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TSSS ~多重存在~ 3章

TSSS、3章です。

少々説明回っぽい部分が入りましたが自分なりにかなり短く抑えました。


何をやらかしただろうか。


それが、呼び出し宣告された時の率直な感情だった。


今となってはこうして生徒指導室に連れてこられて、北見先生と対面しているところだ。


しばらくの間、まるで新種の生き物でも観察するかのような目で俺を見ていた先生だったが、

俺が沈黙していると、ようやく口を開いた。


「・・・今、何か相談したいことはないか?」


「どうしてですか? 」


「どうしてって・・・それはその、あれだ。何か悩んでいるようだったからな」


俺と同じように感じている人が他にもいるのかと多少の期待を込めて聞き返したのだが、帰ってきたのは実にありがちな回答で、俺はため息をつくと、知らず知らずのうちに少し後ろにずれていた椅子に座りなおした。


「そんながっかりしたような顔をするな。恐らく君の悩みにこたえてやれると思うぞ?」



やはり何か知っているのだろうか。そんな考えが頭をよぎる。


もし読みが外れれば大恥をかくことは間違いないが、

少しの希望にかけ、俺は結局今朝からの不可解な出来事を、告白してしまうことにした。



------



「ほう・・・。やはり気が付いていたか」


「やはり・・・ってことは、先生もやっぱりあの子が天城とは別人に見えるってことですか?」


「まあ、そうなるな」



安堵のあまりずるずると椅子を滑り落ちそうになり、慌てて姿勢を正す。


同志がいたことはうれしいが、不可解な状況に変わりはない。


「えーっと・・・それで?」


慣れない敬語に言葉を詰まらせつつ先を促す。



「うむ、まあいいか。そろそろ潮時だな。

本当のことを言おう。今日君を呼び出したのは、この状況を説明するためなんだ。」


「説明・・・?先生には、この状況が理解できるってことですか?」


「その通りだ。もっと言えば、この状況を作り出したのも、ある意味私だといえる。」


「先生が、作り出した・・・?」



そこで先生は一呼吸置くと、言った。



「今日学校に来ていたあの少女、あの子に天城君の代わりに学校に来るよう言ったのは、私だ。」




------




扉を開けると中には熱がこもっていたようで、心地いい風が吹き付けてきた。


(しかし、妙なことになったなあ・・・。)


俺はあの後、信じがたいがおそらく真実であろうことを、語られることとなった。



その恐るべき内容を、改めて理解を促すように反芻していく---




---天城奏美。俺の小学校時代のクラスメートであり、高校で一緒のクラスになった、黒髪の女子高生。

 

そこに突如現れたのがあの銀髪の少女。本名、身元、出身地、国籍、年齢、何もかもが不詳の謎の少女だ。


彼女は俺の先生以外からは天城奏美だと思われており(見えており?)、先生の指示で天城の代わりに今日登校した。恐らく本物の天城は同じく先生によってどこかへ隠されているのだろう。


彼女たちはどちらもほとんどの人から「天城奏美」として認識されるが、俺や先生以外の人物にその二人が同時に認識されてしまった場合、その人物の、天城の存在自体の認識という最低限のものを除く天城に関する記憶と、その他の記憶の一部が失われる---





------と、まあ指導室にてこういった情報のやりとりがあって、俺の頭は絶賛混乱中である。



この狂った話にも驚きだが、何よりそれを意外にもすんなり受け入れてしまっている自分に驚いていた。



角を曲がると階段に差し掛かる。そこで初めて、自分がずっと歯を噛みしめていたことに気が付いた。


どうやら無意識のうちに気を張り詰めていたらしい。俺は手近にあった窓の鍵に手を掛ける。


パチっと小気味いい音とともにロックが解除され、俺は窓を開けてさんに肘をつき、身を乗り出した。



心地よい風を頬に感じながら、何の気なしに校舎下を見下ろす。



すると、下校する生徒集団から少し離れて天城の姿があった。



目を引く銀髪ショートをなびかせて歩いているので一目でわかる。



なんとなく、足が動いていた。とりあえず話がしたい。そう思った。



俺は階段をさらに降りると、下駄箱を通り抜ける。その足は次第に、小走りになっていく。


「天城・・・天城奏美!」


銀髪をなびかせる背中へと呼びかける。下校中の生徒たちが何事かと振り返るが、気にしない。



銀髪の彼女がゆっくりと振り返る。



彼女は、俺の知っている天城ではない。しかし---



---彼女はまぎれもなく、天城奏美。その人なんだ。




「おはよう。天乃谷玲次」


「おはよう。天城、奏美」



そんな、朝の二人の出会いをやり直そうとするかのような挨拶を交わす中。




何故か・・・いや、当然なのかもしれない。



あの時------もう一人の天城と再会を果たした、あの朝と同じ懐かしさを感じた。





------





話をして、分かったことがいくつかある。


まず、彼女達は同じ存在ではあるが、性格、口調、好きなものなど、ちっとも似通っていないということだ。


活発なイメージの天城(黒髪)に対し、銀髪の彼女は割と無口で、おとなしめな印象を持たれる子だった。


そして、彼女たちが暮らしている環境。


彼女たちのうち、「天城奏美」として生活していない方は、北見先生有する研究所的な場所で匿われているらしい。また、天城は幼少期に両親と死別しており、今は祖父母の家に住んでいるそうだ。


ざっとそんなところだ。こんなにリアルで人と話したのは久しぶりかもしれない。



今は天城と別れ、俺は一人で帰路に着いている。


時刻は6時。

このお気に入りの道は朝焼けは綺麗に見えるのだが、夕焼けは川とは反対側で、木々や建物に隠れて見えにくい。



銀髪の方の「天城」と話ができて、素直に良かったと思う。


先生の話を聞くうちに、彼女への罪悪感が募っていたからだ。


話をしてそれが解消できたし、現実をしっかりと受け止めることもできた。



同じ人間が、二人存在する。そんな状況が生み出されてしまった理由は、俺には見当もつかない。


しかし、それを見分けられる人間と見分けられない人間がいて、俺は見分けられる。


それに何か意味があるのか、はたまた運命や使命のような物なのかはわからない。


でも、俺にこの問題について考え、行動し、最善を尽くす「義務」がある。そういうことだと思う。



それなら、やるべきことは、簡単だ。





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