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気弱なチーターは現実世界に戻りたい  作者: origami063
第1章:異世界来訪編
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第12話:歓迎の宴

「良かった~心配したんだよぉ」


 「始まりの魔窟」を出ると、宇羅(うら)がまなじりを下げて駆け寄ってきた。

 もしや、抱きついてくるのか――口元を緩ませたのも束の間、爽やかなハイタッチに、僕のさもしい欲望は粉微塵(こなみじん)に打ち砕かれる。


「何とかなったよ」

「あんだけやれるなら、最初からビービー言うなっての」


 木立に背を持たせかけた阿羅(あら)はそう毒づいたが、その表情はどこか穏やかだ。普段は見せない柔らかな顔に、思わず少し見とれた自分が恥ずかしい。


「あ、そうだ! あれは手に入れた?」

「これ、だよね」


 青白く輝く「老退竜(ろうたいりゅう)尾鱗(びりん)」を差し出すと、2人は安堵のため息をついた。


「良かった! これ持ち帰らないと、流王(るおう)さんには認めてもらえないから」

「忘れるわけないじゃないか。ここまで来てそんなへまやらかさないよ」

「でも、実際に過去にはいたんだよ。間違えてただの石ころを拾ってきた人」

「あはは! 何それ、バッカだなぁ」


 宇羅は若干苦笑いしながら、ちらりとかたわらに立つ阿羅に視線をやった。


「どうしたの、宇羅ちゃん」

「……最後の一言が余計だったな、丈嗣(たけつぐ)

「あれ、まさか」


 阿羅なの、それ?


 最後の一言を口にする間を与えず、彼女は突然、顔目がけて拳を突き出してきた。すんでのところでかわし切ったが、たたらを踏んでその場に転がってしまう。顔を上げると、阿羅の怒号が耳に飛び込んできた。


「泣き言垂れてたやつが良い度胸じゃねぇか! あんたがその気なら、私だって覚悟がある。決闘だよ、決闘!」

「ちょっと、落ち着いて! そんなこともう良いじゃない」


 急いで仲裁に入ろうとする宇羅だったが、僕も黙ったままではいられない。

 すぐさま立ち上がると、彼女に負けず劣らず胸を張った。


「良いよ。正直、阿羅には色々と言いたいことがあるんだ。僕だって弱っちいままじゃないことを証明してやる」

「丈嗣君まで! 何乗っかっちゃってるのよ」

「ハッ、本気で勝てると思ってる? 悪いけど、あんたがゴメンナサイするのに1分とかからないよ。

 ……それに、しれっとタメ口聞いてんじゃねぇ!」


 火花を散らしあう2人に挟まれ、宇羅は力なく息を吐いた。

 「喧嘩するほど」仲が良いのは結構だが、こう何度も巻き添えを食っては堪らない。


「もお! 駄目ったら駄目ぇ!」


 途方に暮れた宇羅の叫び声が、熟れた果実のような夕焼け空に響いた。


******


 拠点に帰ると、僕たち3人は真っ先に流王の部屋へと向かった。

 「老退竜の尾鱗」を見せると、彼は少しだけ目を見開いた。


「思ってたよりずっと早いな。流石だね」

「当たり前ですよ。途中で助太刀されてましたからね、こいつ」

「ちょっと、阿羅」

「それに、私たちが喝入れなきゃ、『始まりの魔窟』にすら辿り着けませんでしたよ」

「やめなって、もう」


 阿羅が憎まれ口を叩いてくるが、無視を決め込む。

 今日は宇羅にいさめられてしまったが、いずれ彼女とは白黒はっきりさせてやるのだ。


 そういえば、と宇羅が思案顔になる。


「あのプレイヤーなかなかの腕だったねぇ。何であんなとこいたんだろ」

「あの3本角の(ヘルム)、どこかで見た覚えがあるんだよなぁ。多分、有名なギルドだった気がするんだけど」


 ライプラスを倒してから、あの大男とは少し会話をした。白銀の重装騎士は、ラバーチップと名乗った。見た目とのギャップに、思わず吹き出しかけたのは内緒だ。

 訊けば、彼も「老退竜の尾鱗」を探していたのだという。何でも、手に入れる手間に比して割高に売れるのだそうだ。

 あの洞窟の中心でうすぼんやり輝いていたのが、まさに「老退竜の尾鱗」であった。


 プレイヤーとはなるべく関わらないよう、流王からは度々念押しされていた。

 僕は話したい気持ちもそこそこに、その場を足早に立ち去るしかなかった。ラバーチップからは、愛想のないやつだと思われたかもしれない。しかしまぁ、2度と会うこともないだろう。


