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須佐妖戦帖 第2章「志能備の須佐」  作者: 蚰蜒(ゲジゲジ)
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其の6 大津の大合戦

四月八日、時は明六つ(午前六時半)。大津の平野である。見事な快晴だ。

信長軍は用意万端。叡山山中から一万五千、琵琶河の向こう岸に船で攻める兵五千、地上に波状攻撃を掛けるべく兵三万。各大名たちの指揮がある。


東方から大八咫烏に股がり、須佐がやって来た。

「須佐は来たか?」信長が丘上の本陣から側近に聞いた。柴田勝家も居る。

「視得ます。彼方から歩いて来ます」

「兵は何れ(どれ)程だ?」

「三人です」

「三人?!」

平野中央辺りで止まった。

「兵は何処だ?」

「見当たりませんな」

「何を考えている?いくさを知らんのか?」


「見当たりませんが、何処かに隠れているのでしょう」



明六つ半になった(午前七時)。

馬で先ず、名乗り上げである。中央にて須佐と信長の大将・柴田勝家達が合う。

「名を聞こう」柴田勝家が云った。

「出雲・須佐一族。頭領・須佐武角たけつの

「若頭・須佐佐助」

須佐舞まい


わしは織田信長筆頭家老、侍大将・柴田勝家でござる」

「同じく織田信長家臣・丹羽長秀」

「同じく織田信長家臣・滝川一益」


「須佐殿ら、我らを愚弄しているのか?三人とは何だ?此の間のくの一殿もお出ましか?」

「我らの兵は始まるまで隠れている。ときを鳴らせば現れる」

「幾人でござる?」

「人数では測れん」

「人数では測れない?」

「我ら一族戦士は百人程だ」

「百人で信長殿に反旗を掲げるか?何故、滅んだ伊賀に加担する?」

武角はニヤッと笑った。

「では、伊座!」

「伊座!」


「三人?女もいるぞ。奴らは何だ?砲も銃も持っていない・・・」

がやがやと回りの兵達が囁いた。

「人数では測れない?奴らの考えが読めぬ・・・」勝家は思った。


合戦の始まりだ。「ぷおおおおおおおーー」鬨と太鼓を鳴らした。

先ず、大砲隊が須佐を狙った。

ドーーーン!ドーーーン!

当たらない。警報のようなものだ。出方を視る。

「銃隊!」

信長が考案した、間髪を入れず列になって繰り返し撃つ銃隊である。

パン!パパン!パン!パパン!

当たらない。

「何故だ?くそ!先鋒を出せ」


「行けぇええええーーーーー!」

正面からは先鋒・明智光秀軍が掛かって行った。先ず先頭千の兵で様子を視る。騎馬と歩兵である。

須佐の三人は身構えている。

「わあああああああーーーー」

明智の軍が迫って来た。

武角が手を地面に置いた。

もこもこもこ。

土の中から大量の矢と手裏剣、槍が出て来た。

武角が腕を回すと一斉に其れ等が放たれた。ザーーーーーー!正面から疾風の如く飛んで行く。

「な、なんと云う距離から!」

ズブッ!ズブッ!明智軍の兵は串刺しだ。「ぎゃああああああーーー!」

更に槍を三人でくうから幾本も出す。次々と放った。槍が正面から、上から雨霰のごとく飛んで来た。

ザーーーーーー!ズブッ!ズブッ!ズブッ!ズブッ!

