case1:中村女史は見た
とある田舎、とある年、とある高校の文芸部。
その部室が舞台となり、装置となりでのちょっとした小話でございます。
どちらが正義で悪か、優で劣かなどとんと興味がなく、自らの好む道を邁進する二人の学徒がいらっしゃったとのこと。
一人は齢は16、第一学年B組所属、背丈は165cmほどで中肉中背、極度のド近眼な目付きの悪いメガネの男子。
性格も容姿も十人並みであり、秀でた特技も見当たらない、どこにでもいるような一見気難しくも話してみればそこそこ変わり者な彼。
そんな彼の通り名は周囲の親しい人間曰く、「百合豚後輩」。
もう一人は齢は17、第二学年A組所属、背丈は154cmと小柄で愛らしく、文芸部には似合わず運動神経抜群の彼女。
性格は男勝りで竹を割ったように快活なあり様で、ショートやボブの短めの髪型が多く紅顔の美少年にも映るその眉目秀麗な容姿には女性のファンも多いほどな彼女。
上に同じに曰く、「腐女子先輩」。
これは「百合豚後輩」と「腐女子先輩」、それを取り巻く愉快な仲間たちが紡ぐ、落ち無し山無し、意味は我らの中に残る充足感という、なんとも締りの付かない青春群像劇でございます。
皆々様におかれましても、決して気を引き締めて見るような高尚なものではございませぬ故、スナックを片手に寝っ転がってでもご覧いただければ、これ幸いに御座います。
さて、名乗り遅れました。
此度の語り手を務めさせていただく私目は、彼らと同じ文芸部所属の第二学年在籍でございます、「中村」と申します。
ああ、いえ、結構、私を覚えて帰っていただく必要はございません。
何分、この語りも私共の見聞きした内容を折り重ねて幾らかの“補足”を添えまして、ようやく語りとさせていただける内容でございまして、私共は単なる傍観者でしかございませぬ。
しかし、折角覚えて帰っていただけるというのでしたら、彼ら二人の主義主張を頭の片隅にでも置いていただけますと、面白くなるかとは存じ上げます。
さて、長々と仰々しい向上で今か今かと皆様の期待を煽るのもこの程度にいたしまして、本題へと移りましょう。
事の起こりは、ある夏の日の出来事でございました。