家の外
生活の拠点は1階にした。大きな窓から見える景色が素晴らしいからだ。薬草の先に見える紅葉。見渡す限りの自然。空しか見ていなかった私には、とても眩しいものに見えた。家と外を隔てる扉。その取っ手に手をかければ、外の温かさのせいかほんのり熱を持っているように感じられた。自分の手が冷え震えているからかもしれないが。ここを開けば外に行ける。外に行くことを望みながら、不安におびえる心があることに気付く。出てもいいのか?旦那様の亡霊が私に声をかける。私に外は危ないと諭す声が聞こえてくる気がした。けれど、違う世界に来たのだ。それに、薬草の様子を見なければならない。あまりほったらかしにするのは、薬草がだめになる気がする。・・大丈夫。何とかなるはず。そう自分に理由をつけて扉を持つ手に力を込める。
そして、ついに外に出た。それと同時に自然のすごさを実感した。風が心地よく髪を揺らす。太陽の光が周囲を温かく照らす。森の木々の匂い。鳥の声。全てが、私が夢見ていたものだった。もう誰も玄関から出ることを止める者はいない。外を歩くことを、私のやることを止める者はいないのだ。・・・・自由になれた。
気がつくと涙がこぼれていた。ぼやける視界の中でも変わらない自然に嬉しくなる。夢じゃない。空しか見えなかったあの時から比べれは世界はこんなにも色鮮やかなのだ。ただただ立ち尽くしていた。
太陽が雲に隠れたころ、外に出た本来の目的を思い出す。薬草は適温に保たれながら順調に成長していた。温室というわけではなく花壇に術がかけてあり、種類ごとに適温を保つ仕組みのようだ。私がしなければならないのは、水やりと収穫だけ。水やりは自分の中の魔力を使って水を上げる。そうすることで、薬の効能が上がるらしい。やりかたは、体が知っていた。失敗することなく水やりを終える。いくつか薬草を収穫した後、もう一度森を見て息を思いっきり吸い込んで家に戻った。