表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/27

スライムのコミュニケーション能力

 ハルトたちは出口を目指していた。

 先導するのはスライム侍の林。

 ぽよんぽよんと器用に跳ねながら前を歩く。

 それを見ながらハルトは「足がないのに歩……まあ気にしたら負けだろう」と余計な事を考えていた。


「地下三階に人間の陣がある。その直前までは案内してやろう。もぐもぐ」


 「もうちょっとちょうだい♪」とハルトにしつこくねだってゲットした手付けのビスケット(二度目)を幸せそうな顔でむしゃむしゃと頬張りながら林が言った。

 どうやら林は食べ物に弱いようだった。

 いやスライムという種自体が食べ物による買収に弱いのかもしれない。


「なあ林。お前の仲間も食べ物好きなのか?」


「変な質問だな? 食べ物が嫌いなものがいるはずないだろう? ただこのお菓子があればみんな喜んだだろうなあ」


 そう言いながら林はハルトをチラチラと見る。


「残りは約束を果たしてからだ」


「しょ、しょんなー! 一口、一口くだしゃい!」


「ダメ」


 絶対コイツは一口と言いながら殆どを食べてしまうタイプだ。

 その期待のあまりキラキラ輝いた目が信用出来るか!

 隙を見せたら食われてしまう。

 ハルトは確信した。

 しかもこのいい加減さから考えるにビスケットを食べたら「じゃあなとっつぁん!」とばかりに華麗に逃げ出すように感じられる。

 ハルトはポケットをそっとガードした。

 妙な緊張感が発生しながらハルトたちはダンジョンを昇っていく。

 不思議なことにそこにモンスターの姿はなかった。


「ずいぶんモンスターが少ないんだな」


「たわけが。同心仲間に見つからないようにわざと裏口を歩いておるのだ」


「なるほどな。なんでお前ら人間と戦ってるんだ? 話し合えばいいだろ?」


「……この阿呆が。お前以外の人間に話が通じたことなどないわ」


「え?」


「お互い会話ができぬのだ! 言葉が通じぬのだ」


「じゃあなんで俺はお前と会話出来るんだ?」


「こちらの方が聞きたいわ! お前が言うとおり話し合うことさえできれば我らも争わなくていいかもしれぬな……」


 林はごにょごにょと言った。

 ハルトは林の評価を「変なヤツ」から「いいヤツ」に改めた。


「お前スッゲーいいやつだな」


 ハルトが素直にそう言うと林は顔を真っ赤にした。


「うるしゃい!」


 そして噛んだ。

 ハルトは笑いをかみ殺しながら、


「林。飴いるか?」


 と今度は飴を渡す。


「うわーい飴ちゃん♪ って貴様ぁ! そ、それがしをバカにしてるんだな!? バカにしてるんだな!?」


「シテナイヨ」


「嘘つきがいるー! ……だがな溝口。言葉が通じても話が通じぬ相手もいること忘れるな。もし運悪く筆頭同心の磯矢様に出会ったら……」


「出会ったら」


「あきらめろ」


「……」


 なんだかヤバい生き物がいるらしい。

 なぜこうなった!

 ハルトは軽い怒りを覚えた。


「でもなあ。磯矢様もなるべく殺生は避けているのだがな……『人斬り』などと陰口を叩かれてしまってお可哀想に」


「そうなのか? じゃあ話し合いでどうにかなるんじゃないか?」


「それとこれとでは話は別だ。我々同心は足軽、我らが出世するには戦で手柄を立てるしかないのだ」


「どちらにせよ会ったらヤバいって事だな」


「うむ。命までは取られぬ……と言いたいところだが、その……なんだ……磯矢様は手加減が非常に苦手なのだ」


(なるほどアホの子か……)


「失礼なことを考えていただろ」


「なぜわかる!」


 思いっきり顔に出ているのだがハルトは気づかない。


「わからいでか! このうつけが! 拙者も危ない橋を渡っているのだからな。その辺を理解しろ!」


「おう悪かった」


「素直でよろしい!」


 そんなやりとりをしながらハルトは地下三階に上がっていく。

 二人は気が合うのか、まるで10年来の友人のようだった。

 これも林のコミュニケーション能力が高いせいだろう。

 三階に上がっても同じ風景が広がっていた。

 迷宮の効果、わざと迷わせるためにわざと同じ風景が続くようにしたのだろう。


「驚いただろう。どこも同じなのだ。そのせいか迷子が多くてな……拙者は身分は同心だが実際の仕事は迷子の案内なのだ」


 ハルトはこれ以上ないほど納得した。

 林が戦闘の役に立つとは思えない。

 後衛の回復役かサポート役だと思っていたのだ。

 迷子の案内なら納得である。


「また失礼なことを考えておるな?」


「ぜんぜん」


 ハルトは素直に感心していたのである。

 ハルトもこのダンジョンから一人で脱出できる自信はないからだ。

 それに他のモンスターの役に立っているのだ。

 ハルトよりは大分マシだ。


「いや林は偉いなと思ったよ」


「お、そうか? ふふふふ」


 なぜか林は上機嫌になった。

 フロアには生き物の気配はしない。

 やはり敵はいないようだ。

 このまま無事に出られそうだとハルトは思った。

 それにしてもこのダンジョンは思ったより広大なようだ。

 なにせ住民が迷子になるくらいなのだ。


「なあ林、このダンジョンって広いよな?」


「ああ。一階から三階層までは上野一帯から浅草にかけて広がっている。それより下はもっと広い。深さは同心では情報がないからわからん」


「人間が制圧してるのは?」


「三階までのごく一部だ。我々スライムやゴブリンの町民が住んでる地域がここ100年ほど抵抗を続けているそうだ。磯矢殿がいなければお前がいた四階まで人間の兵の侵入を許したかもしれないな」


「なるほど」


 どうやらハルトが思っているよりも人間側は有利ではないようだった。

 林が良いヤツでよかった。

 とハルトが安心したその時だった。


 金属の弾ける音が迷宮内に木霊したのだ。

次回戦闘

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