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ネガティブ男子と下僕的な彼女  作者: 進撃のマシュマロ
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5話

「ええと、私が調べたところによりますと、部名の変更には現部員の過半数の署名と、顧問の同意が必要なようです」


 そして迎えた放課後。僕と花宮さん、そして吉川さんは、部室で昨日の会議の続きを話し合っていた。

「と言う訳で、二人共この用紙に署名をお願いします」

 言いながらクリアファイルに挟まれた用紙を取り出す吉川さん。ファイルから用紙を引っぱり出して確認。どうやら正式名称は部名変更申請書と言うらしい。

 その部名変更申請書なる紙には、顧問、生徒会長、校長の印鑑の枠、そして署名欄と思しきリストの一番上には、既に吉川はるかの記入があった。

 しかもよく見ると、部長の役職付きである。


「吉川が部長……か?」

「はい。……ええと、何かマズかったでしょうか?」

 小心者なのか、そう尋ねてくる吉川さん。

「いや、別にいいんだ。ただそういうのを全く考えてなかったと思ってな」

「そうですか、よかったです。それではどちらが副部長になるかはお二人で決めて下さい」

「「……えっ!?」」

 思わずハモらせてしまう僕と花宮さん。けど考えてみれば当然か。僕ら二人は互いに顔を見合わせた。

「……やりたいか? カノ」

「……いいえ別に」

「そうか」

 僕はそれだけのやり取りで相談を終えると、視線を吉川さんに戻した。

「俺がやるよ、副部長」

「よろしいのですか?」

「ああ、こんな弱小部の副部長なんて、実質名誉職みたいなもんだろうしな」

 そう言って僕は、先程の用紙に自分の名前と副部長の役職を記入する。

「ほらカノ、次だ」

「あ、はい」

 紙とペンをスライドさせて渡してあげると、続けて花宮さんも記入を行った。

「次は茅野先生のハンコをもらえばいいのか?」

 僕は吉川さんにそう質問する。

「はい。ですが今日はもうムリだと思います」

「え、何故だ?」

「茅野先生は最近ずっと定時上がりなんです。〝今の部の現状ではどうせろくな活動も出来ないでしょうから〟ですって」

「ああ、それは確かに。じゃあ今日中にハンコをもらうのは無理か」

「そうですね。顧問には署名人数が規定数に達しているかをチェックする義務もありますし、先にハンコだけもらっておくという訳にもいきませんでした」

「なるほど……」


 納得する僕の隣で、花宮さんは用紙を吉川さんに手渡した。

「じゃあ今できる事はこんなものか?」

「そうですね。部活名の変更に関しては明日茅野先生と生徒会長のハンコをもらって終わりでいいのではないかと。後は部活動そのものについてなのですが……」

 そこまで発言した所で、何故か吉川さんはバツが悪そうに顔の角度を下げた。

「どうかしたんですか?」

 そんな吉川さんを見て、花宮さんが言う。

「いえ、今日生徒会に掛け合って予算について確認したのですが、予算が下りるのは早くとも十月下旬になるとのことでして、それまでは何一つ備品が買えないという事に……」

「……えっ?」

 繰り返しになるが、現状この部に設備らしい設備はない。描こうと思えばマンガくらいは描けるだろうが、それ以外の事となれば……。

「そういう事なので、福山君と花宮さんはこの部でやりたい事を早めに決めて、使えそうな道具を持参するようにして下さい。あ、参考用の資料ならある程度はOKです」

 ……まあそうなるよね。

「了解。でも困ったな、使えそうな道具か……」

 正直な所、この部でだらだらする気満々だった僕にとっては寝耳に水である。多分花宮さんにとっても同様なのではなかろうか。

「と言う訳で、今日はこれで解散にします。お疲れさまでした」

 言ってその場で一礼する吉川さん。しかし直後、帰宅するどころかその場でマンガを取り出して読書を始めてしまう。

「……帰らないのか?」

 気になって尋ねてみる。

「ですから今日はもう解散で、あとは自由時間にします」

「ふぅん……」

 花宮さんと二人、何気なくその光景を眺めていたが、やがて、

「……帰りましょうか、シュン様」

「そうだな」

 そんな会話を交わして、僕らは席を立った。


 部室を出て何気なく表札を見上げた時の事である。当たり前だが、表札にはマンガ研究会の文字が並んでいた。

「部名を変えるんなら、この表札も取り変えないとな」

「そうですね。でもこういうのはなかなか発行してもらえないから、しばらくはこのままか、手書きで我慢するしかないと思いますよ」

「そうなのか……? なあカノ」

「何でしょう?」

「入部しようとしていた部活の表札が手書きだったら、なんか入部したくなくなるよな?」

 僕の意図を花宮さんも察してくれたらしい。驚きの表情が徐々に笑顔のそれへと変わる。

「シュン様、ナイスアイデアです」

「よし、そうと決まれば善は急げだ。カノ、ペンとマジックといらない紙を用意してくれ。それとハサミを持ってないか?」

「はい、持ってます」

「よし、流石カノだ。準備しておいてくれ」

 僕はそう言うと、花宮さんの返事を待つ事なく、部室の窓の縁に足を掛け、表札へと手を伸ばす。

 表札の上部に手が届いた事を確認すると、そこからするりと表札を抜き取った。

「よっ……と」

 そのまま壁を蹴って無事着地。花宮さんの元へ歩み寄る。

「準備は出来たか? カノ」

「はい! でも一体どうするつもりなんですか?」

「どう……って、ごく普通の事だよ。まずはペンと紙を貸してくれるか?」

