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ネガティブ男子と下僕的な彼女  作者: 進撃のマシュマロ
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4話

「福山、お前最近花宮さんと仲が良いらしいじゃないか。何があったんだ?」

 僕らが席についてすぐの事である。隣の席の杉田がそう話しかけてきた。今日は何故だか早めに来ており、その席に花宮さんを座らせる事が出来なかったのだ。

「ああ、まあたいした事じゃない。成り行きでな」

「付き合う事になったのか?」

「違う。仮の恋人として期間限定で付き合う事になっただけだ」

 ……うん、嘘は言ってないよな、嘘は。しかし杉田の反応はと言うと……。

「そうか、お前最低だな」

 とこんな感じである。

「なんでそうなる」

「遊ぶだけ遊んで、時期が来たら捨てるつもりなんだろう?」

「人聞きの悪い事を言うな。指一本触れるつもりはない」

「そうなのか? なんでまた?」

「そりゃあ……」

 花宮さんが可哀想だから。そう思いつつも、それを言葉にする事はなぜか出来なかった。

「……お前には関係ないだろ」

 僕はそう言って強引に会話を切り上げる。それを察した杉田も、怪訝そうな顔を見せたものの、これ以上追及してくるような事はなしなかった。先生が教室に入って来たのは、それから程なくしてからの事である。


 昼休み。僕と花宮さんは、昨日とは違い屋上でお弁当を食べていた。そのお弁当はもちろん花宮さんの手作り。とはいえ実際に作っている所を見た訳ではないので、別の人が作っている可能性もなくはないのだが……。

「どうですかシュン様。お味の方は……?」

 僕がお弁当を三口ほど食べた時の事である。花宮さんがそんな事を聞いて来た。

「心配しなくても十分美味いよ。これならいつでも嫁に出せるな」

「そうですか? それならいいんですけど……」

 不安そうにそう語る花宮さん。美味いというのは嘘偽らざる本音ではあるのだが、花宮さんの不安もまあ分からなくもない。お世辞と本音をどう見極めるかは、女の人の人生における第一の命題だろう。とは言え僕の感想はきちんと伝えたし、重ねておいしいと言っても恐らく意味はない。少し考えた末、僕は残りのお弁当を急いでかき込むと、

「食欲ないのか花宮……じゃなかったカノ。それならその唐揚げ、俺にくれよ」

 そう言った。

 俺の発言がよほど意外だったのか、花宮さんは、「……えっ?」と、そんな反応を見せる。

「駄目か? 嫌なら諦めるが」

「そ、そんなコトはありません! 是非もらって下さい。シュン様にもらわれるのなら、カノのお肉さん達もきっと本望です」

 何を言ってるんだこの子は……。

「お、おう、さんくす。ところでカノ、入部届けはもう出したのか?」

 花宮さんから奪ったお肉をほお張りながら訊ねる。

「入部届けですか? いえ、まだですけど……」

「そうか、丁度いいや。これから一緒に出しに行かないか? 顧問に出せばいいんだよな?」

「はい、そのハズですが……」

 僕が一緒に出そうと言い出したのには理由がある。それは……。

「……そういえば、マン研の顧問って誰なんですかね?」

 そう、僕は顧問が誰か分からなかったのである。最もそれは花宮さんも同様のようだが。

「昨日カノが使ってた資料があるだろ? それに載ってるんじゃないのか?」

「あ、なるほど」

 つまりこういう事で、マン研の顧問を調べるために、花宮さんが必要だったのである。

「あ、でもその資料なら教室です。教室でお弁当を食べれば良かったですね」

「そうでもない。どうせ入部届けも教室だしな。カノと一緒に屋上でお弁当が食べれたんだから、それはそれでいい」

「シュン様……」

 理由はよく分からないが、さっきまで落ち込んでいると思っていた花宮さんが、少し元気を取り戻したようだ。よかったよかった。

 お昼を食べ終えた僕らは、早速教室へと戻り、入部届けの記入を始めた。入部届け自体は事前に入手していたのだが、それは花宮さんも同様だったらしく、しかもお互いに相手の分まで用意していたものだから、結果的に入部届けが二枚余ってしまった。まあいいか。

「そういえばシュン様、部活動名はオタク文化研究会でしたよね?」

 入部届けを書き始めてすぐ、花宮さんがそんな事を聞いてくる。

「いや、記入するのはマンガ研究会だ。昨日名前を変えると話し合いはしたが、公的にはまだマンガ研究会だからな」

「あ、そうでした」

(そう言えば部活名を変える手続きはどうなってるんだろう)

 ふと疑問に思うも、それは入部してから考えようと思い直し、思考の隅へと追いやる。

「ええと、マン研の顧問は茅野先生のようですね」

 花宮さんが資料を片手にそう説明する。

「茅野先生……、保険医の先生か」

 比較的捕まえやすい先生なのは助かった。他の先生ならいざ知らず、保険医の先生なら大抵保健室にいるはずである。……多分。

「しかし何でマン研の顧問なんかに……」

 茅野先生なら知っている。若い女の先生である。あれで結構オタク趣味なのか、あるいは単に押し付けられただけか……。根拠はないが、なんとなく前者のような気はする。

 入部届けを書き終えた僕らは、早速保健室へと向かった。幸いにも茅野先生は在勤中であり、二度手間にならずに済んだようだ。

「失礼します」

 僕がそう言って保健室のドアをくぐると、

「お、おじゃましま~す」

 お前はコソドロか何かかとツッコミたくなるようなか細い声で、花宮さんも続く。

「はい失礼されま~す。今日は何の用で来たのかな~? 見た所二人とも健康そうだけど、男女絡みの事なら管轄外なのでお引き取り願えるかな~?」

 子供をあやすような口調でさらっと毒を吐く茅野先生。近くで見るのは初めてだが、これまた随分と背が低い。おそらく150センチも無いのではなかろうか。そのせいか小学生か、精々中学生くらいにしか見えない。

