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怖ろしい受付嬢  作者: 舞夢
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助手になった彼女の理解しがたい質問

おそらく、自分以外には誰も考えていなかった提案だった。

専務理事が招いた自分に対して、怖ろしいほどの失礼な対応をしてきた彼女を、この会社での自分の助手にすると言うのだから。


直属の上司は提案と同時に硬直気味になったけれど、専務理事は自分の意をすぐに理解してくれた。

さすがは超一流企業の巨大なビルの中に、一室を準備してくれて、彼女をそこに常駐させる配置転換をしたのである。

肩書としては役員室直轄の「英国及び欧州進出特別対策室」、彼女の仕事は自分が提供する英字新聞、フランス語新聞他情報の翻訳になる。

その対策室の特別アドバイザーとしては、週二回程度の入室として、自分が受けた。

また、会長理事の発案で、他にも次の人事異動の際には、数名の英語、フランス語に堪能な社員も同じ室に入る予定となった。


さて、それでも当分は、彼女とだけの仕事になる。

といっても、彼女の翻訳の点検をするだけ。

そうなると、まるで大学の教員と学生の関係のようなもの、自分にとっては、まるで違和感がない、点検をする場所が大学内と企業ビル内に変わっただけなのだから。


彼女は、本当に慎重に、ある意味杓子定規に訳をして持ってくる。

「あのね、ここには、こんな裏の意味が含まれている」

「単語も複雑な意味があるから、気をつけて」

確かに間違った情報は、企業の判断そのものに影響する。

企業の判断ミスは、企業業績にも直結する可能性があるので、指摘は厳しくした。


それでも、定時が終われば、そんな厳しい表情はしない。

「はい、お疲れ様でした」

「ゆっくり休んでください」

「また、三日後に」

そんな生活が二週間ほど続いた。

彼女の顔も、かなり落ち着いてきた。


そして二週間後の帰り際だった。

突然彼女が、

「あの・・・もう少し教えていただきたいのです」

「三日後は、待ちきれません」

すごく真顔である。


少し困った。

「あの、私の立場では残業は指示できません」


彼女は

「先生はお困りですか?また私、困らせているのですか?」

そう言って涙ぐむ。


「そうは言われても・・・場所が・・・残業はできませんし」

何しろ、他にできる場所は大学になるけれど、学生に見られて、変な噂を建てられても困る。

まさか、我がアパートの部屋は、不精放題であるし、倫理的にも無理。


少しためらっていると、彼女は理解しがたいことを言ってきた。


「先生は、人を好きになったことはありますか?」

真顔そのもので、怖ろしいほどの目線。


「え?」

珍しく固まってしまった。

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