TSSS ~多重存在~ 5章
一旦物語が落ち着いて、ようやく書きたいことが書ける展開になりました。
ここまでは序章のようなもので・・・。展開にご期待ください。
そういえば・・・。
考えていてふと引っかかるところがあった。
どうやって先生は、俺が二人を見分けられることを知ったのか。もしくは何から推測したのか。
そもそも俺がこうやって見分けられること自体、偶然なのか。それとも、何か所以があっての事なのか。
「うっ・・・」
考えていると唐突に頭痛に襲われる。そういえばこの頭痛も、最近よく起こっている気がする。
どうも最近、引っ掛かることが多い。そしてとくに、大事なことを忘れてしまっているようなこの虚無感。
あいつと会っていると、、それが一段と激しいんだ。
頭痛が激しくなってきたので思考を中断し、ベッドに横になる。
何かを思い出さなければいけない気がする。俺にとって、大切な何かを。
------
「おっはよ~玲次!どうしたの顔に元気がないぞ? 」
「ああ・・・おはよう。いや、なんかよく眠れなくてな」
「えー大丈夫? あーまあ、玲次は頭いいし大丈夫かー。授業中寝ても」
そんなことはないが。
「そういえばお前もAクラスってことは勉強できるんだろ?確か入試成績順だったよな」
「あー・・・あれねー・・・。あれはその・・・私だけど私じゃないっていうか・・・」
その一言で察した。
「つまりあれか。その・・・もう一人のほうが頭がいいと」
「うん、そうだねー。しかも全教科完膚なきまでに負けてるねー」
こいつの小学校時代のイメージが初めて正しかったらしい。
どうにもバカっぽいのにようやく合点がいった。
「バカっぽいって・・・ひどいなー。これでも中学校では・・・平均ぐらいだったし」
「まあ、Aに来れる実力ではないわな」
うちの学校はそういうとこ割とさばさばしていて、好成績の生徒の方がどこか扱いがいい感じはする。
例えばどっかのクラスが保護者会に向けて椅子並べをする、みたいなときにAはやったためしがない。
・・・と、先輩が言ってた。G組の先輩が愚痴ってた。
まあ、成績がいいから全員が優等生と言う訳では決してないが。
そういえば今更だけど、月曜の朝。通学路だ。
「今日の一限なんだっけ?」
「知らん。自分で調べろ」
「わー冷たい。・・・あー、数学かー。めんどくさいなー」
それはそうとこういう冷たい対応は、割とわざとやっているフシがあった。
あまり俺から親しくして、バランスが取れなくなるのが怖いのだ。
何のバランスかって、二人の「天城」の間でのバランス。
多分どちらかと親しくなりすぎることは、俺の「義務」に反するはず。
それでもう一人に寂しい思いをさせるわけにはいかないからだ。
だから間違っても俺はこいつに恋愛感情なんて抱いてはいけない・・・
「あー!玲次見てあれ!川の向こう岸に・・・なんだろ?ヤギ?牛?」
・・・のだが、こんなキラキラした少女の隣に毎日いてそれは無理な話。
もともと女性にあまり免疫もない。こう見えて(どうみえて?)彼女なんざいたこともない。
「多分ヤギだろ。よくあそこに放し飼いされてるよな。時間たつと回収されてるんだろうけど」
なるべくそっけなく答えながらも、心臓の鼓動は速まる一方だった。
「へー・・・玲次物知りだねー」
そう言いながら下から顔を覗き込んでくる天城。
その目を見れなくて、思わず鼻を触るふりをして顔を隠しながら目を逸らす。
・・・いかん。マジどうかしてる俺。つかどうにかしろ俺。気を抜いたら堕ちそうだ。
------
「おはよう。玲次」
「ああ、おはよう・・・」
火曜日の朝。通学路で天城と会う。制服の上に分厚いコートを着た(もはや背負ったに近いが)天城は、耳の下まで襟のもこもこに覆われて暖かそうだ。
今週は月、火で変わるんだな。そこにどういう規則性があるのか。
「規則性はない。ただお互いが行きたい日を調整してきているだけ」
淡々と答える天城。
・・・というか、早く呼び方を上手いこと分けないと。かなり困るぞこれ。
「呼び方・・・考えたことはなかった。確かに、周りが不信感を覚えない程度に呼び分けるのは難しいかもしれない」
相変わらず心の声のダダ漏れ率が高いが、気にせず会話を続ける。本人に相談できるいい機会だ。
「どうしようなぁ・・・あま「き」とあま「ぎ」とか・・・いや紛らわしすぎるか」
「もしくは二人でいるときだけ呼び分けてくれても構わない。あともう一つ、言っておきたいことがある」
「なんだ?」
「私は自分がもともと「天城奏美」だったとは思っていない。だから私の中で名前はまだない。あなたがつけてくれて構わない」
・・・え?いまなんて?