先鋒を含めて第二大隊の中まで飛んで来た。

「うわあああ、逃げろーーーー!」

明智軍から逃げ出す者が出て来た。

「こらあ!突撃だ!逃走するな!逃げると斬るぞ!」

「なんじゃあーーー?あの化けもんは!わしゃ、聞いとらんわい!」

たちまち、兵力が落ちた。


「安土城を襲った時と同じだ」

「なんと云うざまだ!」本陣から信長がつばを吐いた。

「兵を離せ!火と爆薬を放て!火炎隊を出せ」

「殿、お待ちを。先ず、奴らの仲間を誘い出しましょう」勝家が静止した。

「うむ。一網打尽にするんだったな」


細川藤孝軍と筒井順慶軍が山間から降り、背後に廻った。其の数、二千。

神戸信孝軍は山間から其の侭、千の兵が横から攻めた。

「第二大隊!行け!」光秀が叫んだ。平野では第二軍、二千の兵が間髪を入れず奔り出した。

「わあああああああああーーーー」

三方からの五千の兵に須佐は取り囲まれた。


すると琵琶の水中から須佐の一派、五十人が勢い善く飛び出した。くの一も数名混じっている。直ぐさま武角達を守るべく集まり、刀と槍を構えた。

「行け!」武角が合図した。

須佐たちは回りの兵の中に飛び込んでいった。

彼等は凄まじい早さで兵達を薙ぎ斬った。斬られた兵は跡形も無くなった。


「き、消えた!斬られると無くなるぞ!」

「我らは古代よりのあまの戦士!魂を喰ってやるぞ!我らに斬られると地獄で永劫に苦しむぞ!」と、うそぶいた。

「地獄の使者か?!」戦意喪失である。ひれ伏して許しを乞う者まで居た。

須佐達は一度、武角の処に集まった。


其の時、後と山麓の兵の固まりの中から、鎖帷子の幾匹の犬が飛び出し、弧になって疾風の様に須佐たちに迫った。

「忍犬だ!饗談が来るぞ」


脇に導火線の付いた煙幕弾を抱えている。其の煙幕弾が発射された。

ぷしゅーーーん!ぷしゅーーーん!

「武角殿、前が視得ません」

其の煙幕の中から犬が飛びかかった。

ぐわあああああーーー。

「早い!避けろ!」刀を振るうが、鎖帷子に守られている。


キャリーーン!隙を与えず、牙を向け、次次と襲って来た。


気付くと忍犬と共に饗談の集団が煙幕の中を円になって疾走していた。


鉄製で下に分銅が付いている投網のような武器を持っている。其れを須佐の一派に投げた。早い!

「うう?!」

須佐達が絡まった。絡まって取れない様、分銅が網に挟まるのだ。

更に足に鉄縄をむちの様に投げた。足が絡まり皆、倒れ伏した。首に捲かれて苦しむ者も居た。身動きが取れない。其の隙を狙って騎馬隊が油の沁みたわら玉を、回りに幾つも置いた。


饗談が煙幕の外から銃隊に合図を送った。

「銃隊、撃て!」

土に埋めた藁玉を狙った。バン!バン!バン!バン!グワアアアアアア-----!

豪炎が立ち上り、須佐を巻き込んで囲むように火柱が立ち上った。


「奴らは何も出来ぬのよ。のう、一益」信長がほくそ笑んだ。

「一益、よくぞ気付いた」柴田勝家が云った。

「奴らは絡繰り術を使う時、身体中に力を込めて発散させます。発散させる間を与えねばよい。一瞬ですが其処を突くいたのです。素志て鎖帷子くさりかたびらで捲いてしまえば動けません。力を込めることが出来ない。死んだ饗談が教えてくれたんです」

現人あらひとなんぞと云っても人間だ。傷つけば死ぬ」

「分隊を持たずに戦に望むとは・・・阿呆だ」

「焼き殺してしまえ!」


どーーーーーーん!!

「何の音だ?」

土の中から何やら大きな物が出て来た。百足むかでだ!五十メートルはあろう大百足だ。

「む、むかで?!」

グアオーーーーン!

兵を蹴散らし、喰いちぎった。

「うわあああああ」

「大百足?あんなものも須佐の配下なのか?」

ずしゃーーーーん!更に琵琶河に鯨のような大鯰なまずが数匹表れた。

「な、何だと!」

琵琶の待機中の秀吉水軍は面食らった。

「何じゃ!あれは?!」

あっと云う間に数隻が沈められた。

「砲を撃て!鯰を狙え!」

ずどーーーーん!ずどーーーーん!船が揺れて思うように撃てない。

素志て空に鉄鎧てつよろいを着た八咫烏の集団が飛んで来た。須佐の者が背に乗っている。ぐわあああああああーー。回りの兵を空から威嚇している。鋭い三本の足の鉤爪かぎづめで急降下をしながら兵を切り裂いた。

「ぐわああああああ!」

兵達は無惨にもバラバラである。


数羽の大八咫烏が須佐一派の処に舞い降りて、羽で大きく扇いだ。

ぶああああ。火が消し飛んだ。素志て、背から須佐の者たちが刀を抜いて素早く降り、八咫烏は舞い上がった。


「須佐ーーーー!!」


饗談と斬り合いだ。だが、須佐の早さに付いて行けない。忍犬も襲いかかるが、斬り殺されるだけだ。


「ぐわああああーーーー!」


饗談と忍犬は消滅した。素志て、武角たちに絡まった鎖帷子を解いた。



「奴らが一箇所に固まっている。大砲を撃て!」信長が命じた。

山中と平野の大砲が一斉に撃たれた。

大百足にも向けられた。

どかーーーーん!どかーーーーん!

