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ネガティブ男子と下僕的な彼女  作者: 進撃のマシュマロ
16/30

15話

「ええと、順番にこれが魔法少女モノ、これが近未来モノ、これが異世界転生物モノだな」


 僕が皆の前に三冊の紙束を置いてそう言ったのは、翌日の事である。


 昨日帰ってすぐに、メロンに作品の使用許可を仰いだのだが、予想通り二つ返事でOKを貰えた。

 それからすぐにデータを貰い、これらの資料を用意したのだが、生憎我が家にはプリンターが無く、全部印刷するのに四千円近い出費となってしまった。

「魔法少女……」

 ぼそりとそう漏らす吉川さん。

 彼女は二人と違ってメロンにもラノベにもあまり興味が無いのだから、ある意味当然の反応か。

「作風としては『ままま』に近い。けどあれとは違ってきっちりハッピーエンドで終わってるいい作品だよ。……あ、いや、まままが悪い作品って意味じゃなくてな」

 ままま、少し前に話題となった魔法少女モノのアニメ作品、その略称である。

 確かアレの脚本は元々ゲームのシナリオライターで、メロンが心の師匠と言っていたか。メロンは彼の作風に、ゆるい雰囲気とハッピーエンドを加えた作風を目指しているとかいないとか。


「シュン様、じゃあこの作品は?」

 そう言った花宮さんが指し示したのは、近未来SFモノ。

「人間とアンドロイドが共存している社会での話だな。共存と言っても平和的な意味では決してなく、見た目や心は人間と何も変わらないのに、人間と対等に扱って貰えないアンドロイドと、逆にアンドロイドを人間として扱ってしまった人間、彼らが直面するシビアな現実を話の主軸に置いてる。作風ははっきり言って暗く、結末もハッピーエンドのために爆弾を背負い込んだような、そんな感じになってる」

「ふうん……、じゃあこれは?」

「当時流行ってた異世界転生モノの亜種だな。現代知識で町を作って大きくしていく話だ。町が発展していく面白さはあるけど、反面ストーリー性は薄い」

 そこまで説明を終えると、僕はそこで一息ついた。


「さて、これで一応三作品のあらましを説明した訳だが、今の時点でどれを作るか決めた人はいるか?」

 僕としては全部きちんと読んだ上で決めて欲しいとは思う。思うけれどもそんなものは所詮僕の願望だ。興味のない活字を延々読まされる事を苦痛に感じる人は多いだろう。

 僕はそう言って三人の反応を窺った。

「メロン先生の作品を読まずに判断なんて……、きっちり全部読んでから判断するよ」

「そうだよねぇ。ちょっと大変だけど、空サンはあらすじ以上の面白さがあったし」

 佐久間さんは順当として、花宮さんもそれに賛同する。そして僕と二人の視線は、自然と吉川さんの方に向いた。

「……分かりました。少し面倒ですけど、私もちゃんと読ませて貰います。作るならいい作品にしたいですしね」

 そして二人に流されるようにして、吉川さんもそう宣言した。

「それは良かった。それじゃあ急で申し訳ないが、三人は今から帰るまでにどれか一作品を読み終えて欲しい。そのあと作品を取り替えて自宅で一作。明日再び持ち寄って残りの一作、という形にしよう」

 僕がそう持ちかけるすると、三人は各々の返事で了解の意を示した。


 静かな部室に、時折ページをめくる音だけが響いては消えていく。

 耳を済ませば運動部の掛声や野球部の快音が聞こえるが、ここはグラウンドからも遠く、それらが却って心地よくもある。

 三人は物語に集中しているのか、無駄口どころか視線一つ外さずに読みふけっている。だがそうなると暇なのは僕の方である。


(簡単に今後のスケジュールでも切ってみるか……)

 監督が未だに何をするのかよく分かってないが、四人の担当分以外のすべてを僕が担うのであれば、学園祭までに作品が完成するように調節するのも僕の役目だろう。

(そう言えばみんな、開発に最低限必要な環境は持っているんだろうか? 無くてもどうにかなりそうなのはシナリオくらいしかないぞ)

 今更だが、今この部にはノベルゲーム開発に使えそうな機材は一切ない。必然的に各自で調達するしかない訳だが。

(後でちゃんと聞いておくか……)

