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須佐妖戦帖 第2章「志能備の須佐」  作者: 蚰蜒(ゲジゲジ)
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其の8 本能寺の変

桂川を渡河後、全軍に信長襲撃と明らかにした。

重臣、明智秀満、明智光忠、藤田行政、斎藤利三、溝尾茂朝が頷いた。

「今日よりして天下様に御成りなされ候!」と告げる。

織田信忠(おだのぶただ=織田信長の長男、信正が実在すれば次男。信長に生前、家督を譲られた)襲撃には別隊が京へのもう一つの山道「明智越え」を使った。信忠の宿所、妙覚寺みょうかくじを目指す。

1582年(天正10年)6月2日明方、明智軍は本能寺を完全に包囲した。


信長は1582年(天正10年)3月、武田氏を滅ぼした。既に北条氏、東北・伊達氏、九州地域・大友氏、龍造寺氏は信長に恭順となり、四国の長宗我部氏、九州地域・島津氏とは強行外交を続行した。四国では三好康長が信長に属し、丹羽長秀の補佐を受けた神戸信孝が長宗我部氏との戦争準備を進め、既に信長の勝利は視得ていた。九州・大友氏、島津氏、龍造寺氏は信長に属する意志を伝えた。

以後、交戦中は中国・毛利氏、北陸・上杉氏である。

しかし、一時期、信長を苦しめた毛利氏は、羽柴秀吉の前に勢力を失いつつあった。上杉氏は謙信亡き後、家督争いと家臣の反逆で弱小した。

天下は信長の手中にあった。

其の一方、遠国へ多くの兵力を派遣したため、信長周辺の軍勢は手薄であった。須佐との合戦も効いていた。しかし、天下統一目前と云う状況下、楽観的な雰囲気があったのではないか?此の時、信長、家康共々僅かな供回りで移動していた。油断である。

信長の回りには本能寺時、百名程しか居なかった。其処に一万以上の明智の兵が襲撃した。


馬の嘶きやらで目覚めた信長は、森成利(蘭丸)に様子をうかがわせた。

「殿!本能寺が包囲されております!」

「なんだと!」

桔梗紋(明智光秀の家紋)旗が多数揺らいでいる。

「光秀か?!奴は備中に居る筈だ。如何たる者の企てだ?」

「明智が者と視得まして御座います!」


「是非に及ばず!皆の者!襲撃だ!光秀の謀反むへんだ!!」

女衆に逃げるよう指示した。


わああああああああああああああーーーーーー!!

ドドドドドドドドドドーーーーーーーーーーー!!


信長は矢を撃ち、槍を取り、敵を突き伏せた。しかし怒濤の如く兵が殺到する。「信長の首を取れ!」兵達は躍起である。

「ん?」信長がふと眼をやると須佐の者たちが、揺ったりと故知等に歩いて来る。

「須佐だ!何故、あやつ等が此処に居る?!」

武角の前後の舞と佐助が信長兵を叩き斬りながら進んで来る。


「疫病神の様な奴らだ」

信長は逃げた。素志て寺奥深くに篭り、納戸を締めた。

「蘭丸!火を放て!・・・もはや、此処まで」

素志て・・・・自刃じじん・・・・其の時!ヒュン!カーン。刀が弾け飛んだ。手裏剣が飛んで来たのだ。

顔を上げると火の中に須佐達が立っていた。

「貴様等ーーーー!」

「信長!自刃はさせぬぞ」

「矢張り、わしを斬り殺したいか?」

「身勝手な死に方はさせないだけだ。視ろ!」

部屋の隙間と云う隙間からあらゆるむしが、無数にぞろぞろと湧いて来た。火など諸ともしない。

「う、うわああ!」

「此れは、お前が殺した、殺させた僧侶や武士、農民、女、子供たちの霊が宿った蟲だ」

其の蟲たちが信長に向かって来る。

「怨みを受けろ!」

「うぎゃあああああああーーーーー!!」

蟲たちが信長に群がり、喰い始めた。バリバリ、むしゃむしゃ。

「す、須佐ーー!うぐああああ」

其の有様は悲惨である。生きたまま喰らわれる。其れは、命をないがしろにした者への死者からの報復である。

数分後、信長は骨までも喰らわれ何もなくなった。そして、蟲は部屋から退散した。

須佐たちも其の場から消えた。


一方、光秀謀反の報を受けた信忠は本能寺に救援に向かうため妙覚寺を出た処、本能寺門前の屋敷に住む村井貞勝父子が駆け付け、知らせを受けた。

「本能寺は焼け落ちました。此処にも来ます。凄い数の兵です。二条御所(二条城)にお隠れになった方が善い」

「父上はどうした?」

「解りません」

素志て二条御所に入った。

「安土に逃げるか?」

信忠は「簡単に逃げれないだろう。雑兵の手に掛かるくらいなら、此処で腹を切ろう」と云った。

明智軍は本能寺を落とした後に御所を包囲した。二条御所の主人は誠仁親王である。

「信忠殿、何事ですか?」

「目的はわたしです。親王には奴らは手を出しません」

「明智の者達!誠仁親王と側近の方々を出す。手は出すまいな?」

「心得たり!」

信忠達は明智軍を相手に僅かな軍勢で戦った。明智軍は隣の近衛前久邸へ押し入り、屋根から二条御所内の信忠軍を銃矢で狙った。素志て御所内に侵入し、放火。

信忠は「切腹する。遺骸は縁の下に隠せ」と鎌田新介に指示し、介錯するよう命じた。信忠は自刃し、首を隠して鎌田は脱出した。

信長の弟・織田長益(後、織田有楽斎)も此処に居た。彼は落城前に逃亡、安土城を経て岐阜へ逃れた。

信長の黒人・弥助も此処で戦っている。弥助は、宣教師との謁見の際に信長の要望で献上された黒人奴隷である。彼は捕まったものの殺されなかった。

「お主は奴隷だそうだな。此の国には奴隷制度など無い。慈悲だ。自由放免にする」しかし、其の後の消息は不明である。戦国時代に京都で自由にされた異国の黒人。どう、生きたのか?興味がつきない。

二条御所、落城。革命クーデターは終わった。


光秀は信長の首を手に入れる事が出来なかった。

「屍体は何処だ?」焼屍体さえ見付からない。

「信長を追って須佐たちが寺内に入ったのを視たぞ」

「須佐殿が?」光秀は見開いた。

「裏から血塗まみれの無数の蟲が出て来て何処かに逃げました」

「血塗れの蟲?何だ其れは?」

光秀が叫んだ。「云うな。彼等が信長を殺った。どうやったかは?知らぬが・・・利三としみつ!」

「は!」

「首が取れぬと同盟国の武将供は、どう動くであろうな」

「・・・・どう・・・」

「俺に付いては来るまい・・・」

午前八時。光秀は空を見上げた。

「須佐殿、俺も罪人つみびとか?其の報いを受けろと云うのか?」

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