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ネガティブ男子と下僕的な彼女  作者: 進撃のマシュマロ
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18話

「ねえシュン様、詩織ちゃんの事で質問があるんあけど、いいかな?」


 もう何度目になるか分からない、二人並んで登校中の際の出来事である。

 詩織。言わずもがな、僕らが現在制作中のゲーム、魔本少女しおりちゃん、その主人公の事である。だけど今花宮さんが言った詩織ちゃん、その意味は多分少し違う。

 詩織ちゃんというのは主人公の名前であると同時に、作品のタイトルでもあるのだ。

 僕らの中でいつしか、『魔本少女しおりちゃん』の略称がそのまま詩織ちゃんになってしまったのは、別段不思議なことではない。


「どうしたカノ?」

 花宮さんはシナリオ担当である。そのため文章に関する事から内容に関する事まで、何かと尋ねてくる事が多く、今回もその一つだと思われた。

「ええと、終焉の夜の正体って佳織ちゃんなんだよね? でも作品では、それぞれ別の存在として出て来てる。ここまではいい?」

「うん」

「じゃあそうやって、別の存在として出てきた理由は何なのかなって思って」

「ふむ……」

 作っている内に作品に対する理解が深まっていくのはよくある話で、この疑問も作品を理解するうえでは結構重要なポイントである。

「一言で言うとだな、佳織は本の中のキャラクターで、終焉の夜は作者としての佳織だと考えていい」

「作者とキャラクター?」

「そう。書きかけの本に、異なる時間軸の〝現実の〟佳織が書き込んだ、自分をモデルにしたキャラクター、それが本の世界の佳織の正体。ちなみに詩織もその二面性を持ってるけど、一体化してしまっていて区別する意味は無い」

「ええと、ちょっと待って下さい、異なる時間軸と言うのは……?」

 話の軸となる重要な要素なのだが、どうやら理解していなかったらしい。これは後で大幅な添削を入れる必要がありそうだ。

「じゃあおさらいも兼ねて、詩織ちゃんの話の大まかな流れを説明するぞ。最初に回想で詩織はお祖母ちゃんから不思議な本を貰う。これが本編の九年前。その本は書きかけの本で、お祖母ちゃんはその本を完成させてくれるように詩織に頼んで、それから程なくしてお祖母ちゃんは故人となる。ここまではいいか?」

「はいです」

 花宮さんは強く返事をするが、本当に理解できているのだろうか? 不安だ。

「でもその時間軸の詩織は、本を完成させるどころか一切手を加える事なく、その十九年後、本編から数えて十年後に十歳になった佳織にそのまま託している」

「はい」

「ところが本を託された佳織は、どういう訳か本の結末をメチャクチャなバッドエンドにしてしまう。元々本には不思議な力があって、現実世界と干渉し合っていた。その為佳織の書いたバッドエンドが現実世界にも影響してしまう」

「うん」

 花宮さんは意外と、分からない事があればはっきりと分からないと言う。と言う事は、今の所本当に理解できているのだろう。多分だけど。

「それを知った本のキャラであるシュレディンガーの猫ことシュレ君が、時間を遡って現在の……つまりは十四歳当時の詩織に助けを求めてくる。これが本編の始まりになる」

「なるほど、そんな裏設定があったんですね」

 いや、全然裏じゃないんだが……。まあいいか。

「助けを求めた相手が詩織だった理由は簡単。佳織の前に本を所有していたのが詩織しかいなかったからだ。佳織より先に本を完成させてしまえる〝可能性〟を持っていたのは彼女しかいない。……で、そうしてシュレ君と接触するに至った詩織だけど、ここであるパラドックスが発生する。未来の結末を知って現在の行動を変えたと言うモノだ。そのパラドックスを解消するために、現在の詩織と未来の佳織が、本の続きを書く権利をかけて本の中で戦う。詩織ちゃんと言うのはそういう話なんだ」