「あなたが付けてくれて構わない」
繰り返す天城。いやいやいやいや!
「名付けるってそれはお前それは・・・いや・・・ねえ・・・」
「・・・嫌なら構わない」
「あ、待ってちがくて!そうじゃなくてさ・・・なんて言うか、俺にそんな権利はないっつーか・・・」
普段無表情なこの天城が普通に悲しそうな顔をしたので慌てて訂正する。
「そんなに重く考えなくていい。あだ名をつけてくれればいいということ」
「そうは言うけどな・・・。まあわかった。考えとくよ」
「よろしくお願いする。玲次」
よろしくお願いされてしまった。名付けって・・・マジかよおい。
------
その朝から太陽が120度ほど回転したころ。
天城(銀髪)を隣に連れて俺はある場所へ向かっていた。
それはこの前天城から聞いた、「研究室的な場所」である。
相変わらず無口でおとなしめ・・・しかもかなりの無表情。心情が読めない天城(銀髪)だが、放課後、いざ帰ろうかという時になって「天城さんに会いに行く。これは先生の指示」と言うので、しかたなくここまで来た。
北見先生もまた何を考えてんだか・・・。落ち着く暇もねえよ。
「そこの角を右」
「右な、了解・・・え?右?」
思わず聞き返す。
何故かって、2人に右手に現れた道はいかにも怪しい、ヤクザのアジトでもあるんじゃないかというような小道だったからだ。
「右。大丈夫、危険はない」
そんな俺の心情を察してか、天城(銀髪)は相変わらず静かな声で俺を道に入るよう促す。
仕方なく道に入ると、彼女は何やら怪しげな建物の鉄製の扉を指さした。
「あ、あれか・・・?」
こくり。頷くと、手慣れた仕草で扉の前に転がったドラム缶やら鉄パイプの間をすり抜けると扉を開ける。
俺は唾を飲み込んで覚悟を決めると、建物に入った。
建物の内装は簡素で冷たいコンクリート壁。その壁に扉がいくつかついている。
「こっち」
天城はついてくるようにと俺に合図を送り、カギに手をかざしてロックを解除すると扉を開ける。
その先にあったのは…また扉。
それを3回ほど繰り返した頃。ようやく目的地に着いたらしく、カギを解除してドアノブに手を掛けた後、くるんと振り向いた。
「一応先生の指示だから、確認する。まだ玲次が私たち二人を同時に見て影響がないかはわからない。それでもこの部屋に入る覚悟はある?」
わざわざここまで連れてきておいて何を言うんだ。そう思ったが、よく考えてみればあの教師のことだ。
より確実に俺をここへ入らせ、また万一の時の責任も逃れられる最も有効な方法という訳だ。
「覚悟なんてとっくにできてるよ。早く入れてくれ。寒いんだから」
「…了解した」
心なしか、無表情の中で天城が少し微笑んだような気がした。
扉をくぐると、そこには------黒髪をベッドの上に垂らしてどこか緊張した面持ちの天城が佇んでいた。
「うっ・・・」
途端に、軽い頭痛に襲われる。
「っ、玲次っ?」
「れ、玲次っ!大丈夫!?」
少女二人が声を上げて、俺を支えるように左右に添い立つ。
「だ、大丈夫。いつもの頭痛だから」
その二人を軽く手を挙げて制すと、元の位置に戻ってもらった。
「よかった。とりあえず大丈夫そうかな?」
天城(黒髪)がほっと胸を撫で下ろす。
「座って。ベッドでもソファでも」
天城(銀髪)も安心したように、俺にどこかへ座るように促す。
しかし、どこに座ろうか。
二人がベッドとソファにそれぞれ腰を下ろしているため、どちらかに座るのは気が進まない。
しつこいようだが差別感を生みたくないからだ。2対1のような構図になると1人の側が話しにくいことは俺自身、身をもってよく知っている。
結果としてどちらにも座ることなく、天城(黒髪)を左手に、天城(銀髪)を正面に見る形で壁に寄りかかる。
何やら言おうとした2人だったが、一言「大丈夫」と言うと言葉を飲み込んでくれた。
「それで、なんで俺は今日ここに呼ばれたんだ?」
「さあ?先生の指示だから私たちには・・・。でも先生がもう来ると思うけど・・・あ」
そこまで言ってから、天城(黒髪)がぱっと視線を走らせる。
その先には一台のパソコン。そこには監視カメラの映像のようなものが映し出されている。
そのうちの一つに、見覚えのある人影がちらっと写った。
「来たみたい。予定よりちょっと早かったかな」
どうやら先生が来たらしい。3人黙って来訪者を待つ。
コンコン ノックの音とともに、部屋に声が響いた。
「北見だ。入るぞ」




