TSSS 8章 (上)
ダシの出しすぎ。味がえぐくなります。
「うぐっ、ま、不味い・・・おえぇ…」
奥にキッチンルームがあったのでひとまず夕食づくりにチャレンジしたものの、雑炊すらもひどい出来だ。
何が原因かわからないが、なんというか、味がえぐい。言葉では言い表せない不味さだ。
こんなものを病人に食べさせるわけにはいかない。しかしもう6時になる。あまり試行錯誤している時間もない。
しかし残念ながら天城の家は門限に厳しいらしいし、先生も体育祭が近く忙しいそうだ。
こんな時頼れるのは・・・うん、それしかない。
この間天城(銀髪)の写真などはこの部屋にも一枚もないと言っていたし、大丈夫だろう。
先生曰くここの研究員が入ったこともあるそうだ。そこからも、片方しかいなければ危険はないのだろう。
俺は携帯を起動させて、ある人を呼んだ。
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「ちょ、この建物怪しすぎ・・・マフィアのアジトみたいな感じ・・・」
「何だ怖いのか?」
「そんなわけないでしょうが!何歳だと思って・・・ひゃぁっ!?」
「あ、そこ気を付けろよ」
「先に言えやっ!」
と言う訳で、久々の登場。妹の由香です。2人合わせて天乃谷兄弟です~ど~も~。
「んで、ここにその病気の子がいるのね?」
「そう。ただ俺には看病とかだいぶきつい・・・というか飯とか作れないんで、頼むわ・・・」
「まあいいけど・・・ってドア多いわ・・・なにここ秘密基地?」
「んなわけあるかい・・・まあ、諸事情ありましてですね・・・」
「ほんともう・・・まあ友達の家に泊まるって言ってきたからいいけど・・・」
「え、何どこに泊まるのお前?」
「え、そういう話じゃないの?」
「「・・・え?」」
…どうやら、致命的な勘違いがあったようだ。
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「ぅん・・・あれ?天乃谷?なんでいるの?」
「看病に来たんだよ。覚えてない?」
「う、うん・・・覚えてない…かも」
「いま妹に飯作ってもらってる。食べられそう?」
「あ、うん。熱下がったのかな・・・。少しお腹すいてきたかも。いい匂い・・・」
「妹の作る飯は上手いから安心していいぞ。俺が保証する」
目を覚ました天城に断言していると、由香が大きな鍋を抱えて出てきて、食卓にどんと置いた。
「なんでお兄ちゃんがドヤ顔で私の自慢してんの・・・意味わかんないし」
呆れ顔でそう言う由香に微妙な笑みを送ってから、天城に向き直る。
「大丈夫?立てる?」
「うん、大丈夫・・・。妹さんまで来てもらって、ほんとごめん、ありがとね」
「大丈夫大丈夫、どうせこいつ暇だから」
「おいそこの兄貴ちょっとツラ貸せや」
「息ぴったりだね・・・なんか羨ましいや」
いつもの元気いっぱいな天城は影を潜め、やはりどこか元気がない天城。
心配だけど・・・
「とりあえず食おう!由香ー早くー早くー」
「子供か!自分で勝手に食え!」
3人いると雰囲気も明るくなって、いいもんだな。3人寄ればなんとやら・・・って、それは違うけどな。
「美味い。流石我が妹。もう嫁にしたい」
「何言ってんのマジで・・・」
「あはは、なんかいつもとキャラ違うね玲次」
アットホームな雰囲気に当てられたか、天城の前だというのにいつの間にか素になっていた。
「はは・・・家ではだいたいこんな感じなんだよな。どうも外だとかっこつけちゃってダメだわ」
「えー?学校ではどんな感じなんですか?兄って」
尋ねた由香に口に指を当てて考えながら、天城も返す。
「うーん・・・なんというか、ちょっとクールな感じ?かな」
「あーでも家でもそういう時あるー!なんか勘違いしちゃってる感じのクールぶった態度とかww」
「ちょ・・・ひでえ・・・。流石に凹むよ俺」
時刻は8時前くらい。談笑していると、由香が「トランプかUNOやろうよ!」なんて言い出した。
多分修学旅行みたいな気分で浮かれているんだろう。天城も、両方あるよーなんて言って引き出しからカードの束を取り出す。
「まあいいけど、イカサマすんなよー由香」
「し、しないっての!昔のこといつまでも言わないでよ!」
「昔のこと?」
首をかしげる天城。
「ああ、こいつ昔大富豪のカード自分だけ超強くして圧勝したことあるんだよ。ジョーカー2枚、2が4枚みたいなね」
「それはバレるねwでもかわいーじゃんそれ」
「や、やめてくださいよー、天城さんまで・・・」
俺は苦笑しながら、笑う天城を見る。いつもの快活な笑顔が戻り、何より楽しそうだ。由香を連れてきて正解だったかな。
俺はいくらか安心しながら、配られたカードを手に取った。