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気弱なチーターは現実世界に戻りたい  作者: origami063
第3章︰鳳凰騎士団編
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第19話:繋がり

「何、まさか知り合いか、サー君?!」


 驚いた様子のアルクトスに、サラマンは頷く。


「びっくりしてるんですか、路唯(ろい)さん? まあ無理もない。久しぶりですもんねぇ」

「……」

「もう無駄ですって。“彼”の真似しようだなんて、おこがましいにも程がある。そのフード、邪魔だから取ってもらえますか」


 男は黙ったまま、ゆっくりとフードを持ち上げた。暗がりの向こう側から、(かげ)をたたえながらも恐ろしく整った顔立ちの男が現れる。曲がっていた背筋を伸ばすと、男の上背の高さが際立った。


寛仁(ひろひと)、お前、こんなとこで何してんの」

「その呼び名はやめて下さい。今は『サラマン』で通しているので。

 それと、それはこっちの台詞ですよ。ま、大方予想はついてますがね」


 不敵な笑みを浮かべたサラマンの姿が、何の前触れもなく掻き消える。路唯が振り向くと、いつの間にかサラマンはアルクトスの脇に立っていた。


「“エムワン”探しの邪魔になる厄介なプレイヤーがいると聞いて、注意を逸らすためにやってきたんでしょう? 確かに、我々みたいなお遊び集団が嗅ぎ回るんじゃあ、情報が漏れるリスクも上がるし、そちらとしては動きにくくなりますもんねぇ。

 それにしても、それっぽい格好までしちゃって。結構似てるのがまた笑える」

「……まさかお前がプレイヤーとつるんでるとはな。しかも御高名な『鳳凰騎士アルクトス』とは」

「貴方の方は、まだ首輪がついてるみたいですね」

「まるで自分は逃れられたみたいな物言いだな。“あの人”はそんなに甘くない」

「路唯さん、まだ貴方に首輪がついている理由が分かる気がしますよ。(おそ)れを振り払えなければ、自分の道は(ひら)けない」


 まるで会話についていけないアルクトスをよそに、サラマンは路唯から視線を切ろうとしない。

 一方の路唯も、無表情ながら重たい圧力(プレッシャー)を全身から放ち続けている。


「まあ良い。

 元々の目的は果たせなかったが、予想外の大物が釣れた」


 路唯がまとう襤褸(ぼろ)切れが、みるみる内に重厚な(よろい)へと換装(かんそう)されていく。


「裏切り者は塵芥(ちりあくた)と成り果てろ、寛仁」

「え? え? 突然どゆこと?」


 慌てるアルクトスに、サラマンはウインクをしてみせた。


「どうやら、私を粛正(しゅくせい)したいみたいですね、彼は」


 その一言に、アルクトスは顎に手を当てながら、何やら神妙な顔をしてみせた。


「そうか、大体分かったよ……サー君、昔あいつのことイジメてたんだな。駄目だよ、悪いことしちゃあ」

「いや、勝手に決めつけないで下さい! 仮にそうだとしても、いきなり武具換装してる時点で向こうがイカれてることくらい一目瞭然でしょう」

「イジメてた方はすぐに忘れるかもしれんが、イジメられてた本人の記憶はそう簡単には消えやしない。復讐(ふくしゅう)の炎が心の中でくすぶり続けるのさ。

 ……僕もイジメっ子だったから分かるよ」

「だから! 私に変なイメージ重ねないで下さいって」


 2人が掛け合いをしている間に、サラマンは武具の換装を終えると、おもむろにメニューボードを操作し始めた。


「何する気だよ、あいつ」

「大方予想はつきます」

「サー君、さてはあいつのこと好きでしょ」

「……何でそうなるんですか」

「以心伝心って言葉、知ってる?」

「逆に意味を理解してますか、アル君。別に私と彼は心が通じ合ってなどいません」


 サラマンがメニューボードの操作を終えると、彼の掌の上にエメラルド色に輝く球体が現れた。昼間でも分かるほどの強烈な光を放っているはずなのに、何故か不思議と(まぶ)しくはない。


 それを見て、アルクトスの表情は一転して険しくなった。


「ゲッ、何であんなもん持ってやがんだ、あいつ」

「『戦神(いくさがみ)の瞳』……強制的におっぱじめる気満々みたいですね」

「ったく、だいぶ前に発禁アイテムになったってのに、大事に取ってやがったってわけか。初心者狩りの一件で運営も痛い目見た癖に、現存アイテムの効能は廃止しないとか妙なところで甘さ出したりするからこうなるんだよ」


