TSSS ~多重存在~ 2章(上)
次の日。家を出て天城と合流し、学校について、授業を受けて、
そして帰ろうとしたところで、部活勧誘と遭遇した。
「あ、天乃谷君。部活はもう決めましたか?」
「ん?おう、何気に一週間ぶり?」
いま声をかけてきた、こいつは俺の中学時代のクラスメートで親友、斎川優一だ。
同学年にも常に敬語、間延びした声からはのんびりとした印象を受け、誰からも親しまれている爽やかイケメン君だが、実態はかなりの変わり者だ。
「まだ決めていない?それなら、陸上部に」
「入らない!!」
「・・・さいですか」
「ったく。もう個人競技は勘弁なんだっつーの」
そう、俺は中学時代は水泳部に所属していた・・・のだが、どうやら個人競技は向かなかったようで、
すぐに飽きがきてしまった。スポーツ自体は好きなんだがな。
「でも天乃谷君、足速いじゃないですかぁ。駅伝のメンバーが足りなそうなんですよーこの学年。どうにか頼めませんかね・・・」
「はあ、いるだろ?そんなもん」
「ところがこれがそうでもなくてですねー、長距離を走れる方が僕ともう1人しかいないんですよ」
「なんでだ?中学では4人そろってたろ?」
「いや、ところがそのうち2人が高校進学適性検査試験に落ちたようで・・・。
まあ陸上漬けで勉強も全くしていなかったようなので」
「へー、大変だなー」
今出てきたやたら長い名前の試験は、その名の通り高校に上がる適性があるかどうかを量る試験だ。
ほとんど落ちることはないらしいが、まれに落ちるやつもいるようだ。それが2人って・・・。
まあ例の不良生徒のように内申で落とされる場合もあるのだが。
まあどちらにせよ俺の知ったことではない。駅伝?知ったことか。
速いとは言っても所詮は素人レベル。恥をかく事になるのは目に見えている。
「あ・・・。天乃谷君?考えておいてくださいねー 」
呼び止める優一を無視しつつ、歩き去る俺。
と、そこへ背中から奴の聞き捨てならないセリフが飛んできた。
「ああ、そういえば風の便りで知ったのですが、彼女さんができたらしいですね。今度私にも紹介してくださいね」
「・・・は?」
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一応否定はしたがいつもの爽やかスマイルで相手にされないので、帰宅後天城に、
「なんか俺達の噂立ってるみたいだから、明日から別々に行くぞ」
とだけ打つと、ベッドに横になる。
彼女、か・・・。
考えてみれば天城は顔も可愛いし、性格も悪くない。
俺みたいな平凡男子高校生があいつの彼氏扱いされるのは、もしかしたら名誉なことなのかもしれない。
しかし、心のどこかで何か、あいつへの警戒心、みたいなものが燻っているのだ。
別に何かを疑っているってほどではない。
しかし、向こうが俺との距離を詰めてくることが、何か腑に落ちない。
何故ならあいつと親しくしていた覚えもなければ、中学時代に交流した覚えもないからだ。
(それでいてあの感じで来られても、困惑するよなぁ・・・)
まあ、これ以上答えの出ない自問自答を繰り返しても不毛だろう。
俺は目を閉じると、襲い来る睡魔に身を任せた。




