プロローグ
TSSS~多重存在~ のプロローグです。
プロローグにしては分量がありますが所詮プロローグです。話進みません。
改行等不慣れで読みにくいかもしれませんが、ご指摘よろしくお願いいたします。
特に何もない、ごく普通の火曜日、と言いたいところだが、今日は入学式。
中高一貫校のおかげで難なく高校デビューを果たした俺、天乃谷玲次は、
いつもに増して重い体を引きずるように歩いていく。
人込みを避けるためいつもより30分ほど早く家を出たため、今は朝の6時過ぎ。
俺の家から駅までの一本道、のどかで風景もきれいなため気に入っているのだが、駅までは少し遠回りになるため特に朝は人気の少ない道だ。
まあ、そんな訳で人などいないだろうと思っていたのだが・・・。
道の端、柵のそばに人影が見えた。
太陽が川の向こうの堤防から顔を出し始め、角度的には逆光に近い形になるため、よく見えない。
が、どうやら立ち止まっているようだ。
この川沿いの道は確かにいい場所だが、駅からも少し外れていくような道、しかもこの時間、
ましてやこの辺りは本当に何もない。(もう少し行けば公園があるにはあるのだが。)
そんなところで立ち止まっているのだ。不思議に思うのも当然だろう。
もしも植物と心の通じる少女が道の脇に生えた花と話でもしているというのなら、
まだファンタジックでいいと思うが。しかし残念ながら、現実にそんなものはない。
そんなことを考えながらも足は止めない。だから必然的にその人物との距離は縮まっていく。
だんだん影が大きくなってきた。どんな人だろう、と、目を凝らす。
どうやら・・・女だろうか。逆光でその程度しかわからない。
そしてさらに距離は縮まる。だんだんと、容姿が分かってくる。
柵に軽く寄りかかり下の川を眺めている彼女の、朝焼けに黒く魅惑的に光る髪。
その髪が少し乱暴にしたら折れてしまいそうな体躯とも相まって、朝焼けのなかで何とも言えない儚さと美しさを演出していて。
いつの間にか俺の足は止まっていた。立ち止まって見ていた俺に彼女は気が付いたのか、ゆっくりと振り向く------
と思った瞬間、世界が暗転&、回転した。
------
ゆっくりと目を開ける。目の前に広がるのは朝焼けの空・・・ではなく、見慣れた自室の天井。
・・・つまり、さっきのは。
「また夢オチかよっっっ!!!」
高一になっても相変わらずこんな夢を見る自分の脳に絶望しつつ、時計を見る。
なんと、5時過ぎだ。普段はこんな時間、起きようとしたって起きられないのに。
俺はため息をつくと、再度布団へもぐりこんだ。
・・・のだが、なぜか春先特有の寝起きの悪さが今日は発揮されず、いつまでたっても目が冴えたまま。
仕方なく、俺はベッドから降りると、階段を降り、洗面所へ向かった。
さっきからずっと心の奥に引っ掛かりのようなものを感じる。今朝の微妙な夢のせいだろうか。
顔を洗えばすっきりするかと思ったが、その感覚は依然残ったままだ。
外を見るが、まだ薄暗い。なんせ5時だもんな・・・辛い。
家族はまだ寝ているのだろうか、我が家は静けさに包まれている。
あまりにも物音一つしないせいでなんだか耳鳴りがしてきた。
頭を振って振り払うと、ソファーに腰を下ろす。時計を見るも、まだ5時10分。
今からすぐに準備して出ようものなら、校門前でまちぼうけを食らいかねない・・・いや、確実に食らう時間だ。
(どうしたもんか・・・)
そうやってぼーっとしていると、2階でかすかな物音がした。
静かなせいか、いろんな音が聞こえる。
ベッドの軋む音、床に足がついた音、歩くたび軋む床の音、そして、ドターン、と大きな音。
うわ・・・コケたな。
少し間をおいて、階段を下りてくる音が静まった聴覚に響く。
降りてきたのは、我が妹、由香だった。鼻が赤くなっている。
「お前・・・顔打ったのか・・・」
「うっさい黙れ忘れろというか永遠に忘れさせてやろうかぁ!」
理不尽な!
険しい表情で鼻を押えていた妹だったが、話しかけたら元気になった。うん、愛の力かな。
「は、バッカじゃないの高校生にもなって何言っちゃってんの」
「あれ、心読まれた」
「ほんと昔っからモノローグが口からダダ漏れ。いい加減学習したら?」
「うん、まあそれで、大丈夫か?」
由香の説教を右から左に受け流しながら、一応確認。
「っ、ま、まあ別に平気だけど」
「そっか、ならいい」
暇なのでそのまま様子を見ていると、由香はダイニングの前に立った。
「何してるんだ?」
「ん?ああ、片づけよ片付け。昨日のね」
「え、なんで?」
聞くと、我が妹は、あーなるほどねぇ~、なぁーんだ・・・と表情をくるくる変えてから、言った。
ん?なんか最後がっかりされた?なんで?