 悪態をつくアルクトスだったが、その表情は妙に明るい。


「仕方ねぇ、受けてたとうじゃないの」

「……いやいやいや、何でそうなるんですか!」

「? 挑んできたし、都市伝説の男ではないみたいだけど、サー君の友達ってことは多分強いでしょ」

「それはそうですけど、多分路唯さんは決闘相手に私を指名してくると思いますよ。仮におっぱじまったとしても、アル君はそこで見てるだけです」

「?!」

「落ち着いて下さい。そもそも、私は闘う気これっぽっちもないですから」


 今にも「戦神の瞳」の効果を発動させようとしている路唯に向け、サラマンは語りかける。


「路唯さん、やめましょうよ、こんなこと」

「口を閉じてろ。耳障りだ」

「まあまあ。今路唯さんが所属しているタカ派の連中、“エムワン”を取りにいこうと息巻いているんでしょう? どういうわけか、丁度ナラキア近郊に出没しているみたいですし。

 でも……本当に、勝てると思ってるんですか、あの“エムワン”に」

「……」


 ()いだ湖面のように動きのない路唯の(おもて)に、微かな波紋が広がるのをサラマンは見逃さなかった。


「結論から言えば、十中八九無理でしょう。

 当たり前じゃないですか。他の『転回者』が2人束になっても倒せるかどうか怪しい相手です。やつは論理の通じない獣ですよ」

「俺がいる」

「路唯さん、強がったって無理なもんは無理です。私にしてみれば、“あの人”より“エムワン”の方がよほど恐ろしい。

 そこでです……取引をしませんか」

「お前が出してくる取引なんぞろくなもんじゃないだろ」

「まあまあ、一度話を聞いてみるくらいなら良いじゃないですか。気に入らなければ、その右手の物騒なやつを発動させれば良い。

 どうでしょう、私との決着は“エムワン”をぶっ潰した後にしてもらえませんか。それを呑んでもらえるなら、私とアル君で都市伝説退治に肩を貸しますよ」

「……エ?! サー君、僕は最初から――」

「ちょっとアル君は黙ってて下さい」


 低い声で(すご)まれ、アルクトスはただただ頷くしかなかった。普段温厚なだけに、こうした時のサラマンはひどく恐い。


「プレイヤーなど足を引っ張るだけだ。そもそもお前、その男の前で少し喋りすぎだぞ」

「大丈夫です。彼、一応創業者の遠縁らしいので」

「……だとしても、だよ。現実で俺たちのことが漏れたらめんどくせぇだろうが」

「問題ありません。アル君は、我々の事情などには全く興味がないですから」


 サラマンに同意を求められ、アルクトスは自信満々に頷いた。


「サー君の言う通りだ! 僕はただ、強いやつと闘えればそれで良い!」

「彼の強さは私が保証します。間違いなく、大きな戦力になる」


 路唯は暫く胡散(うさん)臭そうに2人を()めつすがめつしていたが、やがて溜息とともに右手のアイテムを消した。


「やむないな。良いだろう。お前らも手伝え」


 途端に、サラマンがその形の良い唇をにやりと広げる。


「ああ良かった! いきなり粛正とか言い出すから冷や冷やしちゃいましたよ。

 それと、“あの人”には内緒でお願いしますね」

「問題ない。例え露見しても、共闘の理由が理にかなっていればご納得頂けるはずだ。

 お前たちも、お友達の団員にこれ以上の詮索(せんさく)はしないよう通達しておけ」

「はいはい。全く、心配性なんですから」

「それじゃ、ついてこい。拠点に戻る」


 背を向けて歩き出した路唯の後を追いながら、アルクトスは横を歩くサラマンに顔を向けた。


「ところでサー君、1つ聞きたいんだけど」

「何でしょうか」

「まさかとは思うけど、最初から都市伝説男じゃなくて、あの路唯とかいう野郎がいるって分かってたのか?」

「……いえ、知りませんでした。内心驚いているところです」

「ふうん。それなら、まあ良いけど。

 あの野郎と僕を引き合わせるためにあの豆小僧君との勝負を途中で切ったって言うんなら、流石のサー君でも許せないって思ってたけど、それなら仕方ないね」


 朗らかな笑顔を見せるアルクトスに、サラマンも微笑みかける。


「その件なら、ご心配なさらず」

「? どういうことだ」

「私の勘が正しければ、すぐにあの豆小僧君とも会えますよ――きっと」


 狭い世界ですから。

 全て、(つな)がっているんです。


 誰にも聞こえないほど小さく、サラマンはそう口にした。

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