表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/9

第四話 すまいる

「ミキ――かぁ。」

昨日の放課後、ミキという少女と過ごした時間。その彼女の笑顔がいつまでも俺の頭を離れない。



「おーい、生きてるかぁ?」

ヤマトはリョウに強い張り手をくらわす。

バシ!

「イテーーーー!何すんだ!」

リョウは飛び上がった。

「お〜、元気じゃん。」

「お前な、まだ昨日の痛みが残ってるのに・・・」

「昨日?」

変な顔で見つめるヤマト。

「あ、いやいや何でもないわ、ちょっとトイレ!」

と話しを濁した俺は教室を飛び出した。



教室を出た俺に

「ちょっと待ちなさいよ。」

という声が聞こえ、振り返ると、

向こうで廊下の壁に背を当てて腕組みをしている女の子が俺を睨んでいた。


彼女は俺の方に近づいて、

「昨日は悪かったわね。」

とプイと不機嫌そうな顔で言った。

「えっ?昨日?」

「ミキからアンタの事は聞いたわよ。」

「え!? おっ、おま・・・サヤカなの!?」

思わず声に出してしまった。

「何よ?」

「いっいや、ハハハ・・・。」

肩まで伸びた髪に赤いリボンをつけたその制服姿は、昨日のユニフォーム姿のそれとは全然イメージが違う。

というかよく見たら可愛いな。

そのツンとした態度じゃなかったら、クラスのアイドルみたいな感じなのになぁ。


「何ジロジロ見てんのよ。」

「い、いや・・・別に。」

「はい、これ。昨日のお詫びね。友達とでも行ったら?」

サヤカは俺に映画のチケットを二枚渡した。

「これを俺に? あぁどうも。」

俺はそっけない態度で受け取る。

「何?欲しくないの?じゃあ返して」

「あ、いやいや、すごい欲しかった! ありがとうサヤカ!」

俺は満面の笑みを浮かべるとサヤカは上機嫌に、

「そう、よかったわね。 じゃあ私はこれで。」

といって帰っていった。


何だ、結構いい奴なのか?サヤカって。



放課後になり俺は駆け足でロッカーに逃げるが・・・

「待ってたぞ、リョウちゃん。」

そこにいたのは不気味な微笑みを浮かべる部長の姿が。

「え・・いや・・、ちょっと用事が。」

「ハハハハハ、まぁまぁ用事は置いといて、こっちに来ようか。」


部長に半ば強引に連れられやって来たのは、野球部の部室だった。

最高級に臭い部屋。

他の先輩達が俺を睨む。

ここで俺はイヤな想像が頭をよぎる。


ま、まさか、リンチ?



