第八話 ふたりのきょり 前編
――それはいつもの事だったんだ。ミキに何気なく話しかけて、楽しく過ごしたかっただけ。なのに、まさかあんな事になるなんて、あんな事になってしまうなんて、今朝の俺は思いもしなかっただろう・・・
とうとうこの日が来た。
待ちに待ったこの日。
最高の一日。
そう今日は青空高校の毎年恒例行事となっている
「春のマラソン大会」略して
「スプラン」の挙行日であった。
この
「スプラン」は、校内、校外含め約30kmを一日かけて一人で走り抜くという過酷な大会である。
一年生のみの強制参加行事で二年、三年の自称
「優しい」先輩達は校外の
「見張り」を担当する。
で、何故この過酷な大会が俺にとっては最高であるのか。
俺もマラソン自体は全然好きではない。
ただ、唯一の取り柄が
「スポーツ」の俺にとってはここでミキにいい所を見せれるチャンスだったりする。
というのも、上位三名は
「スプラン」の閉会式で表彰されるのだ。
この三名に入ったら・・・きっとミキはそんな俺を見て、
「カッコイイ・・・」とか、
「たくましい・・・」といった印象を受けるに違いない。
俺がここまで必死になっているのには理由がある。最近のミキはどうも様子が変なのである。
話し掛けても生返事で、避けているようにも見える。
それでも俺は休み時間ごとに会いに行くのだが、正直欝陶しがられているような気がしてどうしようもない。
そのせいか何なのかは知らないが、この前なんかあの真面目なミキが学校に来なかった時があって、嫌われてるんじゃないかとも思った。
だからこの
「スプラン」でいい所を見せて、
「なぁミキ、今日の俺どうだった?」
「すごく・・・かっこ良かった。」
「ミキ・・・? 今から高級ホテルに行こう。」
「・・・うん。リョウ君ともっと近付きたい・・・。」
なんて言ってくれるのを期待してみたりして・・・。
「アンタ、何ニヤニヤしてんの・・・?」
「え!? あ・・あぁ何でもない。」
びっくりした・・・。サヤカが何でここに・・・?
「あれ・・開会式は・・?」
「もうとっくに終わったわよ・・。 というかリョウ君? ここ女子のコートなんですけど・・・?」
苛々した口調でサヤカが言う。見渡すとそこら中、俺に対する冷たい視線があった。
「え・・・? あ、本当だ。」
「はい、分かったらバイバイ!」
体操着姿のサヤカが俺の背中をぎゅうぎゅう押してくる。
「え・・・!? ちょっと・・ ミキは!?」
「さぁね? てかリョウって最近そればっかり。ミキは!? ミキは!? ミキはどこ!? アンタもしかして兄妹と勘違いしてるんじゃない?」
「いや・・そうじゃなくて・・あぁ分かったよ!」
俺は走って自分のコートへ行く。
・・・ていうか兄妹って何だよ・・。
恋人・・・でもないけど・・。あぁもうイライラする・・・
「それでは皆さん、位置について・・・ヨーイドン!」
銃声がバーッンと鳴り、一年生全員が一斉に走り出した。
ちなみに女子は男子の数十分後にスタートする。
というわけで俺はさっそく上位チームに割り込む。
なんていったってミキに良い所を見せなきゃ・・・。
にしても、ミキはどこにいるんだよ・・・?
走りながら周りを見渡すが、全く見つからない・・。目はいいのになぁ。
「よう!」
パッと肩に手の感触。
「あ! なんだヤマトか、びっくりしたなぁ!」
ごっつい体型のヤマトがのびのびと俺の隣に来る。
「もっとゆっくり走ろうぜ。」
本当・・コイツは力を抜く所間違ってるよ・・・。
「俺はどうしてもTOP3に入らないとダメなの!」
「へぇ〜なんで?」
「だからなぁ・・・その・・・カッコイイだろ?」
「お前陸上部の連中に勝てるとでも思ってんのかよ?」
「あ・・あったりめーだろ! こう見えても中学は陸上部だ!」
「ふぅ〜ん、じゃあ頑張れよ! 俺ヒロ待っとくわ。」
そう言ってヤマトはペースを落として下がっていった。
「はぁ〜。」
話をすると一気に体力消耗するなぁもう・・。でもまぁここまで頑張ったおかげでどうにか上位20位には入っているみたいだ。
「あと一周で外行けよ!」
と先輩達の声。
女子は上位の陸上部イケメン男子達に
「ファイト!」とか
「頑張れ!」とかエールを送っている。
ミキはどこだ・・・?
あ〜もういいや!
何も考えないで走ろう!
マジで本気だそう!
俺は一気にぶっ飛ばし、外に出た時にはTOP3になっていた。
――
「ミキ、ホントに大丈夫なの? やめた方が・・・。」
「ううん、大丈夫、ゆっくりなら。」
「でも・・・」
「先生もゆっくりだったら問題ないって・・。」
「・・・でも」
「約束したの!! さ・・最後まで諦めないって・・。」
「・・そうなの・・・。」
〈後編へ続く〉