「ともかく、これにて丈嗣君も晴れて、我が『流王ファミリー』の一員というわけだ」

「もお、そんな変な名前勝手につけないでください。豪君あたりがまたがみがみ言いますよ」


 宇羅の忠言にも、流王はどこ吹く風だ。


「まあまあ。名前は後で考えるとして、今夜は丈嗣君の歓迎祝いだ!」

「……まだ歓迎されてなかったんですね」

「はぁ……何であんたってそう卑屈なの」


 僕の自虐ボケに、阿羅が即座にツッコミを入れる。

 流王は苦笑しながらも、「さ!」と言って立ち上がった。


「何はともかく、ご馳走の準備をしちゃおう!」

「ガッテン!」


 宇羅が流王に続いて立ち上がると、2人は子どものように目を輝かせながら部屋を出ていった。遠くから、僕の聞いたことのない料理について、熱く語るの声が漏れ聞こえてくる。

 宇羅が料理上手であろうことは想像がつくが、まさか流王も――。確かに、見ようによっては今流行りの「イクメン」に見えないこともない。


「阿羅は行かないのか」

「生憎器用な方じゃなくてね。『流王ファミリー』は適材適所がモットーなので」


 阿羅はやれやれと首を振って立ち上がったが、ふと部屋を出がけに立ち止まる。視線はこちらに向けぬまま、半ばつぶやくように言葉を(つむ)いだ。


「良かったな」

「え?」

「死なずにすんで」


 彼女の口から1番飛び出しそうもない発言だっただけに、僕は耳を疑った。


「……皮肉のつもりか」

「そんなんじゃない。正直、意外だったのよ。

 最初見た時には、どうしようもないとヘボと思ってたあんたが、あそこまで堂々と魔物と渡り合うとはね」


 褒められているのか、(けな)されているのか判然としないが、自然と顔が熱くなる。


 あれ、もしかして、照れてるのか、僕――。


「最初だって、キュクロプスを倒したじゃないか。そんなにヘボに見えたか」


 赤らんだ顔を見られまいと俯きながら、わざとぶっきらぼうに返事をした。

 阿羅は声音の変化には気づいていないようだった。小さな笑い声が、優しく鼓膜を揺らす。


「違うよ」

「どっちなんだよ、ヘボって言ったり、そうじゃないって言ったり」

「そっちじゃない」

「え?」

「あんたを最初に見た時さ。キュクロプスの時じゃない。もっと前だ」

「……どういうことだ」

「正確には、私たちが見られていた、というべきかな。

 ほら、いつかの夕暮れ、あんたどっかのプレイヤーと道を歩いてて、私が魔物を消し炭にしてるとこに通りかかったろ」


 阿羅はそこで振り返ると、にやりと口角をつり上げた。


 1ヵ月ほど前の記憶を掘り起こすと、確かにそんな覚えがある。

 ――そうだ。驚くほど正確に、稲妻がごとく()く、魔物が炎に包まれていった光景。夕闇の中で無秩序に咲き乱れる炎の花は、惚れ惚れするほどに美しくて。

 

 フードを被った2人組の魔術師。

 その正体が、まさか。


「……あれ、阿羅だったのか?!」

「な~に無邪気に驚いた顔してんの。人のこと『狩場荒らし』呼ばわりしといて。(チート)を使う練習してただけだっつの。あ、因みに宇羅も気にしてたから、ちゃんと謝っといた方が良いよ」


 げ、確かにそんな話もした記憶がある。どんだけ地獄耳なんだ、この女。

 それに、隣にいたのが宇羅だったとは……! 必死に弁明の言葉を口にしようとしたが、焦って舌が上手く回らない。


「あれは安原さんが」

「言い訳すんなッ」


 思わず首をすくめると、頭に拳がこつんと当たった。

 彼女の拳は小さくて、今にも雛鳥がかえらんとする卵のようにほのかに温かかった。


「あの時は、こんなヘタレがうち来たら迷惑だな~とか思ってた」

「……」

「強くなったね、丈嗣」

「皆のおかげだ。僕だけの力じゃない」

「当然。その謙虚な姿勢を忘れんなよ」


 阿羅は朗らかに破顔すると、いきなり僕の手を引いて立ち上がらせた。


 ほんの数十センチ先に、阿羅の切れ長の眼がある。見つめている内に、どこか深いところへ吸い込まれてしまいそうになる。心なしか、鼓動の音がいつもより甲高い。


 その瞳が、柔らかに細められた。


「さ、主賓(しゅひん)だからってぼさぼさすんな。皆を手伝いにいくよ」

「主賓なのに?」

「関係ないッ」


 阿羅に追い立てられ、僕は慌てて流王の部屋を飛び出した。

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