「なるほどそう言う話だったんですね」

 やはりよく分かっていなかったらしい。それなのにこの作品を作りたいと推したのは一体どういう了見か。

「……まあ背景が結構複雑だし、一回読んだだけじゃ完全に理解する事が出来ないのも無理はない。また何か分からない事があったら遠慮せずに聞いてくれ」

「はいです。それにしても……」

 それまでは前と横を交互に見ながら歩いていた花宮さんが、ふと隣を歩く僕に視線を据えた。釣られて僕も花宮さんの方を向く。

「随分と詳しいんですね。作者でもないのに」

 そして意味深な事を口走る。

「……まあ何度も読まされたし、かく言う俺自身がメロンの最初のファンでもあるしな」

「そうなんですか? あんまり興味なさそうだったのに……?」

 興味なさそうって、そんな風に思われてたのか。

「メロンが頑張ってるのを一番近くで見てたからな。最初の頃は俺もラノベとかあんまり知らなくて、的外れな感想ばかり言っていたような気がする」

「ふうん……それじゃあメロンさんの作品はある意味シュン様とメロン先生の合作でもあるんですね」

「えっ?」


 そんな事考えもしなかった。確かにラノベを分析して指摘したりもした。デストロイヤーだって元々はテンプレの方が入賞しやすいかもと考えた上で書かせたものだ。けど……。

「そう……言えなくもないかもしれない。けど俺とメロンの労力を同じように考えたらいけない。俺は協力しただけで書いたのは全てメロンだ。その労力が釣り合う訳は無い」

 しかし花宮さんは何処か納得がいかなさそうに、

「労力ではそうかもしれないですけど、シュン様と一緒に部活をしてて思うのは、シュン様がまるで本当の作者みたいに作品の事を理解していると言う事です。それが才能であれ何であれ、作る側の人間にとっては物凄く有難い事だと思いますよ」

「……そう、なのか?」

 でも思い当たるフシはある。メロンが僕に感想を求めるようになる前、作品をネットの掲示板に晒した事があったらしい。しかし肝心の感想内容は、感想というよりはイチャモンレベルの言いがかりばかりで何の参考にもならなかったらしい。

「なんて、まだ一作品も完成させた事のないにわかの意見ですけどね」

 そう言って花宮さんは、どこか自虐的に微笑んで見せた。

(完成させた事は無くても、作り手として何か通じ合うものがあるんだろうか?)

 そんな花宮さんを見て、僕はふとそんな事を思った。


 僕らが部室に入ると、そこには既に佐久間さんと吉川さんの姿があった。しかし共に作業をしているようには見えない。何やら写真のようなものを二人して眺めている。

「はろー、何してるの二人共?」

 花宮さんが声をかけるが、するまでもなく二人は僕ら……というか僕を凝視していた。

「な……何だ?」

 明らかに普通でない空気を察し、思わずたじろぐ。

「シュン君……いい所に来たね。とりあえずその場に正座してくれる?」

 佐久間さんである。笑顔ではあったが、目は笑っていない。

「……は、はい」

 事情も分からないのにとりあえず従ってしまうのは、小心者たる僕の悲しき性か。

 スリッパを脱いでその場に正座すると、佐久間さんは僕の前に一枚の写真を差し出す。

 四十人はいるだろうか。何処かのパーティー会場で撮られたと思しき集合写真であった。

「シュン君、この写真に覚えがあるよね?」

 覚えがあるかと言われれば……ある。この写真は以前、デストロイヤーのアニメ制作の打ち上げに参加した時の物だ。

「こ……この写真は?」

 何の写真かは当然知っているが、問題なのは何故佐久間さんがこの写真を持っているのかという事だ。しかし直接そう返したら、何の写真なのか知っていると自白しているようなモノである。あえて遠回しにそう質問した。

