#6: 再会と伝言
あれから二年が経過した。
しっかりと歩けるようになっているし、ある程度は喋れている。もっとも、難しい単語はあまり使わないでいるが。
「リアン〜、こっちおいで!今お洋服が完成したから試しに着てみて!」
「はーい。」
このように、母セレナの着せ替え人形になっている事もあるが、基本的には家の手伝い、魔法の勉強、算術や社会の勉強をメイドさんから教わり、父から剣術を教わり、筋力トレーニングをある程度する。とても2歳児とは思えない運動である。
ここの世界では、どうやら成人するのは15歳らしく、飲酒も喫煙も15歳から大丈夫なようだ。最近は土魔法でフィギュアを作る事が出来る様になった。精密作業が出来る様に変化したのは大きな進歩だろう。
「お坊ちゃま、算術のお勉強の時刻でございます。準備をしてください。」
「はい。」
メイドのエヴァンさんだ。白銀色の髪の毛がとても似合っている。この人は商人の娘だったのだが、父と母に命を助けてもらい、恩返しに働いている。当然給料も出している。
「では、12+34+44=何でしょう?」
「90です。」
「はい、正解です。では次は…」
こんな感じで即答している。高校生舐めんな。この国では貨幣通貨は金貨や銀貨らしく、金貨は日本円にして約100万程度の価値という。銀貨は10万、大銅貨は1万、銅貨は1000、鉄貨は100、石貨は10という。金のさらに上は白金貨で1000万の価値らしい。算術はお釣りをちょろまかされないように必要らしいので必死に覚えろと父に念入りに言われた。多分冒険者時代に苦労したんだろう…
「はい、今日はここまでです。お坊ちゃま、お疲れ様でした。」
「ありがとうございました。エヴァンさん。またよろしくおねがいしますね。」
丁寧に挨拶をし、俺は自室に戻る。魔術を自主勉強する事にした。テーマは合体魔法だ。無詠唱魔法を右手と左手で組み合わせれば出来ると践んでいる。しかし、そんな技術はこの世界で試された事がなく、タダでさえ無詠唱魔法が使える人間が少ない。
「えーっと…土魔法と火魔法で岩石魔法ができて…土魔法と水魔法で泥水魔法ができて…土魔法と風魔法で砂塵魔法ができるはずだから…土魔法の威力を少し調整して、火魔法を合わせる…」
掌に石で出来たコップのような物が出来た。成功だ。かなり硬いようで、水を入れても溶け出さない。完成した物をセレナ母さんに見せに行くと驚かれた。
「あらあら…リアン凄いわね〜。あ、じゃあ花瓶作ってくれるかしら?香月華を飾りたいのよ。」
「わかりました。やってみますね。」
魔力を込めて生成する。形を微調整し、花瓶の形を作り出す。ここはお洒落に模様もつける。これで完成だ。灰色で不格好なのが心許ない。
「これでよろしいですか?」
「まぁ!綺麗に出来たわね〜。ありがとう。いつ見てもリアンの無詠唱魔法は凄いわねぇ〜。」
セレナは頭を撫でてきた。とても心地よく、落ち着く。眠くなってきた俺は自室に戻り、寝る事にした。
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またもや見慣れない雲の上に俺は居た。まさかここは天界かな…?
「久し振りじゃのう、桐矢よ。ワシじゃ、世界神じゃよ。」
「あ、世界神様、2年振りですね。お元気そうで何よりです。」
「今お主の夢の中にリンクしているんじゃが、そっちの世界での
生活はどうじゃ?それと与えた力の使い心地はどうじゃろうか?」
「はい、とても快適な生活を送っていますよ。それと、魔法を使うのも楽しいですしね。元の世界じゃ味わえない事だらけです。」
「そうかそうか、それは何よりじゃ。それと桐矢よ、お主は4年後、アレシア王国の総合戦闘学校なるものに行くことになるらしいぞ。そこで色々な経験を積めるじゃろう。」
総合戦闘学校?魔道士とか戦士とかの鍛錬をする学校の事か。たしかセレナ母さんもアルス父さんもそこの卒業生だっけな。
「そこでじゃが…その学校の校長とワシは知り合いなのじゃが、最近どうも地上に降りる事が出来なくてのう?伝言を頼んでおきたいのじゃ。」
「ええ、わかりました。」
「――――じゃ。決して忘れんようにな。」
ええ!?それかなり重大事項じゃねぇか!?かなりプレッシャー…というかそんな事俺に伝えて大丈夫なのかな…?
「必ず伝えておきますね。」
「うむ、頼んだぞ。」
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…戻ってきた。夢から。
4年後…という事は6歳か。その頃までには上級魔法でも使える様にしておかなきゃな。
最近、無属性魔法が沢山使えるようになってきたし、そこらの冒険者とかには負けないであろう…多分。
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「ブースト」
力や瞬発力、飛躍力等を大きく上昇させる無属性魔法だ。これを使わなければ2歳で剣術のトレーニングは出来ない。負担が大き過ぎるし、体格がどうも…やはり成長するまで我慢しろという事だろうか?
「よーし、リアン。今日は俺に一回でも剣を当てられたら終わりだ。」
「はい。」
ブーストの飛躍力と瞬発力を活かして一気に間合いを詰める。そのまま横に木剣を振るう。しかし、簡単にアルスに避けられる。そのまま中段、上段と連続で振るうが、一切として当たらない。
「…ウォーターボール」
水球で牽制し、そのまま足下に転がり込み、背後に回る。そして地属性初級魔法の『アースバインド』を使い、動きを止める。そして腹部辺りに全力で振るう…だがアルスは身体の柔軟性だけで躱し、俺の首元に一撃入れる。勝負ありだ。
「ふぅ…結構危なかったが…俺の勝ちだな。」
「やはりお父様には叶いません。」
「だがお前の判断、あそこでアースバインドを撃ったのは正解だ。並大抵の奴ならば死んでいたな。」
「本当はフレイムを撃とうかと迷いましたがお父様に簡単に躱されるだろうと判断したのでアースバインドに変更しました。」
「まぁ…フレイムを撃つ場面じゃ無いな。休憩したらもう一回だ。」
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「お疲れ様でした。」
「おう、お疲れ。動きが良くなって来てるぞ。」
「ありがとうございます。」
今日もアルスに剣を当てられなかった。やはり剣術はダメか…元居た世界では、射撃部に入っていた為、射撃は得意なのだが、この世界に銃という概念は存在しない。自分で作らなければ使えないだろう。ある程度の構造は分かるが、加工するにはまだまだ実力等も足りない。やはり成長をしなければならないだろう。
俺は風呂に入り、そのままベッドに突っ伏して、寝てしまった。