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TSSS ~多重存在~ 6章

久々の投稿。

「北見だ。入るぞ」


扉を開け、姿を見せたのは担任の教師。珍しく私服姿だ。


「急に呼び出してすまなかったな」


全くそんなことを思っていなさそうな様子でそう言うと、先生は勉強机から椅子を引き出して座った。



・・・しまった。それがあったか。



後悔したもののもう遅い。結局俺一人立っている状態だが、まあ目線の高さが同じなのも気恥ずかしいし、これでよかったのかもしれない。


「今日君たちを集めたのは、これからの生活に向けて効率よく情報共有をするためだ」


情報共有か・・・まあ必要なことだし、いい機会だ。いろいろと聞いてみるのも悪くないな。




------




とりあえず今週の予定と全員の緊急連絡先を交換し、そして4人で流行りのトークアプリ、LIENのグループを作ったところで「そういえば」と先生がお茶菓子を取り出した。



どうせならということで天城(黒髪)がお茶を入れて、4人で食卓に着いて落ち着くことにする。



隣に天城(黒髪)、はす向かいに天城(銀髪)が座る形で腰を落ち着けたところで、俺は「そういえば」と口を開いた。


「どうした?」


「いや、前々から疑問に思ってたことなんですけど、先生は俺が二人を見分けられるって、話をする前から分かってたんですか? どうもそんな口ぶりに思えたんですけど」


「あー・・・それか」


先生は口元に手を当てると、少し迷うような表情を見せた。



「そうだな。正直に言えば分かっていた。100%ではなかったが、9割がたそうだろうと当てはつけていた」


そして観念したようにそう白状する。


「でもなぜその当てを付けられたかはまだ話せないんだ。多分・・・そうだな、長くても半年。それだけ経てば話せるようになる。それまでは、悪いがそのことは追及しないでくれ」



「は、半年・・・?」


「もちろんもっと早くなるかもしれない。遅くても半年だ。時が来たら・・・私から話すよ」



天城達2人をちらりと見る。2人とも俺と同じく疑問符を浮かべていた。


「まあ、いいですよ。大したことでもないですしね」


言うものの、そんなことはないだろう。大したことじゃなければ隠す意味もない。



けれど珍しく殊勝な態度の先生を見たら、それ以上追及する気にはならなかった。



------



少々重くなった空気を立て直しながらちょくちょく情報を交換しつつ雑談し、日も暮れてくる時間になったので今日のところはお開きになった。


ドアをいくつも潜り抜けてようやく外に出る。なるほどこれだけ入り組んでいれば、人が迷い込みようもないだろう。


同じ理由から部屋には換気のためのファン以外窓一つついていなかった為、外が暗くなっていることに気が付いておらず、軽く驚く。


「わ・・・いつの間にかこんなに暗くなってたんだね」


ここで二人は入れ替わり、俺は天城(黒髪)と一緒に帰宅することになった。



(まだ教えられない、かあ・・・)


んーっと伸びをしている天城を流し見つつ、内心でつぶやく。


まあ、多分あの先生のことだ。何かわけがあるのだろう。


先生の言う「時」とやらをじっくり待つことにして、俺は考えるのをやめた。




天城との帰路。いつも通り川沿いの一本道で、自由奔放な天城に合わせつつ歩く。


その最中、隣に並んだ天城が口を開いた。


「あ、そういえばさ、玲次。さっき写真の話してたよね」


「ん?」


それは、さっき先生と話したことだ---



---ああ、そうだな。確かめたことこそないが、可能性がある以上写真や録音機などの記憶媒体は残せな

い。仕方のないことだ---



---と、まあそんな訳だ。


「先生も頭いいよねー。事の初め、先生に『家にある画像とか音声の記録を全部持ってこい』って言われた時はびっくりしたよ」


「そうか。考えてみればそれより前に撮った写真もあるわけだもんな」


「そうだねー・・・。まあ、今は全部あの部屋に置いてあるんだけどね」


そういった天城は、どこか寂しそうな顔をしていた。



------



「おはよ、玲次?」


次の朝。相変わらず朝から元気な天城だ。


これも昨日聞いたことだが、記憶をなくした人に関する記憶を、どういう理屈か天城自身も失ってしまうらしい。


なぜそういう大事なことを早く言わないのかね。あの教師。


でもそれは考えてみれば、記憶を失ったとき、その痕跡が何も残らない・・・ということではないのか。


記憶は人間の本質を司るものだ。すべての人間は経験の学習結果の記憶によってその在り方を定めていく。


それが知らないうちに消えているかもしれない。そう考えるとゾッとする。


「玲次?どしたの?」


なんでもない。そう言って俺は無理矢理に思考を断ち切った。


何か大事なものを見落としている気がしたものの、このときの俺には見当もつかないのだった。


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