#7: 誕生日と盗賊
あれから更に3年が経過し、5歳になった。
この世界では、どうやら5歳おきに誕生日を祝うらしい。今日は僕の5歳の誕生日なのだ。
「リアン、誕生日おめでとう。これは私からのプレゼントよ、気に入ってくれると良いけど…」
セレナから大きめの箱を受け取る。その箱を開けてみると、中には魔法杖が入っていた。魔石の大きさはかなりでかい。この世界では魔石が大きい程、杖の値段が上がる。この大きさだとどのくらいだろうか?
「これは私と父さんが初めて行った迷宮の迷宮水晶で作った杖よ。1年前位に注文しておいてようやく出来たのよ。」
「ありがとうございます!お母様、大事に使いますね!」
取り敢えず抱きついておく。因みに抱きつくなんてこれが初めてで、セレナは感動の涙を流していた。
「リアン、俺からはこれだ。」
アルスから小さめの箱を受け取る。中には赤縁の眼鏡が入っていた。確かに最近目が悪くなってきた。
「最近、お前目が悪くなってきているだろ?ウォーターボールの命中精度が下がって来てるんだよ。だから、王都で買ってきた。」
「ありがとうございます!しかし、硝子という高価な物を私に上げても良かったのでしょうか?お母様に何かプレゼントしたりすれば良かったのでは?」
「子供が値段を気にするのは無枠だ。それに、母さんには今度プレゼントを…っておい、何言わせてんだよリアン。折角秘密にしておこうと…」
「まぁ、貴方ったらサプライズプレゼント何て計画していたのね。ありがとう。今度を楽しみにしておくわね。」
「まぁ…リアン、折角だし付けてみてくれないか?」
「わかりました。」
と、俺は眼鏡を付ける。視力がかなり良くなったが、やはり日本製の眼鏡には劣るだろう。だが、とても見やすくなった。
「…セレナ…」
「ええ…」
「?何でしょうか?」
首を思わず傾げる。何だろうか…?そんなに似合わなかっただろうか?
「我が子は女の子だったか?」
「いいえ、男の子よ。」
…あっ、そういう事か。今、髪の毛は切ってないのでそれなりに長くなっている。それに、母さん似で顔立ちは中性的だ。それに加えて眼鏡。可愛い眼鏡っ娘の完成だ。
「可愛いなお前はまったくぅ!」
アルスにわしゃわしゃされている。何か気持ちが複雑なのだが…今日は良しとしよう。
「あ、そうだ。貴方、今日からリアンを外出okにしましょうよ。ずっと家に居るか庭にいるかだったから退屈でしょう?」
「!ほんとですか!?」
「ああ、だが時間は守るんだぞ。今日は夕食の準備が終わる前に帰って来い。」
「ありがとうございます!」
初めての外だ。景色を何度か眺めた事があるが、そんなに良く見れていない。だからとても楽しみである。
「気をつけるんだぞー!」
「…元気な子に育ってくれて嬉しいわね。」
「ああ、最初はどうなるかと思った。」
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今日貰った杖を持って、眼鏡をつけて行く事にした。外へ出て見ると、田舎でとてものんびりとした所だ。人工物があまり無く、畑などがちょくちょくあるだけだ。畑仕事をしている人も居る。その人に挨拶しに行こう。
「こんにちわ。」
「はい、こんにちわ。見ない顔だが、どこの娘だい?」
「僕はリアン・ベルクレーテで、父のアルス・ベルクレーテの息子です。」
「あー!アルスとセレナの所の息子か!居るとは聞いたが見るのは初めてだ。随分と可愛らしい息子だなぁ…お、そうだ。これ持ってきな。」
と、一見ミカンの様な果物を渡された。
「今日収穫した『オレン』だ。皮剥いてから食うんだぞ。」
「ありがとうございます!後ほど頂きますね。」
この世界では『オレンジ』じゃなくて『オレン』なのか…HPが30回復しそうだな。木陰に行くと座り込んでオレンを食べる事にした。
!!美味しいな。ミカンより甘みがあって、柑橘系らしくすっきりとしている。この調子だとレモンとかもありそうだな。と、食べていると近くで騒ぎがある。どうしたのだろうか?
