ビニールハウス
幼い子どもにとって、文章はすべからく冒険譚である。
たとえそれが写真週刊誌であってもだ。
家の外へ出ることはすなわち未知との遭遇であり、夜には自らを脅かす恐怖となる。
知識を得ることで恐怖を我がものとした者は、他人との盤石の信頼を勝ち取る。
ミツバチ。
母親との哨戒を邪魔する者。
それでいて、迫り来る鉄の韋駄天を警告してくれる者。
四匹の赤いホタルを連れ、大きく鐘を鳴らす。
韋駄天。
圧倒的な力と速度を持ち、猪突、地を駆ける者。
それでいて、平坦に踏み固められた獣道しか走ることの許されない哀れな者。
地響きと風を連れ、ただひたすら走る。
獣道。
横切ることしか許されない、長い礎となる者。
それでいて、ややこしく絡まりつつ突然に分断される者。
双子の用心棒を連れ、どっしりと踏ん張っている。
彼らは、つまり未知である。
夜、彼は不気味な歪んだ音を発し。
夜、彼は息の根を止めんと襲い掛かり。
夜、彼は足元をすくおうと這いずりまわり。
夜、それは虞という肥料を以って勇という果実を実らせる、ビニールハウスである。