#15: お泊まりと先生
アルスが竜車に乗って『アレシア王国』へと向かって行った…皆涙ぐんでいた…無理も無いだろう。竜種討伐隊の近衛部隊だから最も危険な役割だ。というか一番驚いたのは村長が滅竜騎士だという事だ。アルス達を見送った後、シエルと共に家へ行く。一度荷物を置いたら遊んでも良いそうだ。
〜ベルクレーテ邸〜
「リアン、シエルちゃんを部屋に案内して来て。シエルちゃんの部屋はエルザの隣だからね。」
「はい、わかりましたお母様。」
「あの…お世話になります。」
シエルは礼儀正しくお辞儀をした。セレナはニコりと笑い、自室に戻って行った。
「さて、シエルちゃん。それじゃあ案内するから着いてきてね。」
「うん!」
俺とシエルは二階へ上がっていき、一番奥にある部屋へと案内した。中の間取りは他と変わらないが、対談用の机と椅子がある。恐らく客室なのだろうか?
「わぁ…!凄い!」
シエルは感嘆の声を上げている。それもまぁ確かにこの村の建物とここの家は完全に違うからな。そんな新鮮な雰囲気に慣れていないようでガチガチとしている。
「シエルちゃん、あまり緊張しなくても…ここはお父様達が帰ってくるまで君の部屋だからね。」
「う、うん…だけどあまり実感が沸かないからさ…どうも緊張しちゃって…」
「ふふ、シエルちゃんって可愛いね。」
俺はシエルを褒める。そうするとシエルの頬は紅く染まっていく…あれ、もしかして男耐性無い感じかな?
「かっ、かわ、可愛いって…//」
顔を真っ赤にして俯いている。ダメだ、この子純粋すぎる…
「そ、それじゃあ何して遊ぼうか?」
「じゃあ…魔法を教えて!」
「うん?魔法を…?良いけど…あまり面白くないと思うよ?」
「ううん、私魔法があまり得意じゃなくて…だから克服してお父さんに見せるの!」
おおう…何て健気な子…よっし、お兄さん張り切っちゃうぞー!
「うん、わかった。それじゃあ少し待ってね?今から魔道書持ってくるから…」
リアンは一度退席し、自分の部屋にある『初級魔道書』を取りに行った。
ーーーー
ーーー
ーー
ー
…どこいったんだ魔道書よ…
「あっれれぇ?魔道書ここに置いておいた筈なんだけどなぁ…?」
魔道書が中々見つからないので、俺が直接教える事にしよう。手ぶらで客室の方へ戻って行く。
「シエルちゃん…魔道書無かったよ…って…リリアさん?」
「あ、リアン君。ちょっとシエルちゃんとお話をね?」
何の話をしていたのかは気になるのだが、まぁ良い。取り敢えず魔道書が無くなってた事を報告した。
「リアン君。いや、リアン様?あの魔道書なら私が本棚に入れておきましたけど余計でしたか?」
「なんだ、リリアさんの仕業か。それじゃあ持って来てくれます?」
「はい、承知いたしました。」
リリアはそそくさと出ていく。何か意図があるのだろうか?心做しかシエルの顔が紅い気がする。気のせいかな。
「持って参りました。ではごゆるりとどうぞ。」
リリアさんは扉を閉めて退出して行った。何故かニヤニヤと笑っていた。ちょっと不気味。
「それじゃあ、魔法の勉強を始めようか。シエルちゃんの先天属性は何?」
「えっと…風属性です。後天属性は光です。」
風属性か…攻撃用に『ウィンドカッター』?それとも『ウィンドスパイラル』?うーん?まずは才能を見るために『プチウィンド』をやらしてみるか。
「それじゃあ『プチウィンド』を試しにやってみて。詠唱はわかる?」
「は、はい…えっと…爽やかなるそよ風よ吹き抜けよ!『プチウィンド』!」
シエルの掌から風が出てくる。その威力はプチウィンドにしては中々強い…だが、一撃だけで結構な魔力の消費のようだ。息を切らしている…
「シエルちゃん、魔法の才能はあるよ。けどね、魔力総量が少ないよ。でも魔法を撃ち続けたら魔力総量が上がったから撃ち続けるべきだよ。そうしないと中級魔法を使った途端気絶するからね。」
「は、はい!」
「それじゃあ次、風魔法の中でも一番魔力の消費が少ない魔法。『ヒーリングブリーズ』をやってみようか。」
ヒーリングブリーズとは光属性以外での回復手段で、少しずつ継続的に回復できる言うなれば『自動回復』と同じだ。しかし実在する『自動回復』とは効能がかなり違う為、痛み止めのような役割しかない。
「よっと…っ痛い…」
左手の親指に針を刺して血を垂らす。
「じゃ、やってみて。」
「はい!微かなる治癒の風よ吹き抜け!『ヒーリングブリーズ』!」
シエルの掌から暖かい風が吹き抜けて、俺の親指の血を止めた。
「うん、効果もまずまず。流石は光と風だね。」
「ふぅ…ふぁ…結構疲れちゃうね…」
「うーん、あっ、確か魔力を回復して魔力総量を一時的に上昇させる魔法が確かあったっけ…えーっと…『マナグロース』」
マナグロースを発動すると、とてつもなくお腹が減り、何か食べなければ持続が出来ずに消えてしまう。だが、何か食べればその効果はしばらく続く良い魔法だ。近くにある林檎のような果物…えっと、『アピル』だっけ?を食べる。うん、シャキシャキとした食感と甘い味わいがマッチしている。だが日本の林檎と比べると酸味が少し強い。
「わぁ…疲れが一気に取れた…!それにリアン君何で詠唱無しで魔法が使えるの!?」
「うーん、無詠唱 の技術だねぇ……おいしい。」
シャクリ とまた一口アピルを齧る。
「それ教えてくれないかな?」
「んー、簡単じゃないけど大丈夫?」
「うん!頑張るよ!」
「じゃあ始めようか。」
「先生、よろしくお願いします!」
今日からシエルの魔法の先生になった。きっと良い生徒に育ってくれるだろ