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「盗賊だ!盗賊が出たぞ!!!」
「あの子ってシエルちゃんじゃない!?」
「くっ、セレナさんとアルスさんはどうした!?」
「息子が誕生日で忙しいんだ!」
「くっそ、こんな時にぃ!」
見に行くと酷い有様だった。村人は負傷者が何人か居て、俺くらいの小さい子が人質に取られている。盗賊のお頭っぽいのが人質を取っている。厳つい顔つきで髭を生やした盗賊だ。
「この子を助けたければ金貨を持って来い!さも無くばこの子の首は飛ぶぞ!!」
「ふぇぇんっ!!パパぁぁあ!ひっぐっ…」
小さい女の子が人質に取られている…見過ごす事は出来ない…しかし下手に抵抗したらあの子が犠牲になるな…確か闇属性魔法に催眠術があったよな…
「スリープバインド」
相手を眠らせて動けなくする魔法だ、他に沢山盗賊が居るし全員に掛けるのは難しい。だが、お頭だけでも眠らせれば大丈夫だ。
「ふが…っ……」
お頭がばたりと倒れた。
「お頭ぁ!てめぇら!何しやがった!!」
…逆上して殺されるとまずい…無属性魔法を使うのが一番か。
「サイコキネシス」
女の子を持ち上げて、静かに置いておく。極度の緊張で気絶している。
「お前か!!このクソガキがぁぁ!!!」
一人が俺の存在に気づいた。殺さない程度にやっちまうか。
「おい!やっちまえええ!!」
「うおおおお!!!!」
うわうわ、こっち来たよ。ここは安全第一に土魔法でも使うかな。
「アースウォール」
盗賊の周りに四つの土壁を作り出す。そのままサイコキネシスを使って盗賊を閉じ込める。
しかし、盗賊の中に戦闘斧持ちが居たらしく、簡単に壊された。
ッ…どうするか…?風魔法で相手を吹き飛ばして動けなくするか…?
「ウィンドスパイラル!」
「うおおお!?くっそ!どうなってやがる!」
そして、最近完成したこの魔法で…喰らえ!
風魔法と水魔法の合体魔法…
「サンダーボルト!!!」
重たい音を轟かせ、盗賊達に直撃させる。すると、盗賊達は一瞬で気絶する。そして、傷を負っている村人をヒールで回復する。
そして、村人から歓声が上がる。そして直ぐに俺の周りに集まって来ている。何か『可愛い女の子』とか言われてるのは気のせいだと信じたい。
すると、後から老人が走ってきた…元気な爺さんだな。
「おおお!!君は何て名前だい?私の娘をお救い下さってありがとうございます!私はこのトルバス村の村長のヴァルケン。」
「僕は父であるアルス・ベルクレーテの息子、リアン・ベルクレーテです。」
「おお!アルスとセレナの息子だったか!道理で強いわけじゃ!二人は自宅に居るかな?」
「あ、はい。お父様とお母様は今誕生日会の準備をしていますが…」
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「この度は娘をお救い下さり、ありがとうございます!」
アルスとセレナはぽかんとしている。そして俺に視線を向けてくる。こっち見んな。
「まさかとは思いますが…息子が?」
「はい、盗賊達を魔法で圧倒しておりました。」
「…そうですか…リアン、良くやったな。」
「はい、ありがとうございます。」
「それでですが…息子さんを総合戦闘学校に行かせるつもりはありますかな?」
「…今の所は特に無いですが…」
「それでは、私の方から入学金等を寄付させて下さい!いや、本人に聞いてみますか…リアン君、君は戦闘学校に行くつもりはあるかね?」
いきなり話を振ってきた。少し戸惑ったが、返事は決まっている。
「…行きます。」
「おお!では1年後、馬車を手配しますので私の家に来てくれるかい?」
「はい、わかりました。」
「…リアン、盗賊達は怖くなかったの?」
「いえ、あまり…僕と同じ位の子供を見過ごす訳にはいきませんから。」
「リアン君、君は本当に強い子だ。流石2人の息子と言ったところだな。」
世界神様はこのイベントで戦闘学校での入学の事を言ってたんだな。納得いった。