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TSSS ~多重存在~ 2章(下)


息を切らしながら走って駆け込みで電車に飛び乗り、優一を振り切った。


ったく・・・何を寝ぼけてるんだか。


朝から走ったせいでだるいし、あちこち関節が痛いし、もう散々だな。


学校に到着し、机上で気の抜けた猫のようにだらーっとしていると、少し落ち着いたからかどっと汗が出てきた。


「あー・・・あちい・・・」


熱を逃がそうと襟元をつまんでぱたぱたを風を送り込んでいると、不意に教室の扉が勢いよく開いた。


見れば、さっき振り切った友人がドアのところで仁王立ちしている。


流石は陸上部。電車1本分差があったはずなのに、到着早いな。



優一は入ってくるなり俺の方へ歩いてくると、体を支えるように机に腕を立てて俺に向かって捲し立て始めた。


「天乃谷君、さきほどの対応はなんですか。急に逃げて、どういうつもりですか。大体誰って。

彼女さんといったことに腹を立てたのなら謝りますが、それににしてもあの子にも失礼です。それに・・」


「まあ待て、ちょっと待て」


「・・・なんですか」



珍しく怒っている様子の優一。一旦それを制すと、大きくため息をつく。


なんだって朝からこんな目にあわなきゃならんのだ。



「俺にはお前の言ってることが分かんねえんだって。何であの子が天城なんだ?全然違う子じゃないか」


「そちらこそ何を言って・・・あ」


「ん?」



急に俺の後ろに視線を移した優一の視線を追うと、後ろの扉から朝の少女が入ってくるのが見えた。


「で、あの子が天城だって?」


再度雄一に向き直ると問いただす。


「え?そりゃそうでしょう。・・・もしかして、本気で分からないのですか?」


しかし逆に俺を心配するそぶりまで見せてくる優一。お、おいやめろ。俺はおかしくねえ。



しかしいったいどうなってるんだ・・・?寝ぼけてるわけじゃないようだし。


こめかみを押えつつ少女を見ると、少女はするすると机の間を抜けていって、「天城湊美」の席に座った。


(な・・・)


俺が驚きの色を隠せずにいると、爽やかスマイルが消えた無二の親友は、じっと俺を見定めるように観察している。


まずいな。本気で自分の頭を疑いたくなってきた。


もうなんか、昨日会ったあいつは夢で今いるのが本物なんじゃないかとすら思えてきた。


しかし見慣れない容姿だからか、少女に声をかけに行くのも気が引ける。


なんて躊躇していると、聴覚に突き刺さった強烈な刺激が俺の思考を遮った。


「ほら! もう時間だぞ。さっさと席に着けー!」

「おっと・・・それでは、また後で」


迷っているうちに先生が入ってきてしまい、声をかける機会を逸してしまったのだ。


まあ、いいか。ホームルームの後にでも確かめに行けば。



------



後で聞こうと思っていたが、手間が省けた。

例の銀髪少女に声をかけた女子がいたのだ。その子はこう言った。天城さん、と。


もう、なにがなにやらだ。授業中もずっと上の空で、ぼんやりと天城湊美らしき少女を眺めていた。


機械のように授業をやりすごし、そのままホームルームも終わろうかという時。

完全にシャットアウトしていたはずの聴覚に、なぜか妙に響く北見先生の声が飛び込んできた。



「えーそれから、天乃谷。HR後、私の所へ来なさい」



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