キイイイイイイ。

大百足は倒れ伏した。


琵琶河では大鯰に向けて軍艦の砲が容赦無く撃たれた。

大鯰は堪らず水中に没した。

「どうじゃ!須佐めが!」


武角が懐を開けると大百足が小さく成って、其処に吸い込まれた。

須佐は全員が刀を抜いた。剣が燃えている。

円を囲み刀を縦にした。

「雷炎!」

すると、全員の剣先から雷と炎が上に集まり、一体になって何十倍にもなり、円を描いて回りに発射された。

「な!なんだ!」

ズバーーーーーン!!ずしゃああああああ。


どんどん広がって行く。逃げ場もない。炎と雷波が360度、数10メートルの壁になって襲って来る。


「うわああああああああ!」

其の炎と雷は琵琶の水面から軍艦をも襲った。

ぐわああああああああーーーーー。

「逃げろ!逃げろーーーー!」


どどどどどおおーーーーー!!


辺りは一瞬にして何もかも黒焦げの灰になった。燃えかすしか残っていない。

山の木々も残っていない。山に居た兵達も灰になった。

琵琶の軍艦も灰と化し、波間に漂っていた。只、全軍を叩き潰す程の距離には達しなかった。

其れでも十分過ぎる恐怖を与えた。数万の兵が一瞬で灰になった。生き残った兵達は敵前逃亡である。

「あんな化物と闘えるか!奴らは何者だ?南蛮渡来の新式武器だと?ありゃ、人間技じゃねえぞ!逃げろ!全員殺されるぞ!」

佐助は容赦が無い。空から大きな燃える手裏剣を数本出し、飛ばした。

「残りの兵をやれ!」

其の手裏剣が琵琶の残りの船団と向こう岸の兵隊を容赦無く叩き壊し、山中を逃げ惑う兵達を襲った。悲鳴が轟渡り、やがて・・・静まった。

手裏剣は佐助の処に戻り、消えた。


信長や家臣たちは岩陰に隠れて助かった。

「う、うう・・・う」信長は放心状態だった。

「殿、身は大丈夫で御座りますか?」

「負け戦か?此の信長が・・・」

「須佐の奴らは何処に行った?姿が視得んぞ」

「此処よ」

いつの間にか信長の前に武角と佐助が居た。

「あ!」

柴田勝家が咄嗟とっさに刀を抜いた。

其れよりも早く、武角が刀を振り下ろして斬った。

「うが!」

柴田勝家は身体を縦半分づつにされて絶命し、屍体が消えた。

「勝家!勝家ーーー!」「勝家殿ぉーーー!」


武角が剣先を信長の顔面に突きつけた。

わしの首が欲しいか?殺すなら殺せ!」

「須佐は戦国武将では無い。首など要らぬ」

「伊賀の復讐で此処までするか?」

「伊賀の復讐?」

「何故?儂等に立ち向かった?」

「お前は時代を変えた。だが、天魔だとほざいて残虐な仕打ちもした。其れは魔だ。我我は現世の人間まで巻き込んだ魔と闘ったのだ」


「な、何をほざく!」


「伊賀の里にあの時、我らの仲間が数人居たのだ」


「何だと?」


「彼らは伊賀人を守るため、戦わず、童子たちを逃がした・・・須佐部落に逃がそうとしたのだ。が、其処を捕まった。童子たちを逃がすため、彼らは身代わりになったのだ」


「・・・・・・・・・」


「信長、貴様、見せしめに死体や首を晒しものにしたな、あの中に儂らの仲間の屍があった」


「其れが理由か?!」


「しかし、お前を抹殺することは我我の役目では無いようだ」


「何だと?」

そう云うと須佐たちは消えた。八咫烏も気付いたら消えていた。

合戦は終わった。信長は大きな痛手をおった。

「なんと云う恥だ。儂を生かしおった。こ、こんな戦さの記録は後世に一切残すな。喋る者が居たら殺せ」

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