのなら、出来ることならば事前に、御社に伺いするマナーや決まりを教えていただきたかったのですが」
「例えば、スーツを着込み、ネクタイをキチンと締めなければ、御社のビル自体に入れないとか」
専務理事は、ますます平身低頭。
「いえ・・・全く、そのような規程などありません」
「あくまでも、当方でお願いをして、ご足労願ったのですから」
「本当に申し訳ありません」
「あくまでも、当方の教育が不徹底のため・・・」
受付嬢は、その顔を抑えて泣きじゃくるのみ。
泣けば許されると思っているのだろうか、そう思ったけれど、いつまでも泣かせているのも、それはそれで問題がある。
「わかりました」
「本来のお話に」
と専務理事に会釈し、彼女への抗議は、しないことにした。
その後は、専務理事直々の案内で、専務理事室で話をすることになった。
その企業が英国に進出した場合の英国各地の注意事項や、EU離脱に関わるヨーロッパ、アメリカとの内部事情、ロシアやアフリカの話。
英文学者ではあるけれど、英字新聞やフランス語、ドイツ語の新聞もよく読む。
また、英国留学中の友人も英国を中心にして、ヨーロッパ各地に住んでいる。
今回の専務理事との話の前に、彼らから潤沢過ぎるほどの情報や資料を受取り、全て和訳、微細情報も付記した資料を再構築した。
それも、そのまま議論にし、手渡した。
専務理事は
「本当にありがたいことです」
「先生の情報は、我が社の死活問題でした」
「素晴らしい情報で、社長理事と会長理事にも、報告させていただきたいのですが」
また、頭を下げる。
「ああ、全然、構いません、報酬もいただくものではありませんので」
確かに、この程度の仕事で、報酬を受取る気持ちなど、まったくない。
その後は、また専務理事の案内で、会長室にて、社長理事と会長理事に面会。
ここでも、多大な感謝を伝えられた。
帰りは、「お食事でも」と誘われたけれど、あいにく夜の授業もあるので、辞退。
貧乏学者にとって、突然の休校は、学内の査定にも響く。
全ての話を終えて、ビルを出る時には、社長理事と専務理事が、わざわざお見送り。
最初入った時とは、大違いになった。
メトロの駅も近いので、そのまま地下鉄で大学へ。
車で送ってもらうのは辞退した。
メトロのほうが、気楽で断然早い。
その後は、いつも通りに授業をこなした。
そして都営線、京王線経由で、杉並のアパートに帰宅、これもいつも通りだ。
ただ・・・いつもと違うのは、我がアパートの前に「怖ろしい受付嬢」を発見してしまったことだ。