「とあるアニメの打ち上げの写真みたいね。事務所の先輩に頼んで借りてきたの。何のアニメかは……言わなくても分かってるよね?」

 事務所の先輩って……。佐久間さんは既に事務所に所属してたのか。通りで上手い訳だ。

 演技を聞いたときに適当な事を言わなくてよかった。

「はは……、そう言えば以前メロンにこんな写真を見せて貰った事があったような……?」

「そう、あくまでもしらを切るつもりね。じゃあ次の質問。シュン君はこの人が誰だか当然知ってるんだよね?」

 そう言って佐久間さんが指し示した人物。他でもない、その打ち上げに参加した僕自身である。

「ち……、小さくてよく見えないな」

 何とか笑って誤魔化そうとしていたが……、

「この人、シュン様です」

「…………えっ?」

 僕らのやり取りを近くで見ていた花宮さんが勝手に応えてしまう。

「み、見間違いって事は無いか? ほら、小さいし」

「ううんそんな事はありません。カノがシュン様を見間違うなんて事、あり得ないです」

 何でそんなにはっきり断言できるんだ。確かに二目と見れないブサイク面だけどさ……。

「やっぱり……。この人はねシュン君、先輩の話だと、このアニメの原作者らしいの。説明してくれるよねシュン君? 君がメロン本人であることを隠していた理由を」

(や、やっぱりそうなるよなぁ……)

 ここまで物的証拠が残っている以上、もはや半端な誤魔化しは逆効果だろう。僕は意を決して真実を語る覚悟を決めた。

「仕方ない、こうなってしまった以上は正直に話すけど……。先に断っておく、俺は生ハムメロンじゃない」

 ここまで証拠がそろっているのに信じてくれるのかどうかは不明だが、僕の言葉に反応して意外そうな顔をしたのは佐久間さん一人であった。

 状況が分かっているのかいないのか、花宮さんは瞬きを二回しただけ。吉川さんに至ってはさして興味もないのか、遠巻きに様子を窺っているだけである。

「生ハムメロンと俺は兄妹なんだ。でもそいつ人見知りでさ、アニメ製作には一切関わりたくないって言ってたんだ。それで結局メロンの次に原作に詳しい俺が、原作者のフリをしてアニメ制作に関わる事に……」

 一応断っておくが真実である。


「なるほどね……」

 なにせ真実だし、おかしな点はないはずだ。

 佐久間さんは咀嚼するようにゆっくり肯いた。

「とまあこれが真実だ。隠していた訳じゃないが、結果的に混乱させてしまったようですまないと思ってる」

 最後に謝罪の言葉を付け加えると、佐久間さんは納得したようにふうと溜息をついた。

「結局嘘ではなかったという事ね。それが分かっただけで十分。騒いで悪かったわ」

 言い終えるが早いか、佐久間さんはくるりと踵を返すと、自分の席へと戻っていく。

(まあ佐久間さんが慌てるのも当然か。ファンだったメロンの正体が僕かもしれなかったんだから。でも納得してくれたようでよかった)

 疑いが晴れて一安心していたその時である。

「シュン様の両隣りにいる子たちは誰です?」

 花宮さんがふとそんな疑問を口にする。

「若手声優の子たちだよ。パーティー会場で学生だったのは多分俺とその子たちだけで、会場で浮いてた俺に気を使って話しかけたりとかしてくれたんだ」

 別段隠す事でもないので正直に応えたのだが、何が気に入らないのか花宮さんの眉間に皺がよる。

「……それだけ?」

「そ、それだけだが?」

 強引に顔を寄せてくる花宮さんにたじろぎつつも、見つめ合っていた僕らだったが、やがて納得したのか、花宮さんはすうと顔を引いた。

「分かりました、信じます。それにパーティーに参加したのは、カノと出会う前の事みたいですしね」

 納得してくれたようだが、何というか花宮さんの沸点はよく分からない。

「さ、シュン様、部活しよ」

 なんて言い出す頃には、既にいつもの花宮さんに戻っていた。そんな花宮さんを見て、僕は本日二度目となる安堵の息を漏らしたのだった。

(そういえばあれ以来話を振って来ないから忘れてたけど、佐久間さんのお願いを聞いてあげるって約束してたんだっけ)

 そう、彼女がオタ研に入ったのはあくまでその為なのだ。割と打ち解けているから忘れそうになるけど。

(今度それとなく聞いてみるか)

 僕は立ち上がってズボンの汚れをはたくと、自分の席へと向かった。

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