 僕は花宮さんから紙とペンを受け取ると、紙に先程抜き取った表札の型を写し取る。

「あ、なるほど、そうやって即席の表札を用意するんですね」

 ようやく主旨を理解したらしい花宮さんが、目を輝かせて喜んでくれる。ええ子や。

「そういう事。あ、カノ、お前字上手いか?」

「え? 普通だと思いますけど……?」

「ふうん……。まあいいや、今とった型の中に、マジックで〝オタク文化研究科〟って書いてくれよ」

「えっ、いいんですか?」

「いいんだよ。俺も字は上手い方じゃないし、どっちが書いても多分大して変わらん」

 と言いつつも謙遜しているだけで実際は花宮さんの方が上手いと思う。根拠はないが。

「そ、そういうコトなら……」

 そう言って遠慮がちに、けれども迷いのないペン先で書き始める花宮さん。うん、普通に僕より上手い。

「俺より上手いな。ついでにもう一枚頼む」

「あ、はい」

 花宮さんが一枚目を書き終えると、交代で僕が新たに枠を描き、再度花宮さんに部活動名を書いてもらう。

「こんなもんでいいかな?」

 書き終えたのを確認すると、今度は花宮さんが何故だか持っていたハサミを手に取った。

「こ……これは…………」

 しかしここで問題が発生。ハサミの穴に指が入らない。僕の指が太い訳ではない。多分。

「……どうかしたんですか?」

 不意に静止した僕を不思議に思った花宮さんが、そう尋ねてくる。

「……すまんカノ。お前が切ってくれるか?」

「えっ? 別に良いですけど……」

 そう言って僕からハサミを受け取ると、枠に合わせてハサミを滑らせていく花宮さん。

(女の子の手ってこんなに小さいんだ……)

 見ると普通にハサミの穴に指が通っている。まあ花宮さんの私物なんだから当たり前なのだが、それにしても花宮さんの手はとても小さい。

 おそらく僕の7~8割程度しかないのではなかろうか。

 不意に僕は、彼女が同い年の女の子に見えなくなり、彼女を異性として意識していた自分が恥ずかしくなった。

「終わりましたよシュン様」

 そんな事を考えていた僕に、花宮さんが声をかける。

「あ、ああ、さんくす」

 僕は切った紙と表札を拾い上げると、紙で表札を挟んで重ねてみる。

「大丈夫そうだな」

 それを確認すると、僕は再び窓の縁に足をかけ、空になっている表札のポケットへと重ねた紙と表札を押し込んで行く。

 紙の部分に折れ目やたるみが出来ないように調節することで、程なくしてそれらの紙や表札をポケットに納める事に成功した。

「よっ……と」

 再び壁を蹴って着地。花宮さんと一緒にその成果を確認してみる。

「流石に印刷した文字には勝てないけど、なかなかいい出来なんじゃないか?」

「うう……自分の書いた文字がこんな風に晒されると、何だか気恥ずかしいです……」

 僕はいい出来だと思うのだが、実際に字を書いた花宮さんはそれどころではないらしい。まあ恥ずかしいというのも分からなくはないが……。



「オタク文化研究会? 君たちはその部員なの?」

 僕らが不意に声をかけられたのは、そんな時の事である。

 見るとそこには、ポニーテール姿の見知らぬ女生徒の姿があった。髪を解いたらセミロングくらいの長さにはなるだろうか。

 そんな短めのポニーテールだ。

「ええと……カノ、知り合いか?」

「いいえ初対面です」

 念のため確認してみたが、花宮さんも知らないらしい。


「……そうだけど、君は?」

「あ、ごめんねいきなり話しかけちゃって。あたしは佐久間亜衣。君たちの部活に興味があったから話しかけたんだけど、少し質問してもいいかな?」

 興味がある、と、そう女生徒は言った。新入部員を寄せ付けないための工作だったのだが、逆効果だったのだろうか。

「あ、ああ」

 生返事で返すと、女生徒は更に質問を重ねてくる。

「こういう部活に入ってるって事は、君達そういうのに詳しいか、最低でも興味があるって事だよね? あってる?」

「ああ、この子はともかく俺は詳しい方だと思うが」

 そう、花宮さんは僕に合わせているだけで、知らない上に多分興味もない。

「ふうん、そっちの子は違うんだ……。じゃあ君だけでいいや。君ってさ、声優の名前何人くらい言える?」

「えっ」

 その質問で僕のオタク度合い計るつもりなのだろうか。僕は若干間をおいて、

「さ……三百人くらいだな」

 そう答えた。

「ふ、ふうん。まあいいわ、それなら君、ええと……」

「福山瞬です」

「そう、福山君ね。君に少し付き合って貰いたいんだけど、時間いい?」

 よりによって僕を呼び出すとは……奇特な人だ。

 僕の背後でさり気なく、花宮さんが僕の制服を掴んだ。

(さっきの質問、本当は千人くらい知ってるんだけど、嘘ついたのは失敗だったか……?)

 僕は女生徒の意図を計りかねていた。

「悪い花宮、先帰っててくれ」

 そう言って僕は片手合掌で謝罪する。

「……それはいいですけど、シュン様、あの約束忘れないで下さいね」

「約束? 何の?」

「その……、一年は彼女を作らないっていう……」

「ええと……」

 そんな約束したかな? いやでも猶予をあげるって話だったし、そういう意味に取れなくもないのか……。まあどの道同じ事だと思うけど。

 っていうかこの状況、明らかにそういう流れではないと思うんだけど……。

「分かったよ。また明日な花宮、気を付けて帰れよ」

「はい、シュン様もお気を付けて」


 それが、その日僕と花宮さんが交わした最後の会話となった。

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