「昨日お母さん夜勤でしょ?それにまだ帰ってないし。だから今日は由香が朝の仕事をね」
あーそういえば、昨日の夜母さん出かけてたな。
そんな感じの事もいわれてた気がする。
「よっこらせ・・・っと」
俺は重たい腰を上げると、由香の隣に並んだ。
由香は最初驚いたような顔をしていたが、やがてふっと笑みを浮かべると、せっせと手を動かし始める。
「じゃ、お兄ちゃん下洗いしてすすいでね」
「え、いやそれ全部じゃん」
「いやいやそんなことは。ほら、食洗器入れたりとかさ、あと食洗器入れたりとか」
「いやそんだけじゃん」
「ああもううるっさいなあ!レディに水仕事させるんじゃないわよ!手が荒れるでしょ!」
「由香お前、絶対主婦向いてないな・・・」
やっぱり、手伝うんじゃなかったかな・・・。
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お互い適当にスマホを弄りながら朝食を貪り、時刻は6時40分。
そういえば思い出したが、親は確か朝7時ごろ帰るとか言っていたか(妙な時間だな)。
ラッシュに巻き込まれるのも嫌だし、手早く支度を済ませる。
「行ってきまーす」
「あれ?もう行くの?早いんじゃない?」
「ああ・・・まあな。入学式の日くらい早く出たって罰は当たらんだろ」
「ふうん・・・じゃ、いってら」
「おう」
そっけない言葉に短く返事して、俺は玄関の扉を開いた。
その瞬間、身を切るような冷たい風が吹き付けてくる。
もう春だというのに容赦の無い寒気に思わず身震いすると、駅に向かって歩き出す。
そして間もなく、前方に2つの人影を見つけた。
---いや、見つけてしまった。
あれは中学時代の知り合い・・・そして、高校進学を許されなかった異端者。
要は、問題児である。
まあ、性格は陽気でそんなに悪い奴ではない・・・と思うのだが、何せすぐに手が出る。
中学時代も犠牲者は後を絶たず、しかもボクシングだったかをやっているせいで相当に強く、
結局ほとんど誰も止めに入ることができなかった。というかほとんどの人が見て見ぬ振りか。
別にそれを恨んだりするわけじゃない。俺だって同じ立場ならそうしただろう。
ただ家が近かったせいで関わりがあったのが、運のつきだったということだろうな。
もう1人はよく知らないが、新しい学校での友達か何かだろう。
まあ、要は関わりたくないので、追い越すのは望ましくない。
しかし、奴ら相当だらだらと歩いているため、普通に歩けば追い越してしまう。
というわけで、導き出される結論は・・・、
遠回り、すべし。
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というわけで、入学式の今日、朝の騒動のせいで疲れた体を引きずるように、俺は歩いていく。
人込みを避けるため、いつもより30分ほど早く出たので、人などいないと思っていたのだが・・・、
道の端、柵のそばに人影が見えた。
太陽が川の向こうの堤防から顔を出し始め、角度的には逆光に近い形になるため、よく見えない。
が、どうやら立ち止まっているようだ。
この川沿いの道は確かにいい場所だが、駅に行くには少し遠回りになる道、しかもこの時間、
ましてやこの辺りは本当に何もない。(もう少し行けば公園があるにはあるのだが。)
そんなところで立ち止まっているのだ。不思議に思うのも当然だろう。
もしも植物と心の通じる少女が道の脇に生えた花と話でもしているというのなら、
まだファンタジックでいいと思うが。しかし残念ながら、現実にそんなものはない。
そんなことを考えながらも足は止めない。
だから必然的にその人物との距離は縮まっていく。
だんだん影が大きくなってきた。どんな人だろう、と、目を凝らす。
どうやら、女性だろうか、逆光でその程度しかわからない。
そしてさらに距離は縮まる。だんだんと、容姿が分かってくる。
柵に軽く寄りかかり下の川を眺めている彼女の、朝焼けに黒く魅惑的に光る髪。
その髪が、少し乱暴にしたら折れてしまいそうな体躯とも相まって、朝焼けのなかで何とも言えない美しさと儚さを演出していて。
いつの間にか俺の足は止まっていた。
立ち止まって見ていた俺に彼女が気付いたのか、ゆっくりと振り向く------
------鼓動が速くなるのを感じる。いつの間にか感じなくなっていた引っ掛かりを再度覚える。
なぜだろうか。この光景が、情景が、どこか見覚えがあるもののような気がして。
ひどく懐かしいような、切ないような。それでいて空虚な感情が俺の中を駆け巡り------
------俺は、立ち尽くすしかなかった。
プロローグ 完