TSSS ~多重存在~ 2章(中)
翌朝、目覚めると手早く用意して、家を出る・・・というところで、そういえば、と気づく。
昨日まで、やたら早く来て待っている天城に時間を合わせるべく無駄に早く出ていたが、今日は、いや、今日からはその必要はない。
いや、むしろカチ合わないためにもいつもより遅く出るべきだろう。
俺はリビングに戻ると、リモコンを足で拾い上げてテレビをつける。
「あれっお兄ちゃんいるし。まだ行かないの?」
「居ちゃ悪いか。そうだな。今日からはもうちょっと遅く出ることにした」
「ふーんそう・・・」
そう由香が興味なさげに言ったところで、会話は途絶えた。
それはそうと、うちの親また夜勤?多くね?
なんとなく、昨日、一昨日と通った川沿いの道ではなく、もう1本の大通りの方を通ってみることにした。
・・・いや、なんとなくというのは嘘だ。
ただ、いつもの道を通ると、あいつがいないことが際立ちそうで嫌だっただけ。
たかが2日間一緒に行っただけで何を言ってんだって話だけどな。
まあ、俺が基本一人での通学を好んできたせいで経験がなかった影響もある。
俺、いつもどのくらいの速さで歩いてたんだっけ。
そんなことすらわからなくなってくる。
昔も・・・いや、そもそも一人で通っていた時代の方がずっと長かったはずなのに。
(バカか。俺は。自分で決めたことだろ。なよなよするな気持ち悪い)
そう自分を叱咤すると、ペースを上げて歩き出す。
「・・・ん?」
とそこで見覚えのある背中を見つけ、追い抜きざまに振り返る。
やはりそうだ。背中の主は女子数人に囲まれた両手に花・・・というか全身お花畑状態のの優一だった。
「あれ?天乃谷君じゃないですか。おはようございます」
「あ、ああ、おはよう」
俺が返事をすると女子集団が色めき立った。
くっ・・・この腐女子どもが・・・。
彼女の噂より昔、中学時代から不本意なうわさが立てられているようで、優一は気にしていないようだが俺にとっては迷惑以外の何物でもない。
そのためできれば捕まりたくなかったのだが、こうなっては仕方ない。
女子集団を睨みつけて牽制すると、俺は優一の隣に並んだ。
「相変わらずだなーお前。その営業スマイル」
「営業スマイルではないですよ。面白いことを言いますね」
「何も面白くねえよ」
「そうですか? じゃあそういうことにしておきましょうか」
こいつはいつも腰が低い。争わない主義なのか、相手に非があってもいつも営業スマイルで相手をなだめている。別に臆病なわけではない。たとえいざこざになっても問題ないほどの腕っぷしの強さをこいつは持っている。
気に入らないことだが、俺がこいつと友達になったのは、
例の格闘家気取りの同級生から助けてもらったことがきっかけだったほどだ。
すごかったな・・・あの時は。あの時初めて、こいつの素顔を見た気がした。
------人の痛みが分からない低能者が・・・
あの時の優一の言葉を思い出す。こいつの目を見て、ゾッとしたことを覚えている。
そんな優一だが、俺の隣を見て営業スマイルを少し崩した。
「あ、おはようございます」
「・・・おはよう」
いつの間にか俺の隣を歩いていた少女と、挨拶を交わす優一。
銀髪ショートカットという非常に目を引く髪をしている。外国の子なのかな?
まあ大事なのはそこじゃなく、さっと挨拶をかわすところを見ると割と親密な仲なのだろうか?
俺の知らないところでこんな変わった少女と交友関係を築いていたとは。気に入らんな。あ、変な意味ではなく。
「お前の知り合いか?」
「え? 知り合いというか・・・まあ、知り合いでしょうか・・・というかそれ以前に、天乃谷君の彼女さんでしょう? 」
・・・は?
「まあ冗談はさておき、朝から一緒に登校とは、お熱いですね」
「何を言ってんだ・・・?その子、誰なんだよ?」
「誰・・・?天乃谷君こそ何を言って・・・。天城さんでしょう?」
・・・? ちょっと、こいつおかしいんじゃねえか? あいつとこの子、似ても似つかないじゃないか。
よくわかんないが・・・冗談だとしても面倒臭いな・・・。・・・。・・・・・・。
「あ、ちょっと俺宿題学校に忘れてたんだった。急いでやんないと。先行くな」
「え?あっ・・・天乃谷君!?す、すみません、天城さん」
呼び止める声を背中で受けつつ、とりあえずその場から逃げだすことにした。
まあ、たぶん寝ぼけてるんだろう。
そういえば、結局あの子は誰だったんだ?制服は高校だった・・・けど優一はタメっぽかったな。(優一は同じ敬語でも同年代と先輩では少しイントネーションが違うのだ)
同学年なら、今後知り合う機会もあるかもしれないし、機会があれば、今回のことも謝りに行くとするか。