「いえそうではなく、マン研の入部届けを提出に来たんです」

 言って僕は先生の座るデスクに届けを置いた。

「あらそうなの? 二人共? でも残念ね。マン研は昨日も一人入部して来ているのよ」

 何が残念なのかは良く分からないが。

「いえ、それは承知です。昨日も吉川さんと部の方針について話し合いましたから」

「あら~? じゃあハーレム状態ってこと? やるわね~君」

 若い先生なのは知っていたが、実年齢以上におつむの方が若そうな先生だ。僕らよりも。

「先生はマンガとか描くんですか?」

 花宮さんがそんな質問をしつつ、僕の入部届けに自分の入部届けを重ねる。

「そうねぇ、描くわよ。自分で印刷して自分で売るの。結構なお小遣いになってるわ」

 おい待て公務員。

「す、すごいですね。どんな本を描いてるんですか?」

 公務員は副業禁止である。知っているのかいないのか、花宮さんは特に気にした様子はない。むしろその内容に興味深々と言った感じで、茅野先生に詰め寄った。

「そう? じゃあ読んでみる?」

 先生はデスクの引き出しから薄い本を取り出すと、花宮さんに手渡す。

(持ってくるな。机に仕舞うな。他人に見せるな)

 僕はそんな気持ちを、ぐっと心に押し込んだ。ちなみに現物を見るのは初めてだが、知識としては知っている。察するにこのマンガは……。

「わ~~上手。どんな内容なのかな?」

 なんていいながら無造作に薄い本を開く花宮さん。そして――

 ――そっとじ。

「とっても面白かったです。貸してくれてありがとうございました」

 そう言ってごく自然に本を返すが、ろくに読んでいないのは誰が見ても明らかである。

「あれぇ? もしかしてBLは初めてだった?」

 そりゃそうだ。僕が見た所、花宮さんは普通のマンガはおろかゲームやアニメすら殆ど見た事が無いように見える。

「ビー……エル……?」

「ボーイズビーアンビシャスの略よ」

 Lはどこ行った?

「それだとクラークです先生」

「そうね。ボーイズラブの事よ。これで察してちょうだい」

 現物を見てしまったのだから、察するも何もないと思うが……。

「と、とにかく、届けは出したんで俺たちはこれで失礼させてもらいます。行くぞカノ」

 この先生といると無性に突っ込みたくなる衝動に駆られてしまう。そう感じた僕は、花宮さんにそう持ちかけるが。

「………………」

 花宮さんは無反応。BLの衝撃から立ち直っていないようだ。仕方なしに僕は、花宮さんの手を引いてやや強引に保健室を後にした。その際茅野先生が、

「またね~」

 とひらひら手を振って送り出すが、それに応じている余裕は残念ながら僕にはなかった。

 保健室を出てすぐ、僕は花宮さんの手を放す。

「大丈夫か、カノ」

 そう言って花宮さんに向き直るが、やはり無反応、かと思いきや……。

「シュン様!!」

「な、なんだ!?」

 突然僕の名前を呼んだかと思うと、次の瞬間花宮さんは、僕の服を掴んで強引に迫った。

「キスして下さい!」

「なん……だと……?」

 どうやらまだ混乱しているらしい。

「分かった。目を瞑れ、カノ」

 そう言うと花宮さんは、何故だか「はいっ!」という返事と共に、素直に従った。

 僕はそんな花宮さんの両肩に、静かに手を置いた。そして、お互いの吐息が感じられる距離にまで顔を近付けていく。やがて僕らの額が触れ合えそうな位置にまで迫った時、僕は花宮さんの両肩からそっと手を離し、そして……。

 ペシンと、花宮さんにサンドイッチビンタをかます。

「いひゃっ!!」

 花宮さんはそんな悲鳴を上げると、恐る恐る瞼を開く。

「目、覚めたか? カノ」

「……ふぁい」

「それならいいんだ。そろそろ教室に戻るぞ」

「……ふぁい」

 ちょっと荒療治だったけど、あのまま放置していたら取り返しのつかない事になっていたかもしれない。僕の理性だっていつまで保ったか。可哀想だけどまあ仕方ない事だろう。

 踵を返して歩き出した時、ふと手に残る感触が気になり、自身の手の平を見つめた。

(スベスベだったな、花宮さんのほっぺた)

 我ながら変態臭いが、ドサクサに紛れてもう少し触っておけばよかったと、そう思った。

「あの……シュン様?」

「…………っ!!」

 そんな妄想にふけっている時に声を掛けられたのだから、飛びあがりそうなほど驚いたのもまあ無理からぬ事だろう。それどころか、勘のいい子なら今僕が何を考えていたか分かってしまったとしても不思議ではない。

「ど、どうしたカノ?」

 頑張って平静を装いながらそう返すが……。

「あの…………キスはどうなったんですか?」

 どうやら気付いてはいないらしい。それどころか、まだ混乱しているみたいだ。

「バカな事言ってないで行くぞ」

「そ、そんなぁ~」

 半ば無視するように先を急いだ僕を、花宮さんは小走りに追いかけた。

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