ゴシゴシ・・・

「よーし、全部綺麗に磨け!」

暑すぎる部室で、俺は部屋掃除をするハメになった。

もちろん昨日のサボりが原因だ。

というかまだ入部届けも出してないのに・・・

「いいか、サボったり、逃げ出した奴は必ずペナルティーを与えるのが我が野球部の伝統的ルールなのだ。」

はいはい分かりました。

といか暑すぎる・・・滝のように汗が流れ落ちる。たくもう、何で俺がこんな目に!そうこうしてる間に、時間は流れ夕方の6時になって部活は終わった。



「はい、ジュース。」

心優しきヤマトさんが、大好きなイチゴジュースを買ってきてくれた。

「サンキュー!」

一気にジュースを飲み干す。

「はー! なんか生き返った気分。」

「そんなにキツかったか? こっちはコート10周だぞ。」

「バーカ! そんくらいラクショウなんだよ。」

「でもな、10周っていっても・・・」

そんな感じでヤマトとぺちゃぺちゃ女子同士みたいにゆっくり帰っていく。


学校広いし、この感じじゃ遅くなるなぁ。


案の上、辺りは一気に暗くなっていく。


やっとこさ真っ暗の正門に着いた所で、俺とヤマトの前を急ぎ足で歩く女の子を見た。

その横顔に覚えがあった。


「あ・・・ミキだ。」

「でな、それで・・ってオイリョウ!! 聞いてんのか!?」

「い、いや、じゃあ俺この辺で!」

そう言って俺はヤマトに手を振り走り出した。




「あれ?どこいったんだ?」

小さな路地裏に入ったミキを追ってきたが、辺りは暗いためよく分からない。


ニャー・・・


遠くでネコの声がする。

俺はその声がする方へと歩いていく。


「あ・・・子猫だ。」

そこにいたのは赤ちゃんのように小さな子猫と、その子猫をナデナデしている女の子――ミキだ。


「あ・・・えっと、よぉ!」

場違いな程の大きな声でミキに呼び掛ける。


「え!?・・・あ・・えっと・・昨日の人。」

俺を見て驚くミキ。

「いや、偶然通り掛かってさぁ。 俺、リョウって言うんだけど。」

「リョウ君・・? あっそうなんだ・・・。」

ミキはあまり興味なさそうに頷く、


「この子猫、捨てられたのかな?」

俺はミキに尋ねる。

「ううん。ほら、鈴付いてるから。」

そう言って、ミキは子猫の首の鈴をチャラチャラ鳴らす。

「あっ本当だ。 というかよく触られるね・・。俺動物苦手でさ・・。」

「でも気持ちいいよ。リョウ君も触ってみれば?」


「き・・気持ちいい?」

そう言って俺はミキに近づいて、サラサラとしたミキの髪をなでなでする。

すごく気持ちいい・・・。


「その・・・私じゃなくてさ・・。」

「あっ・・間違えちゃった! ハハハ・・・。」

そんな俺を見てミキは苦笑いしている。




「その・・・途中まで送っていくよ。」

「え!・・・別に私大丈夫だけど。」

「今危ないよ! ストーカーとかたくさんいるしさ・・・」


そんな事を言って、ミキを必死に説得し、駅まで一緒に行く事にした。


「・・・」


大通りを歩きながら、しばらく二人の間に微妙な沈黙が続く。

遠慮深そうにミキは歩いている。

俺は話のネタを必死に探す。


「あ・・・あのさ、ミキってサヤカと仲良いの?」


「うん・・。」

ミキは下を向いている。


「・・・」


「へ、へー。 部活が同じとか?」


「ううん。」


「何部?」


「サヤカはバドミントン部で、私は吹奏楽部。」


「吹奏楽部なの? へーすげぇー!! 何!? 何!? トランペット!? タンバリン!?」


「フルート・・だけど?」

「へーへー! ちょっと見せてくれよ!フルート!」俺がそう言うとミキは鞄の中から取り出す。


「こういうのだけど」

「あーーー!! 見て見てあれ!! 変な顔!!」

俺は向こうのコンビニに立っているミッキーのマスコットを指差す。


「・・・」

「変な顔だね!」

「う・・うん。」

「あっ・・えっと・・・何の話してたんだっけ?」


「もういいよ・・。」

ミキは不満そうな顔で俯いた。



結局その後さっきよりもイヤな沈黙が続き、駅の前まで来た。


「あ・・えっと、遠回りじゃなかった?」

「ううん。どっちに行っても同じだから大丈夫。」

そう言ってミキは微笑んだ。

「あ・・・そうすか・・。」

ヤバイ・・可愛い・・。

胸が一気にドキドキしてきた。

もうお別れだってのに。



「その・・途中までありがとう・・・。じゃあね。」

ミキはそう言って、向こうへと歩いて行った。


俺はポケットから映画のチケットを取り出す。


(落ち着け・・・。今渡してもきっと断られる。 バカ・・でも今しかないだろ・・?)


俺は心の中で自問自答する。

そんな事してる間に、ミキは遠くにいってしまう。



「ミ、ミキ! ちょっと待ってよ!」

腹を決めた俺はミキの方へ駆け寄る。


「え!? どうしたの?」

驚いたミキが振り返る。

「こ、これ・・映画のチケットなんだけど・・・一緒に行かない?」

(言っちゃった・・・)


「え・・? 私と?」

「う・・うん、そうなんだけど・・・。 い、いや・・サヤカがさ〜。二人で一緒に行けばって・・・。」

「サヤカが?」

ミキは曇った顔を浮かべた。

(あっ・・ヤバ!!)

そう思った俺は、アスファルトに手をつけて、土下座をし、

「お願いします!」

と叫ぶ。

「え!? 急にどうしたの!?」

「その、お願いします!」

もう一度叫ぶ俺。


(うわ〜、何してんだ俺、完璧に変人だよ・・・。)

「分かったから、顔あげて! 恥ずかしいよ!」



「え!?」


まっマヂで!!??

俺の心は幸せ一色に染まった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