 みんながあまりに熱心に読みふけるものだから、その腰を折る事は躊躇われた。



「さてみんな、既に心は決まっているだろうか」

 そして翌日の夕刻。僕らが座るテーブルに置かれた三冊の紙束。

 昨日からオタ研ガールズがローテーションしながら読んでいた三作品のそれである。

「他の人の意見に流されないように、ここは同時に行こうと思う。ばらけた場合は俺の一存で決めさせてもらうが、そうでない場合は二票集めた作品に決定となる。準備はいいか?」

 三人は真剣な面持ちで、静かに頷いて見せる。

「それじゃせーので同時に作りたい作品を指し示して欲しい。じゃあいくぞ、せーのっ!!」

 僕の掛け声とともに三人が指し示した作品、それは……。


「『魔本少女しおりちゃん』か、まさか全員一致とはな」

 タイトルからも分かる通り、最初に僕が魔法少女モノと説明した作品である。

「参考までに、この作品のどんな所が良かったのか聞いてもいいか? ……カノ」

 実の所僕もこの作品が一番好きだったのだが、同時に万人受けするとも思っていなかった。だからこそこの三人がコレを推したことは意外だった。

「文句なしに面白かったです! ほのぼのした前半とシリアスな後半のバランスが良かった。カノもこんな中学時代を経験したかったです」

 うん、僕は突っ込まないぞ。

「じゃあ次は佐久間さん」

「シビアな内容なのに何処かメルヘンチックなところかなぁ。理想に近いハッピーエンドなのに、理想的過ぎないのもいい」

 なるほど佐久間さんはメルヘン好き、と。

「次、吉川さん」

「どう考えても戦いには向かない性格のシオリが戦わなければならなかった理由といいますか、彼女と〝終焉の夜〟との関係性も良かったと思います」

 どうやら吉川さんは、話の整合性とかを気にするタイプらしい。

「ありがとう。みんなが語ってくれた良かった点、特にそこを重視して作るように心掛けるよ。それと、あえて何も言わなかったけど、俺もゲーム化するならこの作品を作りたいと思ってたんだ。だからみんなもこの作品を推してくれてよかった」

「どうして何も言わなかったんですか?」

 花宮さんがそう疑問を口にする。

「俺が余計な事を言ってしまうと、俺の意見に流されてしまいかねないだろ? 特にカノ」

「う……」

「そう言う事だ。結果論とは言え、みんなの作りたい作品が一致してよかったよ」

 そして逆を言うと、それだけこの作品のポテンシャルが高かったと言う事でもある。

「でもシュン様、ここにある作品は全部メロンさんのデビュー前の作品なんですよね? それならこの魔本少女しおりちゃんも選考を通らなかったという事でなんすか? 面白いのに?」

「面白ければ通るかと言うとそうとも限らないんだよ。ラノベの主な読者層は十代の男子なんだと。そこで考えてみて欲しいんだけど、十代の男子が〝魔本少女〟なんてタイトルの本を買って読んだりすると思うか?」

「それは…………確かに」

「あとこの作品は、序盤は割とほのぼのしてて目的意識も低めだ。こういうのもラノベではよくない」

「そうなんですか?」

「うん。少年チャンプとかでもそうだけど、例えそれが後半を盛り上げるための布石だったとしても、そこで読むのを止めてしまう読者が多いんだそうだ」

「ふうん……何だか残念な感じがします」

「まあそんな理由で、大して評価もされずに選考落ちした訳だ。実の所女の子向けのレーベルに出すって手もあったんだけど、それ用にページを調整するのは生ハムメロンが面倒臭がってやらなかった。前も言ったように、過去作品にはあまり興味を示さない奴でな」


 そこまで話した所で、僕はふと部室に掛けられた時計を見た。

 時計の針はそろそろ六時半に差し掛かろうとしていた。

「悪い、長々と話してしまったな。とにかく作る題材は決まったから、明日までに簡単な工程表を用意しておくよ。佐久間さんと吉川さんは開発に必要な機材を持って来て欲しい。カノは新品の大学ノートが二、三冊あれば十分だ。と言う訳で今日の所